消えてしまった者たちへ
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  • 今はその時ではない

    少しずつ家に近づいていく。ラミアははしゃぐハリーを見て幼い頃のジェームズを思い出した。



    「本当にあなたはジェームズにそっくりですね」

    「父さんに?そんなに似てるの?」

    「はい シリウスに会いに行く時は今のハリーのようにはしゃいでいましたよ」

    「僕の両親はどんな人だった?」



    その言葉に記憶を探った。どんな人と言われると少し難しい。



    「第一印象はそんなによくなかったです」

    「え?」

    「あ、ジェームズのことですよ ただの悪戯っ子でしたからね まあ私の方が年下ですが……」



    寮も学年も違うが、あれだけ目立っていれば印象がつく。まともに会話をしたのはいつが最初だったか。



    「3年生のときですね、たしか」

    「なにが……?」

    「初めて会話をしたのが、です あちらから話しかけてきたんですよ」

    「父さんから?」

    「それまでもお互い知り合ってはいたのですが、2人で会話をしたのはその時が初めてです それもクィディッチの試合中に」

    「試合中に!?」

    「ええ 信じられないですよね 私チェイサーなのに」



    ラミアはクスクスと笑いながら話を続ける。その時のラミアにとっては初めてのクィディッチの試合だったらしい。初試合で緊張しているラミアに突然敵のチェイサーからの問いかけ。戸惑いしかなかった。



    『君、その飛行はカイルに教わったのかい?飛び方がそっくりだ』


    「カイルって……?」

    「兄です カイル・セルウィン もっともその頃には卒業していましたが、学生の頃はビーターでキャプテンをしていたんです ジェームズに後から聞けば、あまりに飛び方が似ているものだからつい話しかけてしまったそうです」

