消えてしまった者たちへ
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     次の日の午前中、ハリーはラミアの言葉の通りグリモールドプレイス十二番地に連れられた。トランク一つとヘドウィグとその籠を引きずり、シリウスの姿現しでやって来たのは何の変哲もない住宅街。目の前には十一番地とその隣の十三番地。ラミアの言っていた十二番地はどこにも見当たらない。

    「十二番地は? シリウス」
    「ちょっと待て。ほら。声に出さずに読んで覚えろ」

     シリウスは懐から一枚の羊皮紙を取り出しハリーに見せる。特徴的な縦長の文字には見覚えがあった。

    『不死鳥の騎士団本部は、
    ロンドン グリモールド・プレイス 十二番地に存在する。』

     言われたとおりに声を出さずに読む。それで? とシリウスと見上げると、見てみろと言うように視線を十一番地と十三番地の間に向けた。釣られて視線を向けると、どこからともなくその間から扉が現れ、壁が現れ、窓が現れ。気が付けば十一番地と十三番地の間に十二番地が現れていた。

    「行くぞ」

     すたすたとその扉に向かうシリウスに数秒遅れてハリーは小走りに追いかけた。



    「え? シリウスの実家なの?」
    「ああ。で、今はレギュラスの家」

     複雑な遺産相続の結果、死んでいたはずのレギュラスに家の相続権が移ったんだと肩をすくめながらひそめた声でシリウスは言った。ガスランプの点る玄関ホールは奇麗に整えられ、しかししかし灯りが小さいせいか酷く暗く沈んで見えた。籠の中でヘドウィグがホーと一鳴きした。綺麗に整えられているとは言ったが、壁紙の一部は剥がれて内側が見えているし、カーペットも擦り切れている。ただそれに似つかわしくなく埃はサッパリなかった。

    「まだ手入れが途中らしい。ほとんどの掃除は屋敷しもべが済ませたとは言っていたけど、新しい壁紙も絨毯も買いに行けてないってさ。ああ、ここでは少し声を低くしてくれ」

     理由も聞けないままシリウスは苦笑いを見上げた。控えめに輝くシャンデリアもすぐ傍の華奢なテーブルに置かれた燭台にも蛇の装飾がされている。ハリーにはどうにも理解できない趣味だ。ホールの一番奥の扉の先から数人の話し声が聞こえてくる。何人ぐらいいるのかわからないほどには人がいるらしく、シリウスに続いてハリーはホールを抜けていく。
     トロールの足の形をした傘立てが不気味に置かれており、ハリーはそうっとそれを避けた。虫食いだらけの長い両開きのカーテンの前を通る。恐らくその奥にも扉があるのだろうとハリーは思った。

    「ここには誰がいるの?」
    「たくさん。今会える」

     嬉しそうに笑うシリウスに少しだけ安心して先へ進む。不死鳥の騎士団と言う意味も、その本部と言う意味も分からないハリーはここに果たして自分の知っている人がいるのか心配だったのだ。昨日のラミアはまるで自分が素晴らしいことをしたと言わんばかりにハリーに訪問の許可を知らせたが、未だにその意味もわからない。少し緊張を残したまま、シリウスの開く扉をハリーは凝視した。


    「ハリー!」
    「ウィーズリーおばさん」

     扉が開いたと同時に飛び出してきたロンの母親のモリーはシリウスをサッと避けてハリーを抱きしめた。声に歓喜がにじんでいるが、やはり低く潜めたままだ。

    「また会えてうれしいわ」
    「僕もだよ、おばさん」
    「おお、来たね。ハリー」
    「リーマス」

     開いた扉から顔だけをのぞかせるルーピンは前に会った時よりも酷く痩せたように見えた。相変わらずつぎはぎだらけのローブを身に着けている。

    「食事はしてきた?」
    「ああ、今から会議か?」
    「もう始まってる。人は集まったからね」
    「ラミアは?」
    「別の任務だ。夕方までに来るだろう」

