ハルカナ約束


しとしとと嫌な雨が朝から断続的に夜の今までずっと降り続いている。
雨雲が邪魔をし月や太陽は、ここのところ顔を見せた記憶がない。

そして案の定、窓を開けても湿っぽくじとじととした冷めた空気が頬を撫で付けるだけで不快なこと、この上なかった。
七子は自室の大きな窓から外を見つめる。

どんよりとした空模様に気分まで憂鬱になるようだった。

「はあ……」

自室の椅子に座り、頬杖をつきながら外を眺めていても気分が晴れるという訳もなく、七子は大きなため息をつく。

思ってみれば、最近溜め息が増えた気がしないでもない。

その理由は、七子自身が一番よくわかっていた。
原因はただ一つ。

──そう、恋煩いである。

七子には好きな人がいるのだが、その相手というのがまた厄介な人物で、身分も違えば住む世界が違う。

(何もかも違いすぎるのよ……)

自分のような人間では到底釣り合わないことは重々承知している。
だがそれでも好きになってしまったものは仕方ないのだ。

「諦められれば、こんなんじゃないのにね」

だからといって簡単に諦められるほど薄っぺらい想いではない。
どうしようもない気持ちを抱えて日々悶々と過ごしていた。

──コンコン。

不意に扉の向こう側から小さくノック音が聞こえた。

「おい、七子居るか?」

次いで部屋の外から聞き慣れた声がする。
それは七子にとって誰よりも大切で愛しい人のものだった。

「え、淳様! しょ、少々お待ちください!」

慌てて立ち上がりドアノブに手をかける。
勢い良く開けたくなる衝動を抑えつつ、ゆっくりと静かにドアを開けると、そこには予想通りの人物がいた。

淳は、いつものように少し不機嫌そうな表情をしているもののどこか緊張した面持ちだ。
彼はそのままずかずかと部屋に入ってくるなり、後ろ手で乱暴に扉の鍵をかけた。

ガチャリという音がいやに大きく響いた。

「あ、あの……適当にお掛けになって下さい」

「ああ、ありがとう」

突然訪れた主人に対して七子は何事もなかったかのように振る舞うが内心穏やかではなかった。

心臓の鼓動が激しくなる一方で、冷静になれと言い聞かせる。

そんな様子を知ってかしらずか、淳は素直に従いベッドの端へと腰掛けた。
二人きりの部屋の中は妙な雰囲気に包まれていた。

「ええと、どうされましたか?」

「こんな時間に」と付け加えて質問を投げ掛ける。

すると淳は不貞腐れたようにそっぽを向いて、彼女の質問に答えた。

「七子に会いたくなった」

照れ隠しなのかぶっきらぼうな言い方をする淳だったが、七子にとっては嬉しい言葉だったようで彼女は顔を綻ばせる。

「あと、大事なことを言いに来た」

しかしすぐに真剣味を帯びた声で告げられた内容によって緩んでいた口元を引き締める。

一体何の話だろうか?

