消えてしまった者たちへ
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  • 守護霊と器


    「ラミアさん、次の低学年授業どうします?」
    「ああ、三回目だっけ?」
    「そうです。で、そのあと中学年授業」

     アントニーの言葉に記憶を辿る。内容次第ではアントニーに任せることも考えなければならないのだ。
     ASHの授業はどの学年も希望は定員を超えて抽選になった。従って三、四、五年生の特別授業枠はなくなったのだが。

    「まさかあんなに人気になるなんてね」
    「みんなわかってましたよ」
    「えぇ…」

     あまりにも三、四、五年生の希望者が多かったため、中学年向けに授業枠を低学年の授業後の15時から作った。もちろん数名に反対されたのだが、希望が多いのならやるべきだ。

    「低学年だけお願いしていい? 残りはやるよ」
    「わかりました。後で内容確認させてください」
    「ありがとう」

     アントニーは私が夏休みの終わりに突貫で作ったテキストを見ながら、私にお茶をいれてくれた。魔法を使わない私の代わりに彼がすべてをこなしてくれている。

    「魔法が使えないってこんなに不便なのね。本当にマグルを尊敬するわ」
    「あなたの場合使えない魔法がなかったから尚更思うのでしょう。まさかお茶もいれたことがないなんて思わなかったですよ」
    「必要なかったの。それに私にも使えない魔法くらいあるわ」

     そう言ってお茶を飲んで顔を上げると、アントニーの顔には「ないだろ」とはっきり書かれている。

    「なによ」
    「………一応聞きますけど、なんの魔法が使えないんですか?」
    「……守護霊の魔法。パトローナスはもう何年も成功してない。少なくとも十年は」

     アントニーの顔が驚愕に染まる。そんなに驚くことだろうか。あの魔法を使えない成人魔法族なんていくらでもいるだろうに。

    「今なら成功するのでは?」
    「え……?」
    「だってあなたの不幸のひとつはレギュラス・ブラックでしょう? その彼が記憶を戻したんです。それを幸福と言わずなんと言うんですか」
    「………」

     そう、か。私は今幸福なのか。少なくとも十年前より。

    「今度調子のいい時にでも試してみるよ。無駄に魔力を使って倒れたくはないし」
    「それがいいですね。そんなことになったら唆した僕がレギュラス・ブラックに殺されてしまう」

     大真面目にそんなことを言うものだからつい笑ってしまう。確かにレギュラスは怒るだろう。

    「ちなみに守護霊はなんですか?」
    「天馬。灰色の天馬、グレニアンよ」
    「セストラルではないんですね」
    「そんなの出てきたらそれこそ『死』じゃない」

     セルウィンの始祖と契約をした『死』。彼−−−もしくは彼女は今もどこかで誰かの命を刈り取っているのだろうか。



     私には死んだ時の記憶はない。当然だ。当時はまだ八歳で、しかも両親によって忘却術をかけられている。ただ私は物語を読む時、その中の『死』を鮮明に頭に浮かべていることを思い出す。
     忘却術によって忘れた記憶を取り戻す確実な方法はない。何かのきっかけで思い出すこともあるようだが、術者の力が強ければ強いほど、またはかけられた方の魔法への耐性が弱ければ弱いほどその確率は下がる。
     きっと私が思い出す確率も限りなく低いのだろう。だが記憶の奥底にいる『死』を感じることはある。

    「思い出せ、ラミア。私はあの日、何を言われた」

     そう、何かを言われたのだ。一瞬の死の世界で、大切な何かを。きっとセルウィンの呪いを解くヒントを。
     どうせ死ぬのならセルウィンの呪いを理解してから死にたい。もう時間が無いから解くことは叶わないだろう。それに加護を持つものはもう私のみで、加護を持つものからしか加護を持つものは生まれない。私以外に新たな呪いを作る者はいない。
     理解してもそれが活かされることはないと分かっていても、それでも知りたいのだ。



    +*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+






     アンブリッジの威勢はどんどん増していく。彼らの企みの一部は既知のようで、クラブ活動などが申請無しには活動できなくなったのだ。それはクィディッチも同じようで、キャプテン及びキーパーの変わったグリフィンドールは非常に苦労しているようだ。
     しかもグリフィンドール対スリザリンのクィディッチ試合の後、なにか揉めたようでフレッド、ジョージ・ウィーズリーが終身クィディッチ禁止令を出されたという。私が学生だったら耐えられなかっただろう。

