消えてしまった者たちへ
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  • クィディッチワールドカップ


     ラミアが家に帰ると、なんとなく違和感を感じた。いつもと違う。

    「ただいまー」
    「…………」

     いつもすぐに帰ってくる言葉がない。まさかと思い声を出そうと息を吸ったその時


    バシュッ

    「ラミアお嬢様!」
    「サッティ!」

     玄関に屋敷しもべのサッティが目の前に姿現し、焦ったようにラミアのもとへ駆け寄る。

    「どうしたの?サッティ なにかあったの?」
    「れ、レジナルド様が!」
    「レジー?」
    「突然倒れられました!」
    「え……!?」

     ラミアはサッティに連れられてレジナルドの寝室へ向かう。彼はベットの上で息荒く眠っていた。駆け足でより彼の体温を測る。いつもより熱い。だが手足は驚くほど冷たい。



    「何があったの?」
    「そ、それが……」

     サッティはたどたどしく話し始めた。私が出かけた後、彼は書庫に篭っていたらしい。それ自体は珍しいことではない為、暫くは邪魔をしないようにと書庫には近づかなかったという。
     しかし数時間して飲み物を届けに行くと、彼は書庫の奥で倒れていたと言うのだ。

    「正確な時間は?」
    「いえ、わかりません 申し訳ありません!私がいながら……!」
    「大丈夫 気づかなかったならしかたないからね」

     ラミアは脈を計りながら、サッティを慰める。苦しそうにはしているが、眠っているだけのようだ。

    「ん………」
    「レジー………?」
    「ラミア……」

     レジナルドは30分もしないうちに目を覚ました。ゆっくりと上体を起こしラミアの差し出した水を嚥下した。

    「どうしたの?突然倒れたって……」
    「それがよくわからないんです。急に頭が痛んだと思ったら体に力が入らなくなって……。それに左腕も……」

     ラミアは急いでレジナルドの左袖をめくる。そこは何もない。しかしうっすらと見えるのは禍々しい闇の魔法の痕跡。かつてそこにあった闇の印の痕だ。

    「例のあの人が動き出したのか……」
    「例のあの人……」
    「レジー、ごめん このままどうしようもないって言うのが本音 屋敷の周りの結界を強くするから、それで我慢して」
    「大丈夫ですよ、このくらい そんなに自分ばかりを責めないで」

     レジナルドは痛々しげに笑った。




    「ほら、もう夜中ですよ 私は大丈夫ですからラミアはもう寝てください 明日は楽しみにしていたワールドカップですよ」
    「本当に大丈夫? レジーがこのままなら私、行かないでも……」
    「何を言っているんですか?!」

     ラミアの言葉にレジナルドの口調が厳しくなった。しかし次の言葉は優しく宥めるようだ。

    「学生時代の友人に会えると楽しみにしてたじゃないですか チケットをくれたのもそのかたなんでしょう? なら行かなければ失礼ですよ」
    「そうだけど……」
    「なにかあればサッティを呼びに行かせますから」
    「うん……」

     レジナルドの言葉ももっともだ。ラミアはレジナルドの言葉に甘えるしかなかった。






     次の日、待ちに待ったクィディッチワールドカップ決勝戦の日だ。お昼過ぎ、ラミアは姿現しで会場近くまで行き、そこから友人を探して歩いた。人の多さに出会えるまでどれだけ時間がかかるかと落胆したものの、1人とはすぐに出会えた。

    「ラミア!ここよ!」
    「シンシア!久しぶり!」

     シンシア・ウォリスはラミアの学生時代のルームメイトで親友で今は日刊予言者新聞で記者をしている。彼女は豊かな金髪を高く結わえ、今日に備えて動きやす服装で来たようだった。

    「元気だったかしら、ラミア」
    「おかげさまで」

     簡単に挨拶すると、残りの2人を探して人のみの中を歩き始めた。

    「コーディも来られたらよかったのに」
    「そうですわ。でも仕事が忙しいのも大変」

     堅苦しい言葉遣いの変わらない親友に少し笑いながら、もう一人の親友が来られなかったことが少し惜しい。コーデリア・リドゲードもラミアの元ルームメイトで親友、現在は呪い破りとして活躍している。
     見回せば様々な色のテントが並んでいる。どれも自己主張が激しく、目がチカチカしてきそうだ。

    「確かオレンジ色のテントだったかしら」
    「確かね」

     二人はキョロキョロと辺りを見回す。するとラミアは少し先に見知った顔を見た。

    「シンシア、知り合いがいるんだけど挨拶してもいい?」
    「構わないわよ、行きましょう」

     若干古臭いテントの前でマッチで火をつけようと躍起になっている男性に私は声をかける。

    「お久しぶりです、アーサー」
    「おぉ、これは。ラミアじゃないか! それにシンシアまで。久しぶりだなぁ」
    「お久しぶりです」

     なんでもお昼前にハリーに教わったマッチのつけ方をどうにか会得しようとしていたらしい。マグルと魔法使いの混血であるシンシアはアーサーに改めてマッチの使い方を教え始めた。

