消えてしまった者たちへ
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  • 冥界の部屋

     広い部屋に大きな机。私は客間である〈カロン〉に3人を招き入れ、紅茶を淹れた。

    「あ、あの…」
    「なんですか?Ms.グレンジャー」

     今まで一言も喋らなかったが、少しはリラックスしたのだろうか。

    「こ、この部屋って………」
    「ああ、説明した方が良いでしょうね」

     私が立ち上がると3人は一瞬ビクついた。リラックスはしていないらしい。

    「ここは私が学生の頃偶然見つけた部屋です。何と無く絵画を眺め何と無く呟いたら、この部屋が開いてしまいました」
    「偶然……!?」
    「ええ、そうです。冥界の部屋というと少し物騒ですが、要は冥王星に因んだ部屋と言うだけです。あなた達を冥界に送ろうとしているわけではありませんので、ご安心ください。」
    「因みにこの部屋を知っているのは…?」

     ハリーは怖々と質問してくる。そんなに怖いのか。

    「ホグワーツには多分いませんね。あ、でも校長なら知ってるかも……。ってあなた達、逃げようとしないでください」

     三人は既にドアへ駆け寄っていた。

    「私はあなた達に危害を加えるつもりでここを教えたわけではありません。寧ろ信用しているからです」

     どうにか説得してもう一度席に座らせると、今度は驚いた顔をした。

    「それは………」

     ハリーは顔を俯かせると、カバンから一冊の本を取り出し開いた。

    「僕の両親を知っているからですか?」
    「!!」

     次に驚いたのは私の方だった。開いた先には1枚の写真。本はアルバムだった。そこに写っているのは、若い二人の女性。赤い髪と黒い髪が対照的だった。

    「リリーですね。懐かしいです」
    「やっぱり。この女性はラミア先生だったんですね」
    「はい。仲良くさせていただいていました。寮も学年も違う私をまるで妹のように…」

     ウィーズリーもグレンジャーも驚いているようだ。

    「ラミア先生は僕たちの味方ですか?」
    「ハリー!!そんな直球で………!」
    「はい、そうですよ。」
    「!!」

     私はウィーズリーの言葉を遮って、言葉を紡いだ。嘘偽りない言葉を。


    「私にとって君のお父さんとお母さんは希望の光でした。その2人の希望を私は敵に回すなんてことしません」
    「ラミア先生………」
    「私は何があってもあなたを信じ、あなたを守りましょう。ハリー」

     私は無意識に彼の頭に片手を置いていた。しかし拒否はされなかった。

    「君の両親は私の光です。そして君も。……なら私は君のために光を探し続けましょう」


     私が光になるとは口が裂けても言えない。その代わりを君のために探し出そうか。新たな君の光を。

    「あ、あの!」
    「どうしましたか?Mr.ウィーズリー」

     顔を顰めたまま彼は尋ねる。

    「僕、パパから聞いたことある。セルウィン家の中には例のあの人の配下がいるって」
    「!!」

     ウィーズリーがリラックスしない理由はこれか。

    「そう、なんですか…………?」
    「私の従兄弟のことですね、それ」
    「え!?この前一緒にいた!?」

     あ、そうか。私はレジーを従兄弟と紹介していたのを忘れていた。

    「いいえ、違いますよ。別のいとこです。私、例のあの人のことは恨んでいますし」
    「え……!?」
    「確かに私はセルウィンの人間で、その中には純血主義も例のあの人の配下もいます。ですが、私はそんなものにはなりません。それが父と母の教えです」

     私はどう誤解を解こうか迷った。真実を話す必要があるだろう。

    「私の父の出身寮はスリザリンですが、母はハッフルパフです。そして兄はグリフィンドールで私はレイブンクロー。」
    「え、全員違うんですか…!」
    「ええ、珍しいでしょう。だから反感を買ったのです。例のあの人から。父は純血なんて糞食らえだと思っていましたし、スリザリンのなかでも特異点でした。そして兄はグリフィンドールで素晴らしい成績を残したのです。」
    「兄がいたんですか……」
    「はい。………しかし、両親も兄も、セルウィンの例のあの人の配下に殺されました。」
    「そんな…!」

     少し刺激が強かったかもしれないが、話すべきなのだと私は思った。

    「これで、信じていただけましたか?私があなた達の敵ではないと」

     三人は顔を見合わせた後、頷いた。少しはリラックスしてもらえたらしい。


    「それで、先生の話って言うのは……」
    「ああ、そうでしたね。」

     私は思い出したように杖を振ると、テーブルの上に小さな箱を出した。装飾の少ないシンプルな箱だ。

    「あのブレスレットはつけていますね?」
    「え………?」

     三人は何故か驚いていた。

    「どうしてこのブレスレットのことを……」
    「誰にも話してないのに……」

     そこで私は思い出した。

    「ああ、そういえば。匿名で送ったんでしたっけ。」
    「え、あれラミア先生だったの!?」
    「そうですよ。面倒だったので名前は書きませんでしたが。」

     私はブレスレットの説明を始めた。

    「それにはセルウィン家オリジナルの守護魔法がかけられています。持ち主が危険に晒されると発動するのです。まだ試作段階ですが。」
    「そうだったんだ……。でもどうして僕たちに……?」
    「頼まれたんです。………ある人にね」

     名前を出すべきではないと判断した私は、適当にはぐらかしておいた。

    「で、これが第二弾」

     私は小さな箱からそれぞれ一つずつ渡した。ハリーは緑、ハーマイオニーは黄、ロンは赤だ。

    「今までのも今回のも、一度発動すると砕けてしまいます。二つ付けても片方だけ付けても個人の好きにしてください。」
    「あ、ありがとう。」
    「いえいえ。なにか異常があればすぐに教えてください。」
    「わかった。で、この二つってなにか違うの?」

     まあ、確かにそれは気になるだろう。だが、私ははっきり答える。

    「さあ?」
    「え……」
    「イマイチ私にもわかりませんよ。作り方を変えたというだけですから。」
    「じゃ、じゃあ、僕たちって……」
    「ある意味実験台です」

     空気が固まったような気がする。

    「まあ、気にしないでください。多分危害は加えません。多分。」
    「いやいやいや。多分が多すぎだよ!」
    「まあ、そうですねぇ。」

     適当に答えているわけではない。心からそう思ってそう答えているだけだ。三人のため息が、綺麗に一致した瞬間だった。

    「何かあれば、いつでも訪ねてください。基本的にこの部屋にいますから。」
    「わかりました!」
    「あ、もし必要な本や薬草も言っていただければ用意しますよ。」
    「どうして……」
    「何と無くそう思っただけです。あまり意味はありませんよ。ただ頼ってくれるなら応えます。」

     三人は顔を見合わせた後、とても嬉しそうな表情をした。

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