消えてしまった者たちへ
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  • 夢ならざる夢


    「あ、おはよう。レギュラス」


    ゆっくりと目を覚ました僕に微笑みかけたのは唯一の親友。彼女は机に向かってココアを飲みながら本を読んでいるようだ。時計を見ようとするがここからは見えないようで、ただ彼女がここにいるなら気にするような時間ではないのだろう。


    「珍しく寝入ってたね。疲れてたの?」


    体を起こし簡易ベッドに腰掛けるように座る。疲れていたのかと聞かれればそうだったのかもしれない。



    「課題大変そうだったもんね。いつもと立場が逆だ」


    彼女はくすくすと笑いながら僕にカップを渡す。中には暖かなココアが注がれていた。
    ほう、と息をつきながらゆっくりと一口。懐かしいようなそんな味。何だっただろう。
    首をかしげた僕に彼女はまた笑う。


    「隠し味だよ。ココアが美味しくなる魔法がかかってるの」


    手をひらひらとさせカップへ向ける。彼女のココアはいつも魔法がかかっているらしい。

    いつもは彼女がこの部屋で寝入ってしまって、僕が朝迎えに来てちゃんと帰りなさいと叱っていた。きっと一度こんなことがあれば彼女はまた帰らなくなるのだろう。でも何故か今日はそれでもいいのではと思ってしまった。
    この小さな二人きりの世界は僕にとって小さな楽しみなのかもしれない。
    目が覚めてそこに彼女がいる。
    それだけで幸福を感じるほど僕は彼女に毒されているのだ。



    「今日は土曜日だからゆっくりできるね。そのために昨日から頑張ったんだもの」



    そうだったなぁとまた一口ココアを口に入れる。珍しく自分が微笑んでいることに気がついた。



    「幸せだね、レギュラス」



    微笑む彼女が酷く愛おしくなった。








    「でもその幸せをレギュラスが壊したんだ」



    彼女はその表情を変えないまま、低く這うような声を発した。

    え、と声もなく僕は彼女を凝視した。彼女の表情は変わらない。
    彼女の視線が僕の左手にかかる。咄嗟に僕は右手で隠すように左手を抱えた。



    「私はあなたがいれば幸せだったのに、あなたは私を裏切った。

    私の母を父を兄を殺したあいつの仲間になった。

    それでも私はあなたを見続けたのに

    それなのにあなたは独りで死のうとした。」



    彼女はゆっくりと立ち上がり僕を見下ろす。その目は真っ暗で何も無い。



    「ねえ、どうして?

    私はあなたがいればそれでよかった。

    あなたも私がいれば良かったでしょう?

    それなのにどうして?

    どうして私を独りにしたの?

    どうして独りで死へ逃げたの?」



    まくし立てる彼女に僕は咄嗟に耳を塞いだ。目を閉じた。それでも彼女の声は頭に響く。逃げ場はないと言うように。


    「私がいなければあなたは死んでいた。

    あなたがいなければ私は幸せになれた。

    出会わなければよかったんだ」


    彼女の言葉が僕に突き刺さる。


    「そう、出会わなければよかった。
    あのコンパートメントの中で

    追い返しておけばよかった。
    あの図書室で

    ライバルなんていらなかった。
    クィディッチにもテストにも

    受け入れなければよかった。
    あなた自身を」


    彼女の手がゆっくりと僕の頬にかかり、僕は顔を上げ目を開いた。うつるのは何も無い黒い瞳。


    「あなたが憎いよ、レギュラス

    あなたなんか嫌い、大嫌い」


    僕の瞳から雫がポツリと落ちた。









    「っ………、夢…」


    レジナルド・アークライトはいつもの部屋で目を覚ました。時計を見ればまだ早朝の3時。屋敷しもべ妖精ですらまだ眠っているだろう。

    こんな悪夢を見るのは初めてではない。今までもよく見ていた。多分これはただの夢でもレギュラスの記憶でもない。レギュラスの体に残る毒を作ったヴォルデモート卿の呪いだ。その者の後悔を見せ、精神を揺らがす。それ故にレギュラスは忘れてしまいたいと思ったのだろう。
    これをラミアに話したことは無い。話せばきっと自分のせいだと考えてしまう。だから話すわけにはいかなかった。

    夢で見るものが果たして本当の記憶なのか、ヴォルデモートの呪いによる都合のいい嘘なのか、レジナルドにはわからない。
    だが全く思い出していない訳ではない。
    きっと自分の中にこの悪夢がある限り、レギュラス・ブラックが帰ってくることもないのだろう。

    レジナルドは自分以外誰もいない部屋の中、今はない左手の肩を抱えた。

    嫌いな色で塗りつぶして