    「ラミア先生!?」
    「お久しぶりです、ロン、ハーマイオニー お元気でしたか?」
    「うん でも、どうしてここに?」
    「私も見に来たんですよ、ワールドカップ」
    「そうだったんですか……!」

     そんな話をしていると森の方からラミアにとって懐かしい兄弟がやってきた。

    「あれ?ラミアさん?」
    「お久しぶりですね、Mr.ウィーズリー」
    「こんなにウィーズリーがいるなかですら、そう呼ぶんですか?」

     やってきたのはビル、チャーリー、パーシー・ウィーズリーだ。ラミアはつい今まで通りに呼んでしまっていた。

    「名前で呼んでくださいよ」
    「それもそうですね、ビル、チャーリー、パーシー」

     三人はラミアの存在にそれほど驚いてはいないようだった。

    「コーデリアさんが言ってたんですよ。『ワールドカップあたしも行きたい!ラミアもシンシアもビルもずるい』ってね」
    「なるほど。コーディは元気なようですね」
    「めちゃくちゃ、ですけどね。さすがですよ」

     グリンゴッツの職員で呪い破りのビルはコーデリアと同じ職場なのだ。

    「三人とも元気そうで、よかったです」
    「ラミアさんも!卒業以来だから3年ぶりくらい?」
    「そうですね、チャーリー。ドラゴンは楽しいですか?」
    「あぁ、楽しいよ。そのうち見に来てよ」
    「遠慮しておきます。魔法生物は苦手なので」

     きっぱりと返すとチャーリーの残念そうに笑う。ラミアは考えておきますとだけ返しておいた。

     少ししてアーサーはどうにかマッチのつけ方を会得したらしい。アーサーもシンシアも大袈裟なほど喜び、子供達に呆れられていた。

    「そろそろ行きましょう、ラミア」
    「そうだね」

     二人は簡単に挨拶だけしてその場を離れると、オレンジ色のテントを探し始めた。

    「あ、あれかな?オレンジのテント」
    「そうですわ!やっと発見ですわね」

     ハリーたちと離れてから10分もしないうちにラミアとシンシアは目的のテントを見つけた

    「おー、やっときたね」
    「キールさん、ブレアさん」
    「ラミアちゃん!シンシアちゃん! 待ちくたびれたよー」
    「相変わらずみたいですわね、ブレアさん」

     学生時代の二つ上の先輩であるキール・ライリーとブレア・ハウエルだ。現在キールはプロのクィディッチ選手としてブレアは闇祓いとして活躍している。今回のチケットを確保してくれたのキールだ。

    「チケットありがとう、キールさん」
    「どういたしまして。俺は負けちゃったからね、勉強の為にとったチケットが少し多かっただけさ」
    「で、このチカチカしたテントは誰の趣味ですの?」
    「俺だよ。このくらい派手でもいいじゃない!」
    「ブレアさんはもう少し静かにお願いします」
    「ラミアちゃん、キールには敬語外れても俺には外れないよね」
    「見えない壁でもあるじゃね」
    「正解、キールさん」
    「ええ!?」

     ラミアは先輩たちに会うのも久しぶりで、懐かしい会話のテンポに嬉しくなった。



    「どっちを応援するの?」
    「私はどちらでも」
    「俺もどっちでもいいや」
    「俺はアイルランドかなぁ ブルガリアのクラムもスゲェけど」
    「ブルガリアのシーカーだっけ?」

     気が付けば外は暗くなり、4人はスタジアムへ向かう。「クラム」なんとなく聞いたことがある。ラミアはクィディッチは好きだし飛ぶのも好きだが、そこまで熱心に試合を見に行く方ではない。そこまでは詳しくないのだ。

    「今回のシートはブルガリア側ですの?」
    「そうだよ クラム好きの知り合いから買ったからな どっちが勝つんだか……」
    「キールはアイルランドに負けたんだっけ?」
    「うるせー」

     スタジアムへ着けばすでに熱気が上がってきていた。ラミアは柄にもなく気分が高揚していることに気が付いた。ホグワーツでもそこまでクィディッチを見には行かない。ハリーが入学してから少しづつ見に行くようになったぐらいだ。

    「すごい……」
    「珍しくラミアのテンションが上がってますわ」
    「確かに、珍しい」
    「レアだねぇ、ラミアちゃん」

     いつもだったら反論しているであろう言葉にもラミアは反応しないほど、目の前の景色に夢中になっていた。

    「始まるぞ、一生に一度の歴史的な試合だ!」



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