暴かれた真の姿
その日の夕暮れ、第三の課題がクィディッチ競技場で行われる。ルールは簡単。クィディッチ競技場に作られた迷路を抜け、そのゴールにある優勝杯を最初に手にした選手の優勝だ。その迷路には様々なトラップが仕掛けられている。呪文や技術も勿論必要だが、それ以上に運の必要な競技だと私は思う。
私は競技中迷路の外側を巡回する中に加わっていた。ダンブルドアはホグワーツの守護壁も維持している私はそこに加えたがらなかったが、私は聞かなかった。何かあったときにすぐに駆け付けられる場所にいた方が好都合だと思ったからだ。
「紳士、淑女の皆さん。第三の課題、そして、三大魔法学校対抗試合最後の課題が間もなく始まります!」
バグマンの魔法で拡声された声がスタンドに響き渡る。あまり心地いい声ではないため、少しだけ眉間にしわを寄せてしまった。
「現在の得点状況をもう一度お知らせしましょう!」
同率一位のハリーとミスターディゴリー、三位にクラム、四位にミスデラクール。つまりこの順番に迷路の中に彼らは入っていく。
「ではホイッスルが鳴ったら、ハリーとセドリック! いち、に、さん」
バグマンが笛を鳴らす。ハリーとセドリックが迷路の中へと消えていった。正確な時間はわからない。しかし3分ほどで次のクラム、そしてその3分後あたりでフラーが迷路の中へと消えていった。
あと私は迷路の周りをただひたすら巡回するだけだ。
15分ほど経っただろうか。天を突き抜けるような女性の叫び声が響いた。フラーだ。私は急いで杖を構える。私の渡したあのペンダントの発動を感じたのだ。
急いで彼女のいる場所を探知し迷路の中へ入っていく。迷路は私たち教師には何の障害にもならないよう魔法がかけてある。彼女の元へ行くのは全く難しくなかった。比較的外側に彼女はいたのだ。
「フラー・デラクール!」
倒れている彼女に駆け寄る。気を失っているだけらしかった。ひとまず意識を戻す前に迷路の外に出す必要があった。浮遊呪文で彼女を浮かせ、急いで迷路を出て入口の方へ向かう。
マダムマクシームの悲痛な叫び声の聞くに堪えない言葉に私はまた眉間にしわを寄せた。その時。もう一つペンダントの発動を感じる。誰のものかはわからない。悲鳴も聞こえない。ただ、何かに発動しただけならいいのだが。私は近くにいたダンブルドアに目線を合わせる。
「校長、また誰かの守護魔法が発動しました。誰かはわかりません」
「そうか。3人の魔力は感じるかね?」
「……ええ。恐らく3人とも無事でしょう」
視線を迷路の方へ廻らせる。耳を澄ましてみるが、耳が特別いいわけではない。ざあ、と風の音だけが聞こえた。
「ダンブルドア、マッドアイはどこへ」
「アラスターはおぬしと同じ、迷路の見回りじゃ」
何故か嫌な予感がした。そしてその数分後、赤い火花がバシュと空に果てる。
「赤い合図だ!」
誰かの声が響く。誰の合図だ。誰か教師が赤い合図の場所へ向かうのが感じられた。恐らく、マッドアイ。
数分後、マッドアイが連れてきたのはぐったりとしたクラムだった。
「気を失っているだけのようだ。何にやられたかはわからんが」
彼の体には少しだけ誰かから受けた魔力の痕跡が残っている。酷く嫌な臭いを放つそれに私は嫌な予感がした。
「マッドアイ、クラムから離れてください」
「なんだラミア、何をする気だ」
「そうだぞ、セルウィン! 私の生徒に何をする気だ!!」
「黙りなさい、カルカロフ! あなたの生徒は禁じられた呪文を受けた可能性があります!」
カルカロフの顔が恐怖に染まる。そしてダンブルドアが、本当か? と言いながら私の元へやって来た。
「すぐにわかります。マッドアイ、離れて」
私の二度目の言葉にようやくマッドアイがクラムから離れる。ピッチに横たえられたクラムに茶色い杖を向ける。小さく息を吐いてから杖を彼に向ける。ハロウィンのような失敗はしない。魔力のコントロールはもともと十八番なのだ。そして前回妨害したであろう、魔法使いは人の多いここでは妨害できないだろう。
長い呪文を呟く。全て私の頭に入っている古代呪文。そして少しずつ魔法の権化が浮かび上がる。私にしか見えない真実が、ここに浮かぶ。