     ハグリッドがホグワーツに帰ってきたようだ。彼はダンブルドアの命で任務に出ていたのだが、無事に帰ってきたらしい。あの傷だらけを無事というのかはわからないが。





     ハリーは時折ヴォルデモート卿の夢を見ているようだった。果たしてそれを夢の一言で済ませていいのかはわからないが、ヴォルデモート卿が狙っているものを騎士団は既に知っている。
     ハリーへの預言だ。
     魔法省神秘部に保管されているそれは、預言をした本人と当事者にしか触れることは出来ない。つまりトレローニーとハリーのみ。

     そして12月のある日、ハリーは再び夢を見た。蛇になった彼は神秘部へ向かい、警備をしているアーサー・ウィーズリーを襲う。それはただの夢ではなかった。


     私はその日の夜冥界の部屋にいた。ハリーに渡す防御魔法具の製作を行っていたのだ。しばらく眠っている日々が多かったから、目が覚めているうちにいろいろなことを試しておきたかったのだ。

    「セルウィン」

     突然名前を呼ばれて私はハッと顔を上げる。ディリス・ダーウェントが焦った様子で私を見ていた。

    「アーサー・ウィーズリーが襲われたわ。ハリー・ポッターがその様子を見たというの」
    「ハリーは校長室?」
    「ええ」
    「ありがとうございます」

     おそらくディリスはダンブルドアが寄越したのだろう。私はガウンを羽織ると急いで校長室へ向かった。


     しかしその道中で邪魔が入った。

    「あら、ミス・セルウィン」
    「マダム・アンブリッジ、こんばんは」
    「こんばんは。こんな夜遅くに何をしているの?」
    「仕事のことで校長に用があるんですよ。これでも今年度で退任予定ですから」

     咄嗟に適当な嘘をつく。しかしアンブリッジは信じていないようだ。私はすぐに質問を返す。

    「マダム・アンブリッジこそここでなにを? あなたは私のように深夜に仕事を残すタイプだとは思っておりませんが」
    「それがね、ポッターたちがベッドを抜け出しているようなの! あのウィーズリー兄弟もよ!」
    「そうですか。よく気が付きましたね」
    「そりゃあ、ホグワーツが正しくあるためですもの。そんなことは造作もないわ」
    「で、ベッドを抜け出した彼らの行方に心当たりは?」

     ハリーたちはおそらく校長室にいるだろう。ダンブルドアもアンブリッジが彼らの不在に気付いていることはわかっているはず。なら私にできることは彼女を校長室に近づけないことだ。

    「今のところないわ。でもきっと何か悪いことを企んでいるに違いない……っ」
    「悪いこと?」
    「あなたには関係のないことだわ」
    「そうですか」
    「ドローレス!」

     どう引き留めようか考えていると、マクゴナガルが廊下の先からアンブリッジを呼んだ。彼女は眼鏡を斜めにかけたまま私とアンブリッジを呼んだ。

    「ああ、ミネルバ。ポッターとウィーズリー兄弟がベッドを抜け出しているようなの! 見つけ出すのを手伝ってくださる? 罰則を与えなければ」
    「その必要はありません。ああ、ラミア。ダンブルドアがお呼びです」
    「ありがとうございます、マクゴナガル先生」

     時間稼ぎはマクゴナガルが引き継いでくれるようだ。私は急いで校長室へ向かう。


    「フィフィ・フィズビー」

     合言葉を唱えれば螺旋階段が姿を現す。そこにはすでにダンブルドアしか残されていなかった。

    「遅くなりました」
    「いや、こんな夜中に呼び出してすまんの。皆はすでに本部におる」
    「では私は何を。待機しますか?」
    「いや、君も本部へ」
    「わかりました。本部に向かいます」

     サッティを呼び彼女の姿現しで本部へ向かう。アンブリッジの後始末はダンブルドアがしてくれるだろう。



     本部に着くと、玄関ホールにレギュラスがいた。彼も先ほどまで眠っていたのだろう格好をしている。

    「レグ」
    「ああ、ラミア。こんばんは」
    「こんばんは。子供たちは?」
    「厨房で待機させているよ」

     子供達にはアーサーがいた場所もその理由も話していない。危険が多すぎる。会話をしながら、厨房へは向かわずに会議に使っていた広間へ向かう。

    「ハリーが蛇になっていたそうです」
    「ハリーが?」

     レギュラスが頷く。てっきりその様子を第三者視点で見ていたのかと思ったのだが、蛇になっていたとは。

    「ハリーは例のあの人に取りつかれている?」
    「取りつかれているというよりは何かしらの繋がりがあるという感じでしょうか。取り付くのならそれなりの魔法を使用しなければなりませんが、それをした暇があったとは思えません。ハリーと闇の帝王の間に絆に似た何かがあると思ったほうがいいでしょう」
    「魔法が繋がったとも言っていたし、それかな」