七子は不安げに彼の顔色を窺う。
そんな彼女を尻目に淳は真っ直ぐに見つめると意を決したのか話を切り出した。

その瞳の奥には強い意志が見える。


「……俺はやっぱり、七子、お前が好きだ」


思い切って告白したものの、七子の反応を見るのが何とも恐ろしいらしく視線を合わせようとしない。

だがそれでも言わずにはいられなかったのだろう。

今にも逃げ出してしまいたい気持ちを押し殺して、七子の返事を待っている。


一方の七子は、一瞬何を言われたのか理解できなかったようだ。

だが徐々にその意味を理解していくにつれ、みるみると頬が赤く染まっていく。
そしてついに耐えきれなくなったのであろう、両手で頬を押さえながら俯いてしまった。

まさかの事態に頭が追いついていないらしい。


「あ、わ……たしも、です」


そしてようやく絞り出すようにして出てきた返答がこれである。

「で、でも……!」

七子の口から飛び出したのは否定の言葉だった。

どうして自分は、この人を好きになってしまったんだろう。
身分も違うし住む世界だってまるで違うじゃないか、とそう思う度に七子の心は苦しくなっていくのだ。

「当主と使用人。確かに、壁は大きい」

七子が悲しげにそう呟けば、淳もまた同じ気持ちだったのか同意するようにそう言った。

その事実は七子にとって、とても辛いことだった。
身分の差というのは、どう足掻いても埋まることはない。

「でも俺が七子を認めれば……いざとなったら駆け落ちでもすれば良い」

淳の発言に七子は大きく目を見開いた。

それはあまりにも突拍子のない提案で、普段の彼女なら一笑に付すようなものだ。

だが、今の七子にはとても魅力的なものに思えた。
淳の言う通り、もし彼が七子のことを本気で愛してくれるならば、どんな障害も乗り越えられる気がしていた。

「……私、今までずっと我慢してました。でも貴方にそう言われたら、もう駄目です。後生です、どうか淳様……」

七子は懇願するような眼差しで淳の顔を見た。
その表情は、いつになく弱々しいものだった。


その瞬間、淳の中で何かが弾けた。
それは理性という名のストッパーが外れた音かもしれない。

彼は七子の腕を掴むと、そのままベッドに押し倒した。

「七子、悪い癖出てるぞ……二人の時に敬語は駄目だろう」

いつもより低い声でそう囁いた淳の顔は、ランプシェードの柔らかい明かりが逆光になっており見えなかった。
それでも淳が自分を求めていることは痛いほど伝わってきた。

すると淳は、七子の艶やかな髪を撫でる。
優しく丁寧に壊れ物を扱うような手つきで、それが心地よくて、もっと触れてほしいと思った。

すると七子に跨っている淳は、彼女の着ているパジャマの上から太ももを擦る。
そしてその骨ばった手が、滑るようにして上へと上がっていく。

服一枚しか隔てていないのに、まるで素肌に直接触られている感覚に陥る。

「くすぐったいよ、淳」

それだけではなく淳の手が動くたびに身体が熱くなり、呼吸が荒くなる。
今まで感じたことのない快楽に襲われ、七子は戸惑いながらも身を捩らせた。

「これぐらいは、余裕って訳か?」

淳は七子の反応を見て面白くないと感じたのか、彼女の首筋に唇を寄せると強く吸い付いた。

「そう言うことじゃ……っん」

七子の首元には赤い花びらのような痕がついたのを、淳は満足げに眺める。

そしてそのまま首筋から舌を這わせると、彼女の耳元に口を近づけた。
彼の熱い吐息がかかるだけで、七子はぞくりと背筋が震える。

「……ぁ、はぁ……」

淳はそのまま七子に覆い被さるような体勢になると、彼女に口付けた。

キスをしながら上へと滑った手は服の上から膨らみを揉んだり器用に動いたりしながら、パジャマのボタンを外していく。

そして胸を覆う下着へと到達すると、背中に手を回してホックを外した。

そして露になったのは、白く艶かしい素肌で、その中心には可愛らしい膨らみがある。
まだ誰にも触れられたことの無いその頂は、ピンと勃って既に固く尖っていた。

淳はそこに触れると、指先で転がしたり摘んだりして弄ぶ。

「……あっ、ん……ぅん……」

