消えてしまった者たちへ
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  • 数少ない幸せ

     クィディッチのレイブンクロー対グリフィンドールの試合でハリーが乗っていたのは炎の雷だ、無事に帰って来たらしい。試合はグリフィンドールの勝利で終わったが、マルフォイたち数人がたちの悪い悪戯を仕組んだらしい。マルフォイ少年もよくやるなぁと思った。

     その日の晩、とうとうシリウスがグリフィンドールの寮に忍び込んだらしい。ロンが襲われたというのだ。何が目的なのかは知らないが、生徒に危害を加えるなら尚更野放しにはできないだろう。

     イースター休暇も終え、とうとうやって来たクィディッチ決勝戦。グリフィンドール対スリザリンの因縁の対決だ。グリフィンドールはスリザリンからのファウルを受けながらも無事勝利し、数年ぶりの優勝杯を手に入れた。おめでとう、ハリー。


     6月になりテストがやって来た。ASHのテストは毎年難易度を高く作っているため、高得点は期待していないのだが、なんとハーマイオニーが歴代1位をたたき出した。採点しながらまさかとは思ったが、さすがハーマイオニーといったところだろう。


     テスト最終日の日も暮れたころ、採点の息抜きにシェアトと共に森の方へ行った。

    「シェアト、どこ行くの?」

     シェアトは迷うことなく森の奥へ奥へ進んでいく。遠くで遠吠えのような鳴き声が聞こえてハッとした。今日は満月だ。
     私は無理やりシェアトを捕まえポケットに押し込める。そして鳴き声のする方へ走り出した。
     何かが戦うような音が聞こえた。それと共に何か小さいものがこちらにやってくる。

    「スキャバーズ?!」

     やって来たのはロンのネズミ。私は杖を振り私を見て逃げようとするネズミを檻に閉じ込めた。それでも尚ネズミは暴れ続ける。

    「その場の枝とかで作った即席だけど、何をしてもそれは壊れないよ。たとえ君が大きくなってもね。」

     そう言えばスキャバーズはビクッと震えた。思いついた例えを言っただけだったが、スキャバーズには何か心当たりでもあるらしい。私は檻を掴んで走り出した。嫌な予感がした。



    「ロン!」

     最初に見つけたのは白目を剥いて気を失ったロンと同じく気を失ったセブルスだ。それもセブルスは宙吊りになっている。しかし次の瞬間、聞きなれた声が聞こえた。湖の方だ。

    「エクスペクト・パトローナム、守護霊よ来たれ! エクスペクト・パトローナム!」

     ロンをそのままにして湖へ行くと、大量の吸魂鬼と呪文を唱えるハリーと隣に立つハーマイオニーが見えた。ハリーは必死に呪文を唱えているが杖からは霞のようなものしか出てこない。吸魂鬼が二人に迫り先に倒れたのはハーマイオニーだ。
     しかし、私の視線の先は大量の吸魂鬼のその中心にいる黒い人物だ。私はその男を知っている。

    「シリ……ウス……?」

     私に迷っている時間はなかった。私は急いでハリーのもとへ駆け寄る。ハリーは驚いたように私の名前を呼んだ。

    「ラミア先生?!どうして?!」
    「細かい話は後です。杖を構えて。あなたは幸せですよ」
    「幸せ…………」
    「そうです。ほら、自信をもって。あなたならできます。信じて」

     ハリーは真っ直ぐ前を向いた。その瞳にはもう迷いはない。小さく深呼吸の音が聞こえた。

    「エクスペクト・パトローナム、守護霊よ来たれ!」

     ハリーの杖から出てきたのは美しい白銀の牡鹿。見とれてしまった。守護霊は吸魂鬼達を一掃し重かった空気はすうっと澄んでいくようだった。

    「ハリー!!」

     ハリーは力が抜けたように倒れ、そのまま気を失った。


     大人の男2人に子供3人。流石にどうやって運ぼうかと考えていると、タイミングよくセブルスが目を覚ました。

    「あ、おはよう。セブルス」
    「ラミア?!どうしてここに!?」
    「こっちのセリフだよ、セブルス。ひとまず運ぶの手伝って?私ひとりじゃ大変だから。」

     私は拾った杖を投げて渡した。


    「え!?このネズミ、ピーターなの!?」

     檻の中で恨めし気に私のことを睨むネズミを見下ろす。言われてみればなんとなく面影があるような気もするが、まさかピーターだったとは。

    「じゃあ、なんで生きてるの?ピーター」
    「我輩に聞くな。本人に聞きたまえ。」
    「それもそうか」

     私は思い出したようにポケットに手を突っ込み、シェアトを取り出した。セブルスは怪訝そうな目で私を見ている。

    「シェアト、リーマスと夜明けまで一緒にいてあげて。ただし、傷つけられないようにね。」

     シェアトはすぐに私の手の上から飛び降り、夜の闇へ消えていった。


     2人で4人を校長室へ運び、ダンブルドアに簡単に説明した後ハリー達3人は医務室へ運ばれた。校長室にいるのは私とセブルス、ダンブルドア。そして檻に閉じ込められたピーターと目を覚まさないシリウスだ。

    「ラミア、檻を大きくすることはできるかね」
    「できますよ」

     私は檻に杖を向け振った。檻は大人一人がギリギリで入れるような大きさになった。しかし格子はネズミでも通り抜けられない狭さのままだ。
     ダンブルドアは引き出しから小瓶を取り出した。中身は透明だ。

    「真実薬じゃ。本来なら魔法省の許可が必要じゃが、今回ばかりは仕方あるまい。セブルス、飲ませられるかの?」
    「はい、校長」

     セブルスは嫌そうな顔を隠そうともせずに小瓶を受け取って嫌がるネズミに無理やり飲ませる。
     動物もどきの変身なんてなかなか見られるものではないが、ネズミが人に変わるところは酷く滑稽だった。

    「ピーター……」
    「おお!ラミア。懐かしき友よ!助けてくれ!」
    「………生きていたの?ピーター」

     真実薬をのんだピーターはもう嘘を吐けない。ピーターの口から出た話は、伝わっている話とはまるで違っていた。
     ピーターの話が終わると思われたころ、小さなうめき声が聞こえた。シリウスが目を覚ました。

    「ん……ここは?!」
    「安心しなさい、シリウス。ホグワーツの校長室じゃよ」
    「ダンブルドア……。ピーターが……!!」

     シリウスはまだ状況が呑み込めていないようだ。

    「ピーターが全部吐いたよ」
    「ラミア……!」

     ピーターは真実薬の所為でぐったりとしている。シリウスは私の姿を見て酷く驚いているようだ。驚いているのはこっちの方だ。だが、私は3人に背を向けた。

    「じゃあ、私はハリーのところへ行ってきます。魔法省への連絡は……」
    「わしがさっきフクロウ便を送った。大丈夫じゃよ。……シリウスと話さなくて?」
    「話すことなんてないですから」

     今は、少なくとも。

     心で呟いて、校長室を後にした。
     長い夜が終わる。

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