     繋がりは始めヴォルデモート卿によって煩わしいものであったはずだ。恐らく今回のことはヴォルデモート卿の意図しないところで起きたものだろう。アーサー・ウィーズリーを早く助ける理由がヴォルデモート卿にはないからだ。
     しかしこれでヴォルデモート卿がハリーとの繋がりに気が付いた可能性がある。それを利用されるわけにはいかない。


    「レグ、ラミア」
    「ああ、シリウスも呼ばれてたの」

     シリウスは先ほどまで厨房で子供たちを見てくれていたようだ。彼らは混乱しているようだが、まだ聖マンゴに向かうわけにはいかない。ようやく魔法省が異常に気が付いたこのタイミングでホグワーツにいた生徒がアーサーの怪我に気が付いているのは明らかにおかしいからだ。それにアーサーは騎士団の任務中に怪我をしている。必要以上に事を荒立てるわけにはいかない。

    「モリーは聖マンゴに?」
    「ああ、聖マンゴから連絡がきたみたいだ。『まだ生きてる』」
    「まだ、ね」

     かなり危ない状態なのだろう。シリウスは手紙をレギュラスに渡した。

    「モリーからレギュラスに」
    「僕?」
    「アーサーは蛇の毒に苦しんでるらしい。癒者はそれの解毒に手間取っている。お前とラミアの知恵を借りたいそうだ。一度ヴォルデモートの毒を克服してるからな」

     レギュラスが目を見開いている。夏休みの間もそうだったが私がホグワーツにいる間もあまり仲は良くなかったようだ。そのモリーがレギュラスを頼っているというのは驚きだ。

    「こういうときだけっていうのは少し思うところもありますが、まあ仕方ないですね」

     アーサーが純血でよかった。さすがに縁も恩もないマグル混じりをレギュラスが助けるとは思えない。

    「シリウス、子供たちをお願いね」
    「わかった。アーサーを頼んだぞ」

     私たちはシリウスに見送られ本部を出た。



    「レギュラス、お願いです……っ」

     低く頭を下げるモリーにレギュラスは何とも言えない顔をしている。すでに癒者から毒のサンプルを受け取ったので、あとは場所を少々借りるだけだ。

    「責任は持ちませんよ」

     レギュラスはそれだけ言って先へ向かう。私は少し苦笑いしてそれに続くだけだ。

    「モリー、少し休んでいてください」

     そこまで緊張されるとこちらもやりにくい。モリーは硬い表情のまま近くの椅子に腰かけた。私は頭の中で様々な魔法薬の知識を反芻する。魔法薬は苦手だが、知識はある。足りないものは全てレギュラスに補ってもらえばいいだけだ。




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     アーサー・ウィーズリーは一命をとりとめた。毒を同定し解毒にも成功した。あとは傷がふさがるのも待つのみだ。
     様子見もかねてクリスマス休暇はグリモールドプレイス十二番地で過ごすこととなった。何度かガランサス邸に戻ったものの、仕事がいくつかあったのも事実だ。

     そんな中ハリーが閉心術をセブルスから習うことになったらしい。

    「どうしてラミアが教えてくれないの?」
    「残念ながらこれ以上時間を割けないんです。ごめんなさい」

     ハリーの少し非難めいたその言葉に心が痛む。だが閉心術は精神にも多少負荷をかける。自分自身がこれ以上の負担に耐えられると思うほど自信過剰にはなれない。
     仕事を理由に断れば、隣にいたセブルスが恐ろしいことを言う。

    「こいつの開心術を受けてみろ。抵抗する間もないまま全てを暴かれ狂うぞ」
    「セブルス、そんなに脅さなくても…。それに私は開心術が得意なわけじゃないわ」
    「得意じゃないから恐ろしいんだ」

     ハリーの顔色が悪くなった。私だって相手が狂うほど相手の心をこじ開けたりはしない。ただ自分より魔力のコントロールの上手な相手がいなかっただけだ。
     それにセブルスほど閉心術の上手な魔法使いはいない。彼が適任だ。


