かなわない
「杖を変えたのか、セルウィン」
そう声をかけられたのは私がホグワーツを卒業して一年ほどたった頃だった。ジェームズに引きずられるように入った不死鳥の騎士団。あまり居心地のいい場所ではなかったが、ジェームズに来てくれと言われれば断れるはずがない。
その頃はまだマッドアイ・ムーディとの仲もそこまで悪くなかった。
「マッドアイ…。よく気がつきましたね」
「もともとお前の杖腕は特殊だからな。第一黒い杖が茶色くなれば普通は気がつく。」
「気付いたのはジェームズだけですよ」
「なぜ変えた?折れてしまったわけではないだろう」
「ええ、まあ」
私は手にしていた茶色い杖をそのままに、懐から黒く短い杖を取り出した。
「もともと私のではないので」
「アナスタシア・セルウィンのものか」
「そう言われていますが、果たしてどうなのか…。ホグワーツを卒業して自分にご褒美が欲しかったんですよ」
「白々しい嘘はやめろ」
笑っても誤魔化せないか、と私は嘲笑した。私は黒い杖をくるくる回す。
「これが彼女のものだと思うだけで虫酸が走るんですよ。私に同じ血が流れていることにも」
「なぜだ?彼女がいなければお前は生まれていない。[死]と契約しなければお前は生まれていない。違うか?」
「………」
私の母が一度死に、父の[死の契約]により生き返ったのは私が生まれる前のことだ。
マッドアイ・ムーディの言っていることは正しい。それでも
「アナスタシアは悲劇しかうみませんから」
「……お前がそういうのならそうなのだろう。無茶はするな」
「しませんよ。死ねない理由がありますから。」
「それはお前の秘密が理由か」
「秘密なんてだれだってありますよ。私は一人になっても生きなきゃいけない」
[秘密]それが何を示しているかなんて私が一番わかっている。
「マッドアイ。私は自分のためなら誰にだって杖を向けますよ。例えそれが自分の師であっても」
「だろうな。お前に迷いはないのだろう」
「ない。それを教えたのは紛れもない、あなただ」
「ならいい。約束を忘れるな」
マッドアイは返事を待たず、踵を返して扉の向こうへ消えた。
覚悟は決まっていた。
ハーマイオニーに問われて、私は思い出した。アナスタシアへの憎しみを。理不尽であることはわかっている。レギュラスに起こった悲劇の責任はそこにはない。だがそれでも理性の勝てる話ではないのだ。所詮叶わない。所詮敵わない。
自分にも、彼女にも。
10月30日。ホグワーツにボーバトン、ダームストラング両校がやってきた。それぞれ私の指示したとおりの時刻座標へだったが、あそこまで派手に来るとは予想していなかった。
代表選手の選出はとてもユニークなものだった。ゴブレットの周りにはダンブルドアに加えて私の年齢線も引く。ウィーズリーの双子がなにか企んでいたが、無事に年齢線を超えられることはないだろう。
私は自分の能力を過信していたのかもしれない。彼らはまだだからと気を抜きすぎていた。
10月31日。ゴブレットから吐き出された四人目の代表選手は、他でもないハリー・ポッターだった。