     会議や任務と言った聞きなれない言葉が飛び交う。ハリーがぱちぱちと瞳を瞬かせるとモリーがハリーにニッコリと笑った。

    「上にロンやハーマイオニーがいます。全て聞くといいわ」
    「うん、わかった」
    「二つ目の踊り場の右側の部屋よ。あなたの部屋もそこ」

     聞きたいことはたくさんあったが、上にロンがいるのなら話は別だとハリーはシリウスとルーピンに手を振ってからホールの階段から上へ向かった。



     部屋にいたのはロンとハーマイオニー、ジニーだった。ハリーの姿を見た瞬間ハーマイオニーはハリーに抱き着き目の前は豊かな髪に埋め尽くされた。

    「ハリー! やっと来られたのね!」
    「元気そうだな」
    「ハーマイオニー、ロン、それにジニー。久しぶり」

     はにかむハリーにロンも笑いかける。ジニーも変わらず笑ってハリーに駆け寄った。

    「ねえ、僕わからないことが多すぎるんだ」

     そう言うハリーに三人は座るようにすすめてから、順序だって説明し始めた。


     ここは不死鳥の騎士団本部。不死鳥の騎士団とは例のあの人に対抗するための団で、前回例のあの人と戦った時に作られたと言う。一度は解散したものの、ヴォルデモート卿の復活により再結成された不死鳥の騎士団は、このグリモールド・プレイスを本部とした。今まで誰にも使われておらず適度な広さがあり、その持ち主が死んだとされていたレギュラスブラックであるため数回の話し合いにより決定したのだ。元死喰い人であるレギュラスのことを危険視する団員も多く、ラミアのことも信用していないと公言する団員すらいたために難航を示した会議だが、たった一枚の手紙からそれは大きく転機を見せた。

    「手紙?」
    「そう。君のお父さん、ジェームズ・ポッターの手紙」
    「父さんの?」
    「そうよ。あなたのお父さんの直筆の手紙。ちゃんと本人が真実を書いたって魔法付きのよ。あんな高度な魔法初めて見たわ」
    「なんて書かれてたの?」
    「レギュラス・ブラックは確かに元死喰い人だけど、ヴォルデモート卿を裏切り彼の弱点を見つけ出してその一つを手に入れるために命を落としかけ、ラミアがそれを助けて記憶喪失になったと書かれてたわ。見せてもらったの」

     昨日本人から聞いたものと同じ内容。ハリーは昨日ラミアだけではなくレギュラスにも会い、話をしたことを話した。

    「そうだったの! 私はまだ話せていないわ」
    「どうして? ハーマイオニー。彼はここに住んでるんだろう?」
    「レギュラスさんはここに住んでるけど、あんまりいないんだ。ラミアと一緒に任務に出てる」ロンは欠伸をかみ殺してから、あまり寝てないんだと笑った。
    「それに私はマグル出身でしょう? レギュラスさんは純血主義よ。好んで話しかけたりはしないわ」
    「でも僕には普通だったよ。僕のかあさんがマグル出身なの知らなかったのかな」
    「違うわ、ハリー・ポッター。彼はただ単にあなたの父親に返しきれない借りがあるから、あなたに好意的に接するの。それにあなたはラミアのお気に入りだしね」

     突然入り込んできた澄んだ声にハリーは驚いて振り向いた。音もなく開いていた扉から顔をのぞかせたのは茶色のショートカットで同じ色の瞳を輝かせた三十代くらいの女性だ。

    「コーディ!」

     コーディと呼ばれた彼女はそのまま部屋に入ってくるとハリーの目の前に立ち片手を差し出した。

    「はじめまして、ハリー。私はコーデリア・リドゲード。ラミアの友人でビルの上司よ」

     ハリーは反射的にその手を握り小さく頭を下げた。

    「よろしく」
    「で、どうしたの? 会議してたんじゃ……」
    「あの雰囲気耐えられない! それでなくとも仕事に追われてまともに休みなかったのに、ようやくロンドンに帰ってこられたと思ったらあんな辛気臭い部屋に閉じ込められて難しい話して、無理だわ!」
    「本当にコーディって子供みたいね」
    「大きなお世話よ!」

