消えてしまった者たちへ
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  • 現代の呪文の応用と歴史

     私の持っている授業〈現代の呪文の応用と歴史〉、通称ASHアッシュは3年次からの必修科目だ。要は今年からハリー達も受講する。 授業開始2日目、午前の最後の授業はグリフィンドールとハッフルパフだ。 グリフィンドールとハッフルパフの合同授業は、毎年比較的安心して行える。両寮とも敵対心を抱いていないからだ。

    「初めましての方が多いと思いますが、〈現代の呪文の応用と歴史〉を担当します、ラミア・セルウィンです。よろしくお願いします。」

     初回授業の常套句を言えば、パラパラと拍手が起こる。これも毎年のことだ。ただ3名ほど気合いの入った拍手をしている生徒がいたが、聞かないふりをしておいた。

    「それではみなさん。この授業で何を学ぶのかわかる人はいますか?」

     毎年ここで手の挙がる生徒はほとんどいない。いても自身のなさそうな生徒のみだ。しかし今年は全く違っていた。

    「………では、ハーマイオニー。答えてください」
    「!はい! 近年、魔法族の増加と魔法の進歩により新たな呪文の開発が急激に進んで来ました。この授業では新たな呪文の遷移とその危険性。また、その必要性について学ぶことになります。」

     一息だった。きっと私でもここまでスラスラ話すことはできないだろう。

    「正解です。グリフィンドールに5点。ですが、補足が少し。………ハーマイオニー、悲しそうな顔をしないでください。貴女の解答はほぼ完璧です」
    「ほぼ……?」
    「はい。卒業後、社会に出れば得体の知れない呪文との遭遇が増えます。その時あなた達の対処をスムーズにするための授業でもあるのです」
    「得体の知れない呪文ってどんなものですか?」

     ハッフルパフの生徒だ。周りの生徒も同じことを考えているらしい。

    「あなた達はこのホグワーツでたくさんの呪文を習ってきましたね。その練習の際、失敗して全く別の効果を出してしまったことも多々あると思います。」

     何人かの生徒は心当たりがあるらしく、顔を青くして頷いた。

    「それが一種の新たな呪文の卵です。」
    「卵?」
    「はい。呪文は杖の質や振り方、スペルの発音、そして魔法使い自身の能力などの要素で成り立っています。その一つを変えるだけで効果は変わってきてしまいます。」
    「魔法使い自身の能力に左右されるなら、私達が共通に使っている魔法はどうなるんですか?」

     妥当な質問だろう。魔法使いによって同じ呪文で違う効果が出るなんて聞いたことがないはずだ。

    「それが完成された魔法なのです。完璧な魔法。私達が日頃使っている魔法はそれなのです。」

     そうだ。完成された魔法のみが呪文と呼ばれ、使われている。

    「この授業ではその見分け方、そして対処方法を学んでもらいます。質問はありますか?」

     返事はない。理解したか、全くわかっていないか。そのどちらかだろう。

    「まあ、この細かいことはこれから学べば大丈夫です。頑張りましょう」
    「はい!」

     生徒達の返事が響く。安心したようで、よかった。

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