     そしてあっという間に年が明け、新たな学期が始まった。


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     その日、私の体調は最悪と言ってよかった。何かを予感したかのように朝から体が言うことを聞かない。残りあと半年。私のやることは多く残っているというのに、最期は確実に近づいてくるようだ。
     そしてそんな最悪の体調は、私に最悪の記憶を思い出させる。
     セシル・セルウィン。私の父の弟の息子にあたる従兄であり、兄と同い年の男。幼い頃はガランサス邸で三人で遊んだ記憶もあるが、お互いの父はどうも気が合わなかったらしい。気がつけばセシルは私たち兄妹をーーーいや、私の兄カイルを目の敵にしていた。
     学生時代はグリフィンドールのカイルもスリザリンのセシルも優秀で、卒業時にはカイルが次席、セシルが首席を手に入れていた。
     そして私がホグワーツの四年生の夏休み、セシルは死喰い人となって私の両親と兄を殺した。そしてあの闇の時代の終わり、ほかの死喰い人とともにアズカバンに投獄された。

     そのセシルがアズカバンを脱獄したという。

     脱獄したのはセシルだけではない。ほかに九人もの魔法使い・魔女が脱獄したのだ。シリウスの解きそうだったが、会うカバンの管理体制はどうなっているのだろう。私の様子を見に来ていたアントニーが日刊預言者新聞を見ながら私の顔色を窺っている。

    「仇を打ちたいと思いますか?」

     ずいぶんストレートな質問だ。だが彼らしい。私はアントニーから新聞を受け取りその顔写真をじっと見つめた。

    「さあ、わからない。でもこの憎しみを抱え続けたまま死にたくはないかなぁ」

     冗談を言って誤魔化す。これは私がセシルを殺す最後のチャンスなのだろうか。




     そんな中、占い学のトレローニー教授の解雇が決まった。アンブリッジのお気に召さなかったらしい。

    「良かったな。お前じゃなくて」
    「私を解雇してどうするのよ。来年にはもう居なくなるのに」
    「喧嘩を売ったらしいじゃないか。自分が闇の魔法使いになると」
    「言葉の綾よ」

     そんなあなたも煽られたみたいだけど。
     口には出さないがそんなことを思う。アンブリッジを気に入らないのは教員みなが持っていることだ。

     アンブリッジはトレローニー教授を城から追い出そうとしたが、それは適わなかったようだ。まあ、時間の問題だろう。
     そしてトレローニー教授の代わりに占い学の教授としてきたのは、なんとケンタウロスだった。




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     少しずつ景色の様相が春へと変わり始める。私のASHの授業も終盤だ。今日は三、四、五年生向けの特別授業だ。

    「今日は魔力の個人差についてお話します。まずは魔力について、何か知っている方はいますか?」

     手を挙げたのはハーマイオニーとスリザリンの少年だ。私は少年を指名する。

    「魔力というのは私たちが魔法を扱うにあたって利用するエネルギーのことです。魔力は森羅万象全ての者に宿ると言われていますが、マグルはそれを扱うことはできません。またその魔力量にも個人差があり、魔法によって使用する魔力の量も差があります」
    「その通りです。スリザリンに五点」

     教科書を読んで正しく理解したのだろう。分かりやすい説明だ。だがもう少し噛み砕く必要がある。

    「魔力を蛇口から出てくる水と例えます。その水勢は様々ですが、個人差が大きく現れるのはそちらではありません。ではどこに個人差が現れるのか。その水を受け止める器を想像してください。
     大鍋でもカップでもなんでも構いません。その中に溜まる水の量こそが、個人の魔力量になります。
     私たちの体の中では常に魔力が作られ、その器に注がれていきます。しかしその器の容量を超えると、零れ消えていく。そのため私たちの魔力の最大値に変動はありません。
     対するマグルはどうなのか。その器が存在しないのです。ただ作られた魔力は垂れ流し状態。利用することはありません。
     話を魔法使いに戻します。
     私たちが魔法を使うと、その器から一部の水が使われます。魔法を使えば使うほど器の中の水が減り、蛇口から注がれる水が追いつかなくなる。そして魔力切れとなる」