     頭をぐしゃぐしゃとかき回して短く叫んだ彼女はハリーの隣にどさりと座った。

    「そうそう、さっきの話だったわね。ハリー、あなたがただのハーフの魔法使いだったらレギュラスは多分視線も向けないわ。クォーターである私ですら、話しかけたって一回じゃ帰ってこなかったもの。今ではちゃんと答えるけれど」
    「ハーマイオニーは大丈夫なの? その、酷いこと言われたり……」
    「彼はマグルやその親戚に対して無関心なだけみたい。何もないわ」

     不死鳥の騎士団には先ほどあった人たちだけでなく、二十人ほどの魔法使いや魔女たちがいるらしい。そのなかにセブルス・スネイプの名前があることには驚いた。

    「ラミアは相当渋々だったようだけれど」
    「そうなの?」
    「ジェームズからの手紙でラミアとレギュラスが敵でないことは証明されたけれど、それでも信用しない人と言うのはいるからね」
    「僕のパパとママもあんまりよくは思ってないみたい。口には出さないけど、ラミアが口を開く度に苦虫を食い潰したような顔をするんだ」
    「仕方ないわ。ここにはウィーズリー家族がたくさん入団しているんだもの」
    「ラミアが信用ならないっていうのか?」
    「そうじゃない、そうじゃないわロン。でもあなたたちのことを守りたいからそう思うのよ、きっと」

     ハーマイオニーは焦ったように言う。コーデリアは仕方ない仕方ないと苦笑いした。

    「僕もその手紙みられる?」
    「もちろん。後で私から話を通しておくよ。出来ればそのまま君が手にできるように」
    「ありがとう、コーデリアさん」
    「コーディでいいわ、ハリー」

     笑って肩をすくめる――多分癖だ――コーディはすくっと立ち上がった。

    「そろそろ終わったかしら。おやつ食べたい気分」
    「本当に子供みたいでしょ?」

     ジニーのささやきにハリーは吹き出してしまった。

     その後も話は続いた。世間は例のあの人が復活したことを知らないと言う。ハリーの言葉は全て頭のおかしな妄言で、ダンブルドアはとうとうボケてしまったのだと新聞は報じているのだ。しかしその場の皆、そして少なくとも騎士団のメンバーはヴォルデモート卿が復活してということを信じていると知りハリーは少しだけ安心した。








    「少し早いけど夕食にしましょう」

     階下から聞こえた声にハリー達は階段を静かに降りた。なんでも起こしてはいけない何かがホールにいると言うのだ。

    「今のところそれを沈められるのがラミアとレギュラスさんしかいなくて。二人がいないときはなるだけ静かにしているの」とジニーは嫌そうに言った。

     しかしそれは叶わなかった。


    バタッ!


     音のした方を向くとそこには床にはいつくばって悶えるトンクスの姿。トロールの足の形をした傘立てにつまずいたのだ。

    「ごめんなさい! ああもう、この悪趣味な傘立てのせいよ! これで二回目――」

     その先の言葉は身を凍らせるような叫びにかき消された。
     さきほどハリーが通った両開きのカーテンが勢いよく開き――そこは扉ではなかった――ひとりの女性の肖像画が酷く叫んだのだ。よだれを垂らし白目を剥く彼女の肖像はハリーが今まで見た中で一番醜く不快な肖像画だった。
     その声に他の肖像画も目を覚ましともに叫び始める。

    「穢らわしい! クズども! 雑種、異形、でき損ないども。ここから立ち去れ」

     まるで不協和音を聞いているような酷い声にハリーは咄嗟に耳を塞いだ。しかしその隙間からもにじみ出るような深いな音にハリーは吐き気がした。モリーとルーピンが飛び出し、カーテンを閉めようと躍起になる。

