予期せぬ知らせ
私はフラフラと小部屋へ向かうハリーを、目を見開いたまま目で追う。部屋に入ったところで我に帰り、急いで小部屋へ向かう。各学校の校長、クラウチさん、マクゴナガル教授、セブルスも一緒だ。
部屋の中には4人の代表選手とバグマンがいた。
「マダム・マクシーム!この小さーい男の子も競技に出ると、みんな言っていまーす!」
ボーバトンの代表、フラー・デラクールが抗議する。『小さい男の子』という発言にハリーは顔をしかめた。
それに続けてマダム・マクシームとカルカロフはダンブルドアに説明を求める。何故ホグワーツの代表選手が2人いるのか、と。
カルカロフは冷たい笑いと共に冷ややかな視線を私とダンブルドアに向けた。
「我々としては、あなた方の『年齢線』が、年少の立候補者を締め出すだろうと思っていたわけですがね。ダンブルドア、セルウィン」
「私たちの『年齢線』が間違っていたと?」
「そうでなければポッターに名前を入れることはできない。」
「ハリーは入れていない。そうでしょう?ハリー」
「!はい!僕は入れていません!」
「ではなぜ……?」
私はダンブルドアの手に持つハリーの名の書かれた紙をひったくり、杖を向けた。
「ラミア!」
「何をする気だ?セルウィン」
「誰が名を書き誰が名を入れたのか、これに聞けばいいのでしょう?」
「そんなことができるのでーすか?」
私はそれに答えず小さく呪文を唱える。実際に使うのは初めてだ。記憶をたどり長い呪文を唱え続ける。
「古代魔法?」
「さすがセルウィンというところか…」
カルカロフの嘲笑めいた言葉を無視し、呪文に集中する。
紙から赤い煙のようなモヤモヤしたものがあがった。それが視えるのは術者である私だけだ。その煙は少しずつ形を成し、紙に名前を書いたものの名を表しはじめた。その時、
バチンッ!
「なっ!?」
「妨害…?」
鋭い爆発音と共に紙は弾け、私の手の上には焼け焦げた残骸だけになった。
「何が起こったのだ?」
「闇の呪文により妨害を受けました。この紙を書いた本人は私たちに名を知られたくはないようです。つまり、ハリーではない。」
「2本の年齢線を越え、ゴブレットを錯乱させた者が他にいると…」
「セブルスの言うとおりじゃ。何者かが邪魔をしておる。」
セブルスの確信を持った言葉に、ダンブルドアが返す。
「闇の魔法を使う者がこのホグワーツにいるというのか!?」
「ホグワーツの結界はどうなっているんだ?」
クラウチさんとバグマンの声が静かになった部屋に響く。私は冷ややかに返した。
「私の魔法に問題があると?」
「い、いや……」
「だがそう言う事だろう?実際に闇の魔法使いがこのホグワーツに入ってきている。」
私の冷ややかな声にバグマンの焦った言葉が返ったが、カルカロフはそれでもなお冷たく返す。
「少なくとも結界に物理的な穴はありません。セルウィンの名に誓いましょう。ですが内通者がいるのなら話は別です。」
私はその場の人間を見回す。それができる可能性の高いのはここにいる者達だ。
それを感じ取ったクラウチさんがその場を取り繕うように提案する。規則に従うべきだと、『炎のゴブレット』から名前が出てきたものは試合で競う義務があると。
カルカロフやマダム・マクシームは納得がいかないようだったが、そこへ予期せぬ者が部屋へやって来た。マッドアイだ。
「代表選手を置いて帰ることはできまい。選手は競わなければならん。選ばれたものは全員競わなければならんのだ。ダンブルドアも言ったように、魔法契約の拘束力だ。都合のいいことにな」
マッドアイはカルカロフを煽るように言った。しかしカルカロフは相手にするまでもないというように軽蔑した視線を向ける。
「セルウィンの魔法が示した。ポッターがいれたのではないことをな。名前を入れたものは並外れて強力な『錯乱の呪文』をかけ、ポッターを4人目の代表者に仕立て上げた。」
ムーディの言葉にその場にいた全員が口を噤む。
その後第一の課題についての説明があり、場は解散となった。
私はハリーのもとへ行く。彼はまだ現実を信じ切れていないようだ。
「ラミア……」
「何かあれば…、いや何もなくてもあの部屋においで。私は君の味方です。力になりましょう。」
「っ…!ありがとう」
きっと彼にとっては辛い現実だ。
自分の部屋へ戻ろうと階段を下りる。先程の部屋でのことを考えていた。結局闇の魔法使いがハリーの名を入れたという事実は伏せられることとなった。混乱を招きかねないからだ。しかしハリーにとって辛いことになるというのは変わらない。全力で守らなければ。
そう思ったその時ふっと力が抜け体が傾いた。
「…あ?」
「ラミア!」
落ちると思った時、誰かが私の腕を掴んだ。
「大丈夫か!?」
「セブルス…。うん、大丈夫。少しふらっとしただけ。ありがとう」
腕を掴んでいたのは先程まで同じ部屋にいたセブルスだった。
「慣れない呪文を使うからだ」
「だね。魔力をがっさり持っていかれた感じ」
「お前でそれなら普通の魔法使いでは扱えない。無茶をするな」
セブルスの眉間にしわが寄る。起こっているようだ。
「ごめんごめん」
「お前の大量の魔力を回復させるのに自然回復だけでは一年かかるぞ。ポッターの手助けするのだろう?…部屋に来い」
「うう、返す言葉もございません」
私はセブルスの助けを借りながら彼の私室へ向かった。
「これを飲め」
「苦い?」
「当然だ。いいから飲め」
「わかったよ…。……苦い。」
青く透明なそれこそブルーハワイの様な色をした薬は、見た目にそぐわないひどい苦味をしていた。私は一気に飲み干し、眉間にしわを寄せた。
「週に一回だ」
「そんなに!?」
「飲めばひと月で戻る」
「飲みます…」
ひと月の我慢。私はそう心の中で唱えた。
「そういえば…」
「ん?なに?」
「お前は行くのか?結婚式」
「……ん?」
結婚式?何のことだ?
私は言葉を返すこともできないまま、セブルスの言葉を聞く。
「急な結婚だからイースターに行うと言っていたか……。ラミアなら1日くらい休んでも構わないだろう」
「え、え。ちょっと待って?誰が結婚するって?」
私はあわてて言った。本当に心当たりがない。セブルスはその様子から何かに気が付いたようで、はあと深い溜息を吐いた。そして机の上から何かをとる。
「手紙を読んでいないな。まあ、あいつの手紙は長ったらしくしつこいから読む気にはならんだろうが……」
「長ったらしくしつこい手紙…?………あ!まさか!」
「そのまさかだ。」
手に取ったのは派手な黄色い手紙。彼の好きな色。
「ブレア・ハウエルが結婚する。それもマグルの女とな」
セブルスは嫌そうな顔を隠そうともせずに、黄色いリボンの巻かれた厚い手紙をひらひらと振った。