    「先生はなんて返したの?」

    「無言で彼の頭を超えて点を入れてやりました もともとは彼へのパスだったクアッフルをね」

    「え……」



    彼に悪気はなかったのでしょうが、とラミアは呟いて続けた



    「私も子供だったんですよ なんだこの冷やかし、程度にしか聞いていなかったんです」



    確かに試合中にそんな言葉をかけられれば気分も悪くなるかもしれない。ハリーはそう思った。



    「リリーにはよく魔法薬学を教わりました 図書室でよく顔を合わせていたんですよ」

    「魔法薬学を? 苦手だったんですか?」

    「はい 呪文を扱うことは得意ですが呪文を使わない教科はてんでダメでしたね リリーは魔法薬学、得意でしたから」



    その言葉にハリーは少し嬉しそうに、同じだと言った。



    「僕も魔法薬学苦手だ というよりスネイプが嫌いだ」

    「仮にもそのスネイプ先生と同じ教師にそれをいいますか」

    「でもラミア先生はスネイプに言ったりしないでしょう?」



    スネイプの評判はスリザリンを除けば例年悪い。まああの根暗な性格じゃあ無理があるのも事実だ。



    「言いませんよ 常日頃彼の八つ当たりを受けているのは私ですから その種を増やすこともないですしね」

    「八つ当たり?」

    「ええ まあ、もう慣れましたけど 1番歳が近いのも事実ですし」






    そんな話を続けていると、シリウスの家はすでに目の前だった。
    その家は思っていたより大きかった。レンガで出来たその家はマグルの家と遜色ない。

    玄関と思われる扉の前には、1人の男が立っていた。ハリーは男が誰だかわかると、走り出しハグをした。



    「シリウスおじさん!」

    「よく来たな、ハリー それとラミアも」

    「久しぶり、シリウス」



    シリウスは2人を家の中へ招き入れた。






    「ハリーの荷物はもう部屋にある 二階の奥から2番目の部屋だ」

    「ありがとう、おじさん」



    ハリーはシリウスに促されて自分の部屋へ小走りで行った。一階に残されたのはシリウスとラミアだけだ。



    「急に家の前に荷物が現れたんだ ヘドウィグがいたからハリーのものだとわかったが、突然荷物を送るのはどうなんだ?」



    シリウスは皮肉っぽくラミアに言う。



    「てっきりダンブルドアから連絡が行ってると思ったんだもの もしかして私が来るのも知らなかった?」

    「ああ ………お前ホグワーツで再開した後、故意に私を避けてだだろう?」

    「そんなつもりはないよ ただ機会がなかっただけ その証拠に今回はここにいる」



    確かにこの夏休み、今までだって会うことができたはずだしルーピンや他の友人がシリウスの家に行くたびラミアも誘われていたのも事実だ。それでもラミアは来なかった。



    「まだあの屋敷に住んでいるのか」

    「そりゃあね 私の家はあそこだもの」



    例え嫌な記憶がそこにあっても。
    ラミアはそうとだけ言った。



    「そういう話はまた 今日はこの家に防御魔法をかけに来たんだから」

    「そうなのか?」

    「本当に何も聞いてないのね だから私が来たの」



    するとちょうどハリーが二階から降りてきた。部屋は気に入ったらしく、とても嬉しそうだ。



    「この家に魔法をかけますが、見ますか?ハリー」

    「うん、見る!」

    「ハリーには敬語なのか?」

    「まあ、これでも教師なんで」

    「僕は敬語じゃなくていいって言ってるんだけどね」

    「さすがにこのメンツなら少しずつ抜けますよ、多分」



    ラミア先生って『多分』が多いよね、とハリーが言ったが、それは聞かないことにした。



    外に出ると杖を取り出しシリウスに問いかけた。



    「どの程度強くする?マグル除けはしてあるんでしょう」

    「まあな どの程度、とは?」

    「いわゆる『秘密の守人』のようにある人の許可を得なければ入れないもの それか緩くすれば敵意さえなければ入れるもの」

    「敵意を察知できるの?」

    「ええ それが『セルウィンの防御魔法』です」

    「『セルウィンの防御魔法』?」

    「セルウィンの血筋の魔法使いは他の魔法使いには使えない防御魔法を扱います セルウィン独自のね」

    「独自の………?」

    「まあ難しいことは、そのうち ……わかりやすく一度見てもらいましょうか」

    「え……?」

    「シリウス、お願い」



    シリウスは少し肩を竦めると杖を取り出しラミアに向けた。それに対してラミアは杖を握ってはいるものの、構えることはしない。



    「え、なにするの……!?」

    「ステューピファイ! 」



    バシュッ




    シリウスの杖から赤い光線がラミアに向かって真っ直ぐ走る。
    ラミアに当たる!そう思った次の瞬間。



    ひゅおん



    青く透明な球がラミアを覆い、赤い光線を受け止め消した。




    「え………?今のは?」

    「これがセルウィンの魔法です 使えるのはセルウィンの中でも多くはありません 実際私の近い親族で使えたのは私と父、そして祖父のみです」

    「『セルウィンの防御壁』 死の呪文すら吸い込む絶対防御壁だ だろ?ラミア」



    ラミアに問いかけるシリウスに、なぜあなたが満足気なの?とラミアは返す。



    「絶対防御壁といえば聞こえはいいですが、術者の精神に左右されやすい上に ある条件を満たして終えば使えなくなります」



    ただ防御に無頓着になるだけですよ、とラミアは興味なさげに言った。




    「で、どうしますか? 今のこのご時世、『秘密の守人』のようにするのがいいとは思うけれど、その肝心な守人に適任がここにはいない 今は敵意のみ排除するような形でいい?」

    「ああ、頼んでいいか? あと少し広めに頼む」

    「? どうして?」

    「ハリーは箒に乗りたいだろう?」

    「! 乗ってもいいの!?」

    「ラミアが広く壁を作ってくれたらな」



    シリウスの言葉にハリーはラミアへ詰め寄った。夏休み中に箒に乗れるならどんなに良いか! その一心だ。



    「はぁ、いいでしょう 少し時間がかかりますから、2人は中で待っていて」

    「やった! ありがとう!ラミア先生」

    「ここでならわざわざ『先生』をつけなくてもいいですよ まあ、どういたしましてとだけ言っておきます」




    ラミアは少し呆れたような笑いをこぼして家から少しずつ離れていった。既に集中しているようで、呪文をボソボソと唱えている。
    シリウスとハリーは少しその姿を見た後、家の中へ入った。





    ラミアが魔法をかけている間、2人は紅茶を飲みながら会話を弾ませていた。



    「学校は楽しいか?ハリー」

    「うん!今までにないくらい楽しいよ 友達もいるしね」



    今までこうやって話すことのなかったハリーには新鮮でそしてとても楽しい会話だ。そしてこれからはその日々が続いていく。ハリーは笑顔がこぼれた。
    暫く学校の話をしていると、シリウスが問いかけてきた。



