信じたことがあっただろうか
その日、私はシリウスに呼び出されて彼の家の近くの原っぱに来ていた。学生時代に家を出たシリウスは叔父の援助により卒業後はそこで一人暮らしをしていた。
「悪い、待たせた」
「いいよ、そんなに待ってないし。天気もいいし」
私は空を見上げる。雲一つない10月の綺麗な空だ。
「こんなにじっくり空を見上げるなんて、いつぶりだろ」
「そうだな。最近は騎士団の仕事でゆっくりなんてできなかったもんな」
「ハリーはもう一歳になったんだっけ。まだ会えてないんだよね」
「そうなのか?」
ジェームズとリリーの間にできた男の子ハリー。一年以上2人には会えず、手紙だけのやり取りをしていた。ただシリウスには2カ月に一度は会うことができていた。
「で、どうしたの?突然呼び出したりして」
「あ、イヤ……」
「?」
シリウスはただ気まずそうに視線を右往左往させる。いつもハッキリしているシリウスにしては酷く珍しかった。シリウスはもう一度空を見上げて深呼吸した。
「これからこの戦争はもっと酷くなる。きっと俺たちの友人や知り合い、親戚も犠牲になるだろう」
「うん」
「俺は親友を失いたくない。その家族も。そして………お前も。」
「っ………」
シリウスの視線が私を貫いた。吸い込まれそうな漆黒の瞳。私は相応しくない。
「 」
数日後彼はアズカバンに投獄された。
今年初のホグズミード行きの日がやってきた。今年からはハリー達もホグズミード村へ行けるはずだ。そう思っていたのだが。
「ハリー?」
「ラミア先生!」
リーマスの部屋に行くと、驚くことにハリーがいた。理由を聞けば、叔父さんに許可証のサインをしてもらえなかったらしい。
「そういえば叔母さんを膨らませたって言ってましたね……。大変ですねぇ、ハリー」
「思ってないですよね」
思ったことを言っただけのつもりだったが、ハリーは苦笑を漏らしている。
「どうしたんだい、ラミア」
「あ、そうそう。これ持ってきたんだ。」
巾着をリーマスに渡す。水魔の餌を作ってきたのだ。
「ありがとう。助かったよ。水魔の餌だよ、ハリー」
「水魔の?」
「ああ。なかなか手に入らないうえに、高価だ。だが私には優秀な友人が何人もいるのでね」
「ラミア先生が作ったんですか?」
「ええ、そうですよ。家の近くにも水魔が住んでいましたから。はっきり言って専門外なんですけど…」
「それでも作れるのがすごいよ」
リーマスはニコニコとしている。何となくムカッとしたが少し悔しい。
「そういえば、吸魂鬼に襲われて気を失ったそうじゃないですか。」
「あ……」
ハリーは思い出して顔を青くした。相当酷い目にあったらしい。
「緑の閃光と女性の叫びが聞こえるんです……。」
「それは……!」
リリーが殺された瞬間のことを言っているらしい。倒れてしまうわけだ。
ハリーは酷く落ち込んでいるようだ。きっと今年は嫌なことばかりなのだろう。
「ハリー、これをどうぞ」
「これは?」
「蜂蜜キャンディです。私はレモンキャンディよりこちらの方が好きなんです。」
「…………ありがとうございます!」
「来年にはきっと行けますよ。それに吸魂鬼だってすぐにいなくなります。あいつを野放しになんてしません。」
「え……?」
「では、失礼します」
私は部屋を出た。右耳のピアスがまた小さく鳴った。