最初はただこそばゆいだけだったが、次第に痺れるような快感が襲ってきた。

たまに柔らかな膨らみを包み込むように揉んでから、先端を指先で摘むと、その刺激によって七子の口から甘い声が漏れ出る。

「……ぁあんっ!」

さらに淳は片方の飾りを口に含み飴玉のように舐め始め、時折歯を立ててそれを甘噛みされると、痛みすらも気持ち良く感じる。

「あっ! ……ぃや、……んぁッ!!」

だがそれも束の間、今度は労わるように優しく吸われる。

「あぁ……じゅ、ん……」

不規則に緩急をつけた責め方に、七子は翻弄されていく。
涙を浮かべて悶える七子の姿に、淳はさらに興奮を覚えた。

「七子、それ可愛いよ……」

淳はそう言って、七子の頬に優しく触れると、再び深い口付けをする。

そしてそのまま彼女の胸に顔を埋めると、乳首を愛撫し始めた。
先程よりも激しくなった動きに、七子の口から漏れる喘ぎ声が大きくなる。


「ぁふ、……んっ!……あぁッ!」


淳は七子の腰に腕を回すと、身体を密着させる。
お互いの体温を感じながら、淳は七子の胸から下腹部へと手を伸ばす。


「そんな大きい声出すと、聞こえるぞ?」


そう言いつつも淳の手は止まらない。

むしろエスカレートしており、ショーツ越しに秘部に触れていた。

そこはもう湿っており、愛液が染み込んだ布地が張り付いて形が分かるほどだ。

淳がその割れ目へと指を沿わせゆっくりと動かすと、その度にくちゅ、くちゅっと音がする。


「今日は随分とだな、七子。そんなに良かったのか?」

淳は意地の悪そうな笑みで、七子の耳元で囁いた。
その言葉を聞いて、七子は顔を真っ赤に染める。

「ち、違うっ……!」

淳は七子の言葉にニヤリとすると、彼女のショーツに手をかけた。
そして一気に引き下ろすと、足首から抜き取る。

「いやぁ……!」

恥ずかしい部分を隠すものが無くなり、七子の羞恥心は増すばかりであった。
濡れそぼったソコは仄かに当たるランプシェードの灯りで妖しい輝きを放っていた。

淳はソコにゆっくりと中指を入れ、出し入れを繰り返す。

「あっ……あぁ、んっ……あん」

七子は初めての感覚に戸惑いながらも、徐々に快楽を覚えていった。
そしてある一点を掠めた瞬間に七子の体が大きく跳ねた。

「ひゃんッ!」

その反応を見た淳は執拗に同じ場所を攻め立てると、七子は今まで以上に身体を震わせた。

その様子に気をよくした淳は指を増やし、ナカを掻き出すようにして擦り始めた。
すると、今までとは比べ物にならない程の快感が七子を襲った。


「ああッ!ぃやあ!……じゅ、ん!だめぇ……!」


七子の目の前にはチカチカとした光が飛び交う。

「イキそうなんだろ、七子……!」

そう言われても、もはや何も考えられなかった。
押し寄せてくる絶頂の波に耐えきれず、腰を浮かせお尻を震わせながら七子は達した。


「あッ!!ああんッ!……イ、クッ!……あ、うぅ」


淳は七子が果てたことを確認すると、指を引き抜いた。

「なあ、七子……コッチも勃ってるぞ」

淳は指についた愛液を舐めとると、局部にある突起に触れた。
そこは赤く腫れ上がり、蜜を垂らしながらヒクヒクと震えている。

淳はその小さな芽を親指の腹を使って押し潰すと、そのまま円を描くように捏ね回し始めた。

敏感になった箇所への容赦ない責めに、七子は悲鳴のような声を上げる。


「あぁっ!……やめっ!……んあぁっ!!」


「やめていいのか? こんなに濡らしてるくせに……」


淳はそう言うと、秘裂へと顔を埋めて蕾を舌先でクリクリと転がしはじめた。
同時に指先で入り口をなぞったり、浅いところを出入りさせたりと、焦らすような動きに変わる。


「あっ……は、……ん、……ふあ、ッ!」


もどかしさに身悶える七子だったが淳は一向に攻める手を緩めず、それどころかさらに激しくなるばかりで、七子の理性は限界を迎えようとしていた。

「やっ!……あぁッ!……んッ!……あぁッ!」

再び襲ってきた大きな波に飲まれそうになりながら、七子は必死に耐える。
しかし淳はそんな彼女に追い打ちをかけるかのように、中に指を入れて掻き乱しながら親指で陰核を擦り上げた。