     何人かには心当たりもあるのだろう。私にもある。去年のことだ。

    「魔力切れを多く起こすと寿命が縮むと聞いたことのある人はいませんか?」

     そう問えば魔法族生まれの生徒が何人か頷いた。私は続ける。

    「それは何故でしょう。想像してみてください。空になった器に蛇口から水が注がれる。それが何度も繰り返される」
    「器に負担がかかる?」

     生徒のひとりが声を上げた。正解だ。

    「その通りです。器に負担がかかり、徐々に底を減らしていく。またはヒビの入る人もいるかもしれません。そして最後はその器が破壊される」
    「破壊されるとどうなるんですか」
    「器の破壊と同じように本人を死に至らしめます」

     生徒たちがザワりとする。しかし冷静な生徒もいた。まっすぐ手を挙げたのはハーマイオニーだ。

    「質問です」
    「どうぞ、ハーマイオニー」
    「器の破壊が魔法使いの死に繋がるのなら、元々器のないマグルはどうなっているんですか?」

     その質問は当然だろう。器が壊れれば死ぬ魔法使いと、器を持たないマグルの違い。

    「蛇口から注がれる魔力の量の違いです。
     マグルの場合その蛇口から注がれるのほんの僅かです。雫が垂れる程度だと思っていただいていいでしょう。
     対して魔法使いの蛇口からは多くの水が流されます。その水勢に体が耐えられないのです。蛇口からジャージャーと流される水と器から溢れる水。勢いが強いのは明らかに前者です。つまり器は魔力の貯蓄と共に緩衝材としての役割も果たしています」
    「では水の流れる量と器の大きさは比例するんですか?」
    「概ね。水の量が多く勢いが強ければその器は強く大きくなります。逆に水の量が少なく勢いが弱くなれば、器は弱く小さくなります」

     少し難しかっただろうか。生徒の数名が考え込むように首を傾げた。しかし本題はここではない。

    「では本題に移ります。魔力の個人差です。
     自分にも魔力量に限界があることはわかっていただけたかと思います。今度は消費の話です。
     この世界には数多の呪文がありますが、それぞれ使われる魔力量に差があります。特に魔力の消費が多いのは、相手の命を奪う『死の呪文』。当然多くの魔力を使います。しかしそれは相手によって消費する魔力量は違います。
     極端な例を出すと、蜘蛛を一匹殺すことと人を一人殺すこと。同じ『死の呪文』でも必要となる魔力は大きく変わります。なぜだと思いますか?」

     今度手を挙げたのはロンだ。少し自信なさげにあげられたそれを指名する。

    「かけられた側の魔力量の差?」
    「それも概ね正解です。
     加えて重要になるのは術者本人の魔力。例えばこの教室にいる皆さんがどれだけ『死の呪文』を本気で唱えたとしても、誰一人私を殺すことはできないでしょう。
    『死の呪文』を成功させるには相手を超える魔力量、または相手を超える魔力のコントロール力が必要になるからです。
     相手の命を奪うほど危険な魔法。失敗すれば自らの命を失うことになる、というのは相手の魔力を支配しきれずそのエネルギーが自分に返ってくるために起こるのです」

     次に手を挙げたのはレイブンクローの生徒だ。

    「私昔一度魔力切れを起こしたことがあるんですが、今同じように魔法を使っても魔力切れは起こらなくなりました。それは器が大きくなったのですか?」
    「いい質問です。答えはNo。器の大きさと水勢は生まれつきで決まっていて、それらが変わることはありません。変わるとすればただ一つ。あなたの魔法の技術です。
     たとえ同じ魔法でも、慣れない魔法では魔力を無駄に消費するのです。しかし徐々に魔力のコントロールができるようになれば最低限の魔力のみに呪文を操ることができるようになる」

     器が大きくなることはないが、魔力の使い方をうまくすれば使える魔法の量は増えていく。技術の差だ。

    「あなたたちが覚えておくべきなのは自身の魔力量です。使わなければ意味はありませんが、使いすぎれば体に負担がかかる。身を守るためにも、自分がいざというときどれほどの魔法が使えるのか、若い器が頑丈なうちに確認しておくのが必要です」

     その後もいくつかの質問が出てそれにこたえているうちに授業は終わりとなった。




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    「もし僕の魔力の器がボウルほどだったら、ラミアさんは何になるんでしょうか」

     授業の後、部屋に戻るとアントニーがそんなことを言った。私は思い浮かべてみる。

    「さぁ。でも少なくとも大鍋じゃ収まらないでしょうね」
    「大鍋五つくらい?」
    「どうでしょう」
    「で、その大鍋の状態はどんな感じですか?」
    「………」