私は目を見開いた。そういうことだったのか。私の異様な表情に気が付いたダンブルドアが、もう一歩私に近づく。私は杖を下ろし彼の方へ振り返った。
「ダンブルドア、急いでこの課題を中止し……。え?」
中止してください、そう言おうと思ったのに、私の言葉は途切れた。ゆっくりと迷路の方へ振り返る。
「どうしたんじゃ、ラミア」
「2人がいません! 迷路のどこにも。そしてどちらかのペンダントが強い魔力で破壊されました!!」
「なんじゃと?!」
急いでダンブルドアが杖を振り、数人の魔法使いが迷路へと向かう。私は急いで残りのペンダントの居場所を探ろうとする。しかし同じように強い魔力で妨害される。これは
「ワームテールの青いリボンと同じ……」
私はその場にいる魔法使いを確認する。観客席にはモリーやシリウスがいる。ピッチには私、マクゴナガル、ダンブルドア、スネイプ、バグマン、パーシー、そしてマッドアイ。
私は迷うことなくマッドアイに杖を向けた。
「何をしているんですか、ラミア!!」
マクゴナガルの焦った声が聞こえる。しかし私は冷静なまま答えた。
「正体を見せなさい、マッドアイ。いや、バーティ・クラウチ・ジュニア」
彼の口元がいやらしく歪んだ。
「どういうことじゃ、ラミア」
「彼がマッドアイでないことは気が付いていました。しかし誰であるかわからなかった。ようやくわかりましたよ。死んだと思っていたのですがね、バーティ」
「何を言っているのか意味が解らんな、セルウィン。血迷ったか?」
「言っておきますが、そんなものに煽られたりはしませんよ。もともとそう言う質ではありませんから。ダンブルドア、彼は私の杖が二本あることを知らなかった。十分それだけで彼がアラスターでないことの証明になります。恐らくポリジュース薬でも飲んでいるのでしょう。それならきっとアラスターは生きている」
「セブルス、アラスターの部屋を」
「わかりました」
さすがダンブルドア、話が早くて助かる。スネイプが競技場から早足で出て行くのを視界の隅でとらえた。
「バーティ。ハリーとセドリックをどこに飛ばした」
「……言うと思うか?」
「私の魔法を舐めるなよ。すぐに、わかる」
「流石セシルのいとこだな。あいつも優秀だった。なぁ、ナンシー」
バシュ
「きゃっ!!」
赤い光線が彼を貫く。恐らく女生徒の叫びが静かだったピッチに響いた。彼はその場に石のように倒れた。
「ただの失神呪文です。縛っておきましょう」
「私がやりますわ、ラミア」
「お願いします、副校長」
少ししてスネイプがピッチに戻って来た。マッドアイの部屋のトランクの中に本物のアラスタームーディが閉じ込められていたと言う。今は医務室に運ばれたらしい。スネイプはそれだけをダンブルドアに告げると、縛られたマッドアイ擬きを連れてまたピッチを出て行った。
「ラミア。ハリーの、二人の居場所は」
「おそらく、あと少しで……」
いつの間にかスタンドから降りてきていたシリウスが私の隣に立つ。私は杖を下ろし、目を閉じる。どこだ、どこにいる。バーティは死喰い人だ。彼がハリー達を導いたのなら、その先にヴォルデモート卿のいる可能性が高い。一刻を争う。
「ラミアお嬢様!!」
「え? サッティ?」
聞きなれた声に私は急いで瞳を開ける。目の前にいたのはセルウィン家の屋敷しもべ妖精、サッティだ。
「ラミア、お前のとこの屋敷しもべか?」
「ええ。どうしたの? サッティ、今忙しいから、後にし……」
「レジナルド様の様子がおかしいのです!」
「レジーが?」
私はしゃがみ込みサッティと視線を合わせる。彼女は言葉を続けた。
「突然胸が痛いとおっしゃられて! ないはずの左腕が痛むと……!」
左腕…。闇の印か!
「どういうことだ、ラミア」
「あとで話す! ちょっと待って」
私はもう一度目を閉じて集中する。もしかしたら、今ならたどれるかもしれない。
「ダンブルドア! 見つけました!」
私はダンブルドアの言葉を待たない。ウィンキーの手を取る。
「すぐに戻ります」
「ラミア!!」
シリウスの叫びが私の耳に届いた次の瞬間、その空間は歪んだ。