「あぁぁッ!!!」


その強烈な刺激に、七子は呆気なく二度目の絶頂を迎えた。
その余韻でビクビクと震える七子から指を抜くと、次々に蜜が溢れ出しシーツに染みを作った。

「はあっ……はあっ、……」

肩で息をしながら悩ましげな瞳で淳を見つめる七子の姿は、とても艶かしく色香を放っている。

淳はその光景にゴクリと唾を飲み込むと、自分のズボンを下ろした。


「七子、もう我慢できない……挿れるぞ」


七子の痴態に煽られた淳の陰茎は、すでに反り返るほど勃起していた。

その赤い膨らんだ先端からは透明な先走り汁が滲んでいた。

「やっ、待って……!」

これから何をされるか察した七子は慌てて制止するが、淳は聞く耳を持たずに彼女の両足を大きく開かせる。

そして十分に潤ったソコへ自身のモノを宛てがうと、ゆっくりと挿入していく。

「いゃぁ……っ」

初めて感じる圧迫感に七子の顔は苦痛に歪む。

「力抜けよ、七子。優しくするから」

「無理ぃ……!」

「大丈夫だ、すぐ慣れてくるから。ほら、深呼吸しろって……」

七子は言われた通りに深く息を吸い込み、吐きだす。
すると、そのタイミングに合わせて淳も腰を進めた。

「ああッ!」

ゆっくりと七子の最奥まで入ると、淳は徐々に腰を動かし始めた。


初めは痛がっていた七子も腰を振られ、痛みよりも快感が増えていき甘い声を出し始めた。


「あんっ!……あんっ!……やっ、あんッ!」

「はっ、……気持ちいいんだろ?」

「いやぁ……ち、違……うぅ」


七子は否定しながらも、身体は正直に反応してしまう。

淳が腰を打ち付ける度に結合部からはジュプ、ジュプと愛液が飛び散り、ベッドのスプリングが軋む音と肌がぶつかり合う音が部屋に響く。


「七子……好きだ」

「んッ!……あぁッ!……んんっ」


淳の言葉に応える余裕のない七子は、ただひたすら喘ぐことしかできなかった。

そして彼は挿入の角度を変え、膣壁にある一点を突いた。

「ひゃんッ!」

今まで感じたことの無い感覚に七子は思わず声を上げてしまった。

「ここが良いのか」

そう言うと淳はそこばかりを攻め立ててきた。

「あぁっ!……やぁっ、んんっ!……あぁぁッ!!」

何度も同じ場所を擦られるうちに段々と快楽が増してきて、次第に何も考えられなくなっていく。

「だめぇ……またイッちゃ……んんーッ!!」

再び訪れた絶頂に、七子は背中をしならせて達してしまった。

しかし淳はまだ満足していないようで、休む間もなくピストンを再開する。


「あっ……!あっ、ああッ!」


絶頂を迎えたばかりの七子は、押し寄せる波のような快感に耐えられず、無意識のうちに淳の背に腕を伸ばしていた。

「はぁっ、はぁっ……七子、可愛い……」

淳は七子の頭を撫でると、そのまま唇を重ね合わせた。

「んんっ!……ふぁ……んッ!」

舌を差し入れられて口内を犯され、同時に子宮口をトントンッと突き上げられる。


七子は淳の首に手を回してしがみつき、彼の腰の動きが速く激しくなると七子は何度目かの絶頂を迎えようとしていた。


「あんッ!ああッ!……イ、イクッ!イッ!」


「俺もっ……イクッ、あぁっ……出るッ!」


七子はビクンビクンと痙攣しながら絶頂を迎え、それと同時に淳も果てた。

彼は七子の子宮口に亀頭を押し付けるようにして精を放った。

ドクンドクンという脈打ちを感じながら、七子は彼の射精が終わるのを荒い息をしながら待つ。


しばらくしてようやく落ち着いた淳が陰茎を引き抜くと、白濁した液体が流れ出てきた。


「ごめん、中に出しちまった」

淳は申し訳なさそうな表情で謝った。

「気にしないで、大丈夫だから……もしできても、私は嬉しいよ」


行為の余韻でまだボーっとしている七子は、少し気怠げに答えた。


「そっか、ありがとう。その時は、俺が何とかする……」


淳はホッとしたように微笑み、彼女の頬を優しく包み込むようにして触れるだけのキスをした。




二人が果ててからどれくらい経ったのだろうか、七子は隣に眠る淳へと微笑みながら言った。


「ありがとね、淳」


「別に感謝することでもないだろう」


てっきり眠っていたと思っていた、彼が聞いていたとは気付かず、七子は恥ずかしさから顔を赤らめた。

「え! 起きてたの?」


「ああ、お前の声で起きた」


「もおー、起きてるなら言ってよお!」

そう言って七子は、淳の腕の中でジタバタと暴れ出した。
そんな彼女を見て淳はフッと笑い、七子を宥めるように抱き締めた。


「怒るなって。これから大変だろうけど、俺の傍に七子は居てくれるか……?」


不安そうな声で訊ねる彼に、七子は笑顔を向けた。


その顔には迷いなど一切ない。

彼女は自信満々に答える。


「うん!ずっと一緒にいる」


七子は淳の胸に耳を当て、心臓の音を聞きながら目を閉じた。


淳が自分を必要としてくれている。
それだけで幸せだった。

淳が自分を好きになってくれたことが嬉しかった。
彼と一緒に居ると、心の底から安心できるのだ。



きっとこの先何があっても、彼と一緒ならば乗り越えていける。







fin.

[title by:秋桜-コスモス-]




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