    「ラミアは先生をやってるんだろう?なんの教科だ?」

    「んーと『現代の魔法の応用と歴史』 略してASHだよ」

    「なんだ?それ」



    シリウスが学生の頃はなかったらしい。その教科の概要をハリーが簡単に説明していると、ラミアが帰ってきた。



    「出来たよ 多分これで平気」

    「助かった ありがとう」

    「ありがとう、ラミア! これで箒で飛べる?」

    「ええ 飛ぶのに不自由しない程度には広くしましたよ」



    ハリーがもう一度礼を言うと、なんの話をしてたの?とラミアが言った。



    「ラミアの授業の話 変な教科を担当しているんだな」

    「自覚はあるよ」



    ラミアがあまりにもあっさりと言うのでハリーはつい笑ってしまった。






    するとシリウスが一枚の写真を取り出した。



    「これ、ラミアのだろう 落ちていたよ」

    「これは……!」

    「ラミアと……シリウス?」



    写っていたのは若いラミアとシリウスに似た青年。ラミアは満面の笑みだが、青年は少し困ったように笑っている。よく似ているがシリウスの方がハンサムだとハリーは思った。



    「シリウスではなく、弟のレギュラス」

    「弟!? シリウス、弟がいるの?」

    「いるんじゃない いたんだよ」

    「え……」



    シリウスはそこまで興味がないように言った。



    「レギュラスはヴォルデモートの配下だったんだよ そして死んだ」

    「ヴォルデモートの!?」



    その事実にハリーは目を見開いた。しかし次のラミアの言葉はもっと信じ難いものだった。



    「私の親友だよ レグは」

    「!!ヴォルデモートの仲間と親友だったの!?」



    ラミアは小さくため息をついて違うと言った。



    「死喰い人の親友だったんじゃない 親友が死喰い人になったんです」

    「死喰い人?」

    「ヴォルデモートの配下のことをそう呼ぶんだ」



    ハリーは信じられない事態を目の前にして、頭がグラグラした。



    「まあ、もういない人間の話です 気にしないでハリー」

    「………うん」



    納得したわけではなかったが、自分にはわからない何かがあったのだろうとそれ以上はなにも言えなかった。










    「じゃあ、私は用も終えたし、そろそろ帰るよ」

    「帰っちゃうの?」

    「どうせ帰っても一人だろう?ラミア」


    シリウスのその言葉にハリーは思い出す。確かラミアは誰かと一緒に住んでいると言っていた。


    「シリウス、ラミアは一人じゃないよ」

    「……ああ!屋敷しもべか」

    「ううん、もう一人いるって言ってたよね?ラミア」



    ラミアはやばいと思った。そうだ、ハリーは知っているんだ!



    「いや、それは……」

    「誰だ?それ?」

    「確か、従兄って言ってた 男の人」

    「はぁ!?従兄!?」



    シリウスは声を荒げて立ち上がった。



    「セシルと住んでいるのか!?ラミア!」



    ハリーは驚いて固まっている。突然のことで状況が理解できていないのかもしれない。
    ラミアはできるだけ冷静に言葉を返した。



    「何言ってんの、シリウス 私がセシルと暮らしているはずないでしょう」

    「じゃあ従兄って誰だ? お前にセシル以外の親族はいないはずだ」

    「………はぁ」



    ラミアはため息をついた。こんなに早くバレてしまうとは。



    「彼とは訳あって一緒に暮らしている ただそれだけ」

    「名前は? 言えないのか?」



    ラミアは言葉を詰まらせた。しかし言わないでいられる状況とも思えない。



    「レジナルド・アークライトって言ってたよ ラミアはレジーって呼んでた」

    「ハリー!」

    「レジ……ナルド…?」



    ハリーがここまで覚えていたとは…!



    「顔は見てないけど……」

    「レジーは人見知りだから」



    もう開き直るしかない。ラミアは思った。



    「そのうち詳しい話はするよ、そのうちね」

    「今は話せないのか……?」

    「うん、今はね」



    彼の今の状態でシリウスに会わせるのは危険すぎる。レジナルドである限り、シリウスに会わせるべきではない。



    「では、ハリー もしかしたらクィディッチのワールドカップで会えるかもしれませんね 当日ウィーズリー家が迎えに来ますから、わからないことがあればロンに手紙を書きなさい」

    「うん、今日はありがとう」

    「いえいえ シリウス、そのうちまた会いましょう」

    「ああ、またな」




    ラミアは家を出てそのまま姿くらまししてしまった。

    嫌いな色で塗りつぶして