失うことを知っている人
「では、失礼します」
ラミアは何とも言えない表情をしたまま、ルーピンの部屋を去って行った。さっきの言葉はどういう意味だろう。ハリーはルーピンに尋ねた。
「「あいつを野放しにはしない」ってどういう意味でしょう。吸魂鬼のことではないですよね。シリウス・ブラックとラミア先生は知り合いなんですよね」
「知り合いなんかじゃないよ。あの二人は」
「え・・・?」
「シリウスはラミアのことが好きだったんだよ」
ハリーは開いた口が塞がらない。ルーピンは楽しそうに笑っている。懐かしい記憶を思い出しているようだ。
「ラミアは右耳にピアスをしているだろう?もう片方はどうしたんだと思う?」
「え、……まさか」
「シリウスがつけていたんだよ。」
「そんな……!」
「でも付き合うことはなかったんだ。私やジェームズがくっつけようと躍起になったんだけどね。結局くっつくことはなかったよ.。2人とも素直じゃないからね。それにラミアはあまり恋愛をしたがらないし」
「そうなんですか?」
ハリーはシリウスがどうしてアズカバンに投獄されたかを知らない。だがポスターの凶悪な写真を見ているハリーは、シリウスとラミアが一緒にいるところを全く想像できないでいた。
ルーピンは私が言ったことは内緒だよ、と微笑みながら言う。だがその微笑みは少し悲しそうだった。
「ラミアは学生時代2度大切な人を失っている」
「あ、両親とお兄さんを亡くしたって…」
「ラミアが5年生になる前の夏休みのことだね。それが1度目」
「あと1回も……?!」
「卒業した年の夏、彼女は親友を失っている。」
「!!」
「それが暗黒時代と呼ばれた最悪の時代だよ」
驚いた。ハリーには想像ができない。ハリーも両親を失っているが、両親を知らないうちに独りとなった。だがラミアは違う。家族といる幸せを一瞬にして奪われたのだ。その悲しみは計り知れない。そして立て続けに親友を失うなんて。ハリーは親友であるロンとハーマイオニーを想像した。世界が真っ暗になるような気がした。
「彼女は怖くなったんだと思う、失うことが。気づいているかもしれないが、ラミアは他人との間に壁を無意識に作るんだ。それ以上は入ってこないようにね」
「はい…………。」
そんな暗闇を彼女は歩いているのか。これは同情なのかもしれない。だが、それほど彼女の歩いてきた道は悲惨だった。
「家族を失うまでラミアはもっと明るく笑顔の絶やさない少女だった。だけどあの事件から5年足らずで、彼女は変わってしまった。笑うことはあっても、心からじゃない」
「心から、笑う……。」
「私はまたあの日のようにラミアに心から笑ってほしいと思うよ」
ルーピンはまた悲しそうな微笑みを浮かべる。
「少し話しすぎてしまったね。ラミアには内緒だよ」
「あ、はい………。」
ハリーは何とも言えないもどかしい気持ちのまま、ルーピンの部屋を後にした。