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【またも、会社の金庫から現金××××万円が盗まれる事件が発生しました。
都内、神室町にある株式会社××の担当者が昨夜金庫内を確認したところ現金が無くなっていることに気がつき警察に通報したとのこと。
警察の調べによりますと、仮面の窃盗団である可能性が高いと見て今後も捜査にあたると取材に応じました。】
神室町とは、日本最大の歓楽街であると同時に治安の悪さも有名である。
ここを拠点にしているのはなにも我々のような会社員だけではなく、むしろヤクザや半グレやタチの悪い若者の方が割合としてとても多く潜んでいる街である。
この街に一体どれだけそういった人間がいるのか、きっと誰も把握していないだろう。
闇夜に紛れて薄暗い路地や、ビルとビルの隙間に潜んで引き摺り込もうとする危ない人たちはいる。
そして、近頃そんな危険と隣り合わせの街を賑わせているのは"窃盗団"と呼ばれるグループだった。
「え"っ、また金庫から全部盗まれてたんですか?」
「らしいね」
「…あるとこにはあるんですねぇ、お金」
「でもまぁあの会社は訴えられないだろうね」
「ブラック企業で?給料未払い、パワハラセクハラ、あとなんだ?横領もあったんだっけか。
叩けばいくらでもホコリが出るな」
本日の八神探偵事務所はヒマだったらしい。
2人揃ってウチに仕事の打診に来たのかと思えば、気付けば来客用ソファで星野先生と世間話をしている。
いや駄弁っているの間違いか。そして彼らに混じって話し込む星野先生もサボりだ。
ちなみにそんな彼らを厳しくまとめてくれるはずの源田先生は新谷先生と共に今日は不在である。
私とさおりさんはひたすらキーボードを押しつつ、聞き耳を立てているような状態だ。
少し前からこの街は妙なザワつきを見せていると思っていたら、そんなことになっているとは。
小さいタブレットから聞こえるニュース原稿を読む男性の声に、やはり物騒な街なんだなぁと認識を改める。
確かに出勤すると道に人が倒れているのが日常だもんな、この街。
初めて見た時は救急車!と慌てて近寄ってみると、酔っ払ったホストで馴れ馴れしく触られたりして結局なんともない、なんてことも多かった。
今そんな様子を見てもスルーしてしまうくらいには慣れた自分。この街に染まってしまっているのかもしれない。
「その窃盗団が一般人に手ェ出したとかは聞いてねえから危険は無いと思うが絶対じゃねぇからな。
気をつけろよ。特に女性陣2人!」
「え?はい」
「気をつけます」
突然の飛び火に心構えができておらず、反射的に適当な返事をしてしまう。
さおりさんは顔色ひとつ、むしろ瞬きもしていないくらいに微動だにしないまま口だけが動いていて、なんかさすがだなって納得してしまった。
「なまえちゃんはまぁ大丈夫か」
「え、なんでですか?怖いですよ」
「なまえはぶん投げられるだろ?」
「そうそう、なまえちゃんなら勝てそうだしな」
「そんな人をゴリラみたいに…」
「だって海藤さん投げたじゃん」
「ター坊に一発入れてたしな」
確かに多少の心得はあるって話したけど。
試しにやってみてくれよってニヤニヤしている海藤さんをぶん投げたけど。
酔っ払ってたのは2人だし、こっちは言われたからやったのに。
ゴリラだと思わないでほしい。
「否定はしませんけど。
………ニヤニヤしないで。むかつく」
「ハハ…わりぃわりぃ」
「なまえが怒ると怖いからな」
「…なまえをいじめないでください」
「そうですよ、お二人!なまえさんはウチの最強事務員さんなんですから!」
「なんか結果的にダメージ受けてるんですけど…」
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「さっきの窃盗団の話だけど、怪しい仮面のやつがいたらすぐに逃げろよ。俺たちに電話してくれていいから」
「おう!すぐ駆けつけるからな!」
「………仮面つけて歩いてる時点でかなり怪しいですよね。
そもそもついても行かないし、見かけた時点で距離取るので大丈夫ですよ」
「………たしかに。」