     本当に性格がいいんだか悪いんだかわからない。暗に私の終わりを聞いているのだ。

    「さび付いてひび割れて欠けて穴が開いているってところですかね」

     おそらくセルウィンの血筋自体もともと器が大きく水勢も強いのだろう。加護を持たぬセシルなども通常の魔法使いよりずっと多くの魔力を持っており、また寿命も短い。それに加えて加護を持つ者には『死』からもう一つ蛇口を与えられているような状態だ。しかも非常に強い勢いのもの。器はほとんど変わらないのに、流し込まれる魔力の量は倍近い。当然寿命は短くなる。

    「しかも私は一度死んでいるしね」

     去年の終わり私が見積もっていた終わりは4年ほど先だった。あw他紙が見誤った理由、それは自身の死を知らなかったことだ。大きな器に注ぎ込まれる大量の水。死を迎えたことで一旦その中身が空になり、再び勢いよく注がれ始める。私の寿命を縮めるには十分だったのだろう。

    「今の私は全盛期の四分の一も魔力を貯められない。はっきり言って使い物にならないね」
    「自分で言うんですか」
    「あなたが言わせたのよ」

     そう言ってから私は残り少ない授業の中身を思いめぐらせる。自分のことを深く考えている暇など私にはなかった。




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     とうとうハリーたちの企みがアンブリッジにばれてしまったようだ。彼らは必要の部屋と呼ばれる部屋で『ダンブルドア軍団』という名のもと会合を行っていらしい。
     そしてそれら全てを指揮していたとダンブルドアが吐き、魔法大臣であるコーネリウス・ファッジを陥れようとしていたと言って逃げ出したというのだ。
     そしてダンブルドアの代わりに校長になったのは、アンブリッジだった。

     そしてそれから一週間経たずして、フレッド、ジョージ・ウィーズリーがホグワーツ中で騒ぎを起こしそのまま城を去っていった。彼らは全ての生徒の憂さを晴らして去っていった。私も少しすっきりしたのは内緒だ。


     つかの間の平穏が訪れていた。ASHの特別授業は全学年無事に終わり、六月からは五年生のOWL試験が始まった。
     OWL試験も残り二日となった日の真夜中。夜のホグワーツに吼え声が響いた。少しして魔法のぶつかる音とマクゴナガルの叫ぶ声が聞こえる。

    「なんということを!」

     声は外のハグリッドの小屋のほうから聞こえていた。数人の魔法使いがハグリッドに失神呪文を放っている。だがそんな魔法でハグリッドを失神させることはできないだろう。

    「おやめなさい! やめるんです!」
    「何があったんですか!」
    「ハグリッドに襲われて……っ」

     恐らくアンブリッジの命令だ。とはいえ真夜中に襲うだなんて。私がマクゴナガルとともにハグリッドを追いかけながら咄嗟に杖を出すと、彼らは私を敵だと判断したらしい。四本の杖が私とマクゴナガルに向けられる。
     私は油断していた。『セルウィンの防護壁』を過信していた。あんな魔法使いの魔法など、防げないはずはないと。

    「ステューピファイ!」

     四本の赤い光線が私とマクゴナガルに向かってくる。私の目の前に現れた薄青い膜は一瞬現れて、消えた。私の器は、もう壊れかけていた。
     


     次に目を覚ますと、私は医務室のベッドで眠っていた。マダム・ポンフリーが私に気が付き、水をくれる。

    「マクゴナガル先生は」
    「無事ですよ。あなたもマクゴナガル先生も二本ずつ失神呪文を受けたんです。もうしばらく安静にしていないと」
    「私はどのくらい眠っていました?」
    「半日ほど」

     なら今は昼間だろうか。私はいまだ痛む頭を少し抱える。それを見たマダムは心配そうに私を呼ぶ。

    「ラミア。あなた、もう……」
    「わかりますか。まあギリギリセーフってところですかね」

     昨晩、どうにか彼らに渡す魔法具を完成させていた。渡すことはまた考えればいいだろう。

    「少しここで休んでいてもいいですか?」
    「もちろん。何かあれば呼ぶのよ」
    「ありがとう」

     息をついて目を閉じる。そんな間にまさか再びハリーが夢を見ているだなんて思いもせず。


    嫌いな色で塗りつぶして