    「黙れ。この鬼婆、黙るんだ!!」

     シリウスが肖像画に叫ぶ。聞くに堪えない暴言に、肖像の老婆も負けじと返していた。二人も必死にカーテンを閉めようとするのだがレールから動く気配もない。トンクスは体勢を立て直し周りの肖像画に失神呪文をかけていた。


    「相変わらず、騒々しいですね」

     耳を閉じていたのに、その声はハリーの耳に凛と響いた。静かに響く女性の声。リーマスとモリーがあからさまにホッとした表情をしたのが見て取れた。

    「ヴァルブルガさん、こんにちは」
    「ラミア! この穢れた血どもを追い出して! ブラックの家が穢れる!!」

     外から静かに入って来たラミアは足音も立てないまま玄関ホールに入り、肖像画の前まで来るとにこやかに挨拶した。しわがれた声が静かになったホールに響きラミアが困ったように笑う。

    「すみません。私が呼んだんです」
    「何故! ブラック家を穢す気?!」
    「いいえ、違いますよ。お母様。どうしてもそうしなければならない用があったのです。レギュラスには許可をいただいております」
    「レギュラスに?」
    「ええ。彼も渋々ですが許可してくれましたよ。お母様、許してくださいませんか?」
    「うぅ……、早く帰しなさい! 長くいられては空気が悪くなります」
    「わかりました。ありがとう、お母様」

     ラミアはそっとカーテンの端をリーマスとモリーから受け取り、勢いよく閉めた。

    「はあああぁ」

     大きな溜息を吐いたのはトンクスだ。

    「ありがとう、ラミア。本当に」
    「別にかまわないよ。もう少し早く来ればよかった?」
    「いや、ベストタイミングだ。なんで息子である俺の言うことは全く聞かないくせに、ラミアの言葉は聞くんだこの母上は」
    「あなたがこの家を出て行ったからでしょう?」

     何でもないように言って両手をはたき、階段の途中にいたハリーの姿を見とめるとラミアはホッとしたように笑った。

    「お疲れさま、ラミア。一人なの?」
    「ええ。レギュラスは今日来られないようです」

     モリーの言葉に返しながら、杖を取り出し小さく振る。するとどこからともなく真新しい壁紙が現れると、みるみるうちに綺麗に貼りなおされていく。

    「同じ模様のは見つからなかったから似たようなのにしたわ。良かった?」
    「ああ、助かるよ」
    「これならヴァルブルガさんも嫌がらないでしょう。――クリーチャー」

    バチン

     姿現しの音に驚いてハリーは階段から降りていた足を止めた。ラミアの足元には屋敷しもべ妖精が一人。酷く老いたそれは深々とラミアにお辞儀した。

    「なんでございましょう、ラミアお嬢様」
    「変わったことはない?」
    「まったくございません」

     先ほどの老女にも負けず劣らず聞き難い声に皆が嫌そうに顔をしかめた。しかし不思議なことにラミアとそのクリーチャーと呼ばれた屋敷しもべ以外声を発さない。

    「みんなのいうことは聞いていた?」
    「っ、聞いておりました。クリーチャーは血を裏切るものの言うことを……!」
    「レギュラスが明日には帰ってくるわ。それまで彼の部屋の掃除をして欲しいってレギュラスからの伝言」

     血を裏切るものと酷く嫌悪感を滲ませていたクリーチャーはレギュラスからの伝言と聞いてぱあと顔を明るくして、かしこまりましたと早口で言ってからぱちんと姿くらましした。

    「今のは?」

     ハリーはすぐ後ろにいたロンに問う。ロンはようやく息ができると言わんばかりに肩で呼吸した。

    「ブラック家の屋敷しもべ妖精のクリーチャー。純血主義にどっぷりつかった嫌な奴だよ。でも料理は上手だし掃除もうまい。まあしもべ妖精だし当然なんだろけど」
    「ブラック家の屋敷しもべ妖精ならどうしてラミアの言うことを聞くの?」
    「彼女がこの家でブラック家の次に綺麗な純血だからよ。それだけ。それに彼らは昔からの知り合いだし」

