恐怖≠憎悪
昼休み、中庭を散歩しているとポケットからシェアトが顔を出した。外だと気が付いたらしく、目を輝かせるとそこから飛び出した。
「あんまり遠くへ行かないでね。ちゃんと帰るんだよ」
言葉を理解しているのかはわからないが、シェアトは一度だけ振り向いて私と目を合わせると、木に登って見えなくなった。
もともと野生のリスだったためか、よく木に登りたがる。始めは見失わないよう目を凝らしていたが、最近は放って置いても平気なようで探すことはしなくなった。
「新しいペットかい?ラミア」
現れたのは相変わらずツギハギだらけのローブを着たリーマスだった。
「そうよ。エニフが拾って来たの」
「エニフが?」
彼は目付きの悪いフクロウのことを知っている。
「家に帰ったら居たのよ。シェアトっていうの」
「君らしいね」
そう言って微笑むリーマスにつられて笑ったが、どういう意味だろう。まあ、聞いてもはぐらかされるだけだろうが。
「ああ、そういえば。次のDADAの授業でボガードを使うんだ」
「マネ妖怪の?」
ボガードは相手の最も恐ろしいものに化ける魔法生物だ。
「面白いね、それは。生徒たちの恐ろしいものがわかる」
「こらこら。そうゆう目的ではないだろう? …ラミアの恐ろしいものはなんだい?」
えらく唐突だ。だか、私は笑いながら答える。
「ボガードに会ったのはもう何十年も前だけど、その時は水に化けられたよ」
「水……?」
「そう。私は泳げないからね」
その答えは予想外だったらしい。
「そんなに意外?学生時代に言わなかったっけ」
「いや、そういうわけじゃ………。てっきり……」
彼は目を逸らす。
「………ああ、もしかしたらあいつに化けるかもしれないね。ボガードは」
「っ…」
私は空を見上げた。そう、きっと。私の恐ろしいものは、あいつだ。 私を独りにした、憎き仇。
「名前を口にするのも嫌なくらい憎んでいるのに、それ以上に恐れてる。」
「ラミア……」
「でも、ボカードがあいつに化けたら……」
「…?」
私は空に手を伸ばす。
「私は迷わず、……死の呪文を唱えるだろうね」
「!!」
リーマスは目を見開き、そして少し俯いた後私をまっすぐ見た。
「君が……」
「……」
「君が憎しみを捨てることは、ないのかい?」
目を逸らせなかった。
「わからない、わからないよ。」
そうとしか、言えなかった。笑うことすら億劫になっていた。