消えてしまった者たちへ
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     今年度初のホグズミード行の日、シリウス・ブラックが太った婦人を襲った。肖像は滅多切りにされていたらしい。まさかホグワーツの中に侵入するとは誰一人として予想できなかった。いつ生徒が襲われるかわからない。城の中の警備は少しずつ確実に強固になっていた。

     
     今年もクィディッチのシーズンが到来した。しかしハリーの初戦は散々だったようだ。なんと吸魂鬼によってハリーが箒から落下し、不幸なことに暴れ柳によって箒を木端微塵にされたというのだ。きっと酷く落ち込んでいるのだろう。一週間ほどで退院したようだが、一度もお見舞いには行かなかった。


     クリスマス休暇前のホグズミード行の日、私は一日中冥界の部屋に籠り本を読んでいた。もうそろそろ夕食の時間かと、部屋を出ようと席を立つと、誰かが部屋に入ってきた。

    「ラミア先生!」
    「ハリー?」

     彼は怒っているような苦しいような、そんな表情をして放心しているようだ。

    「お久しぶりですね。箒から落ちたと聞きましたが……」
    「シリウス・ブラックは裏切り者なんですか?」
    「!!」

     私は目を見開いた。彼はそれを聞かされていなかったのか。

    「それを知ってどうするつもりですか?ブラックを探し出して仇を討つとでも?成人にもならない子供が、無茶をするべきではないでしょう?」
    「でも……!僕は本当のことを知りたいんだ!」

     知る権利はある。だが私が話してもいいのだろうか。

    「はぁ。どこでその話を聞いたのかわかりませんが、どの程度知っているんですか?」
    「両親の秘密の守り人になったブラックが、ヴォルデモートに居場所を教えたって。」

     随分簡単に言ったが、間違いではない。

    「そこまで知っているのなら、私の補足は必要ないでしょう?」
    「でも!ラミア先生はブラックと好きあってたって……!」
    「はぁ?」

     誰だそんなことを言ったのは。そう考えて思い当たるのはたった一人しかいない。リーマスだ。

    「リーマスから聞いたんですか………。別に好きあっていたわけではありませんよ。多少仲が良かっただけです。まさかシリウスが闇の陣営だったとは信じられませんでしたし、今でも信じられません。裏切られたのは私も同じです。シリウスが私の友人であったように、ジェームズやリリーも私の友人だったのですから」
    「じゃ、じゃあ、そのピアスは?」

     リーマスのやつ、そんなところまでしゃべったのか。

    「これはもともと母の形見なんですよ。片方をブラックに奪われた学生の頃。返してほしいのはやまやまですが、流石にアズカバンまで取りに行くのは不可能ですからね。」
    「奪われた?」
    「そうです。好きで渡すわけがありません。」

     懐かしい。そう思うが腹立たしい思いも大きくある。

    「理解していただけましたか?」
    「は、はい」
    「しばらくは混乱してしまうでしょう、あなたのことですから。ですが、行動するのは落ち着いてからにしなさい。助けられる時とそうでないときがあるんですから。私をヒヤヒヤさせないでくださいね。」
    「……わかりました。」
    「そろそろ行かないと夕食をくいっぱぐれますよ。行きなさい。」
    「ありがとうございます……。」

     彼はやって来た時と同じように放心したまま部屋を去って行った。

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