     コーディは腕を空に掲げるように体を伸ばして言った。

    「ああ、でも。キングズリーも聖二十八一族か……。まあラミアは特別だろうね」
    「聖二十八一族って……」
    「食事にしますよ。ほら厨房に集まって」

     ハリーの疑問はモリーの声にさえぎられてしまった。ホールにいた皆が階段を一番下まで降り、厨房へ向かった。




     決して和やかとは言えない食事を終え、大人たちはハリーにどこまで話すかを口論した。伝えるべきではないと言うモリーと、ハリーには知る権利があるというシリウス。今まではシリウスの家で何も伝えられなかったのはダンブルドアからの言伝だったが、ラミアがダンブルドアに話に行きようやくこの本部へ来ることが許され多少の情報の共有が許されたと言うのだ。

    「ダンブルドアは『ハリーが知る必要のあること以外は話してはならない』、そう言ったんでしょう、ラミア!」
    「ええ、そうですね」
    「私だってそれ以上のことを話すつもりはない。しかしここにいる以上、ハリーは知る権利がある。ヴォルデモートの復活を目にしたのは紛れもない、彼だ」
    「誰も彼のしたことを否定したりなんてしないわ! でも彼は――」
    「ハリーはもう子供じゃない」
    「大人でもないわ!」

     モリーとシリウスの口論は続く。ラミアが口を開いたのはその口論がようやく収束をみせようとするところだった。アーサーとルーピンの提案により、ハリーにも情報を与えてやるべきだという方向に決まりかけた時、シリウスが静かに言った。

    「ハリーはあなたの息子じゃない」
    「息子も同然です。他に誰がいるっていうの?」

     モリーの激しい口調にラミアがピクリと動き、モリーを見た。その視線に気が付いたのか、モリーもラミアを見つめる。私がと言いかけたシリウスはその様子に気が付き口を閉じる。

    「私がいますよ、モリー。私も私なりに彼にとって一番良いように考えてきたつもりです」

     高ぶったままのモリーは突然話に入って来たラミアに苛立たしそうに言う。

    「知っていますよ。ですが貴女はここまででしょう……!」
    「モリー!」

     シリウスが信じられないと言うように名を呼ぶ。しかしラミアは何でもないように口を開いた。

    「まあ、そうですね。では私は早々にお役御免ということですか? 親なら自らの最後まで子を見守るのが当然でしょう。それともモリー、あなたはそれも許さないと?」
    「待って! ラミア、どういう意味?」

     ハリーはラミアの意味の分からない言葉にどうしても口を閉じてはいられなかった。まるで、ラミアがすぐにでも死んでしまうみたいじゃないか!

    「ハリーに話していないの? 息子だといいながら、あなたは自らの話もしないの」
    「言い過ぎだ、モリー」

     アーサーはモリーの肩に手を置き落ち着くように促す。ラミアは小さく笑ってハリーに視線を向かわせた。

    「言ったでしょう、ハリー。セルウィンの家のものは短命だと」
    「でも、まだラミアは若いでしょう。まだ何年も先じゃ……」
    「私も一年前まではそのつもりだったんですけどね。……私は今年でホグワーツでの教職を降ります」

     ハーマイオニーの小さな悲鳴が聞こえた。ラミアのその言葉を理解するより前に、ラミアは立ち上がって扉へ向かう。

    「また来ます。何か用があればカードを使ってください。……ああ、コーディ」
    「なぁに? ラミア」
    「サッティがクッキー作ってくれたから、また持ってくるよ」
    「やった、ありがと!」

     場に似合わぬ会話を残してから、ラミアは部屋を去った。残ったのはご機嫌そうなコーディの鼻歌と不穏に沈んだ空気だけだった。



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