適当な距離と適切な距離と

 その日図書室に来たのはラミアだけだった。レギュラスはクィディッチの練習で来ていなかったのだ。

 ラミアは杖を使う呪文学やDADA等の授業は得意だったが、天文学や魔法生物学、占い学等はてんでダメだ。そして最も苦手としていたのは魔法薬学。その原理も理解できなければ作業も苦手だ。幸い授業ではシンシアやコーデリアの手を借り、課題は魔法薬学を得意とするレギュラスに知恵を借りていた。
 しかし今日はレギュラスがいない。ラミアは魔法薬学の課題に頭を悩ませていた。



 どの本に載っているのか全くわからない。



 そう思いながら本棚を回り歩く。見つけるのに時間がかかるのは予測できていたが、全く見つからない。手に取った本をぺらぺらと捲りながら自分が何を探しているのかもわからなくなってきていた。
 唸りながら首を傾げ溜息を一つ。「薬学を解く」と書かれた本を本棚に戻すと、また溜息。すると真横から声がかかった。



「なにを探しているの?」



 ラミアは驚いてはねたように声の先を見た。そこにいたのは綺麗な赤毛に透き通るような翡翠の瞳を持つ女子生徒だ。



「あ、あの…」

「あら、ごめんなさいね あなたがさっきから同じところをうろうろしているのが目に入って…… 何かを探しているのならお手伝いするわ」



 彼女はアーモンド形の瞳をゆるりと緩ませ綺麗に笑った。ラミアは目をパチクリさせたものの、すぐにハッと気づき探しているものを伝えた。



「魔法薬学は苦手で……。どこに載っているのかも見当つかないですし…」

「これかぁ 私も去年やったわ」



 少しきょろきょろとして苦笑いをする。どうしたのだろうとラミアはそれに首を傾げて答える。



「裏側の本棚よ、これについての資料は」

「え……?」



 少女はクスクスと笑う。その姿は可愛らしかった。






 目的の資料を見つけラミアはホッと胸をなでおろす。



「ありがとうございます、助かりました」

「そんな、いいのよ 私が気になっただけだもの。 私はグリフィンドール4年のリリー・エバンズよ。」

「あ、あの私はレイブンクロー3年のラミア・セルウィンです」

「知っているわ わかってて話しかけたんだもの」

「え……?」



 どういうことだろう。ラミアはポカーンとリリーを見つめた。



「この前のクィディッチ戦見てたの。あのジェームズを出し抜いたんだもの」



 目立ってたわよとリリーは楽しそうに笑う。そんなに目立っていたとはとラミアは少し驚いた。



「私、魔法薬学得意なの。もしまたわからないものがあればいつでも聞いてちょうだい」

「あ、ありがとうございます Misエバンズ」

「そんな他人行儀じゃなくていいわ。リリーと呼んで。敬語もいらないわ。私もラミアと呼ぶから」

「え、あ。うん。わかったよ、リリー」



 じゃあねとリリーは手を振ってその場から去っていった。
 ラミアは手を振り返しながら少し呆然としていた。











「いいなぁ、リリーと仲良くなれてて!」

「!! だれ?!」



 聞き覚えのあるような、ないようなそんな声だったが、姿を見ればすぐに誰かわかる。



「ジェームズ・ポッター……」

「覚えてくれてたんだね、ラミア・セルウィンさん?」



 ジェームズは楽しそうに笑う。だがラミアには何かを企んでいる笑みにしか見えなかった。



「何の用ですか?」

「いいや、君に用があるのは僕じゃない」

「?」

「俺だよ」



 ジェームズの隣にスッと現れた少年。その顔にはすごく見覚えがあるような気がした。だが少し違う…?
 困惑しているラミアの心情を読み取ったのか、ジェームズは彼の肩に手を置くと勝手に紹介を始めた。



「彼はシリウス・ブラック。君の親友であるレギュラス・ブラックの兄だよ」

「レグの……?」



 道理で見覚えがあるわけだとラミアは納得し、シリウスの顔をじろじろと眺めた。



「似てる……けど違いますね」

「そりゃそうだろ あくまでも兄弟だからな」

「レグを見慣れているので、違和感しかないです」

「なっ!?」



 違和感と言われ驚愕するシリウスに爆笑するジェームズ。
 シリウスは自分の容姿を十二分理解している。だからこそ違和感だなんていわれるのは初めてだった。逆はあったかもしれないが…。



「この前の君たちの喧嘩、話に聞いたよ 随分仲がいいみたいだね」

「……何が言いたいんですか?」



 急に切り出したジェームズに咄嗟に眉間にしわを寄せてしまう。その含みのある言い方が少し嫌だった。



「いやね、このシリウスが兄弟の仲について少し悩んでいるんだよ」

「なんかそう言われると否定したくなんだけど……」

「レグとの仲?」



 ラミアは先日のレギュラスとの会話を思い出した。



「確か前はよくケンカしていたけれど、今はしないとか。レグはお互いに無関心になっただけだって……」



 ラミアの言葉にシリウスが嫌そうな顔をする。



「別にそんなんじゃねぇよ なんとなくどう接していいかわかんなくなっただけだ 俺とレグじゃあ家での立場もホグワーツでの立場もまるで違うからな。」



 血を裏切った長男と純血主義の次男、そしてグリフィンドールの兄とスリザリンの弟。その違いに兄弟としての接し方を測りかねているようだった。



「はっきり言って俺だけじゃこれ以上レギュラスと仲が変われると思えない。協力者が欲しかったんだ。」

「それで私に……?」

「ああ、協力してくれるか?」



 顔は確かにレギュラスとよく似ている。しかし中身は全く違うようだ。ラミアが返答に困っていると、ジェームズは口を挟んだ。



「別に間を取り持てって言っているわけじゃない。シリウスは情報が欲しいんだ、弟くんのね」

「レグの情報…ですか?」

「そう 最近の調子だとか、趣味だとか シリウスの知らない君の知っている情報を、差支えない範囲で教えてほしいんだ。」



 それなら受けても……。ラミアは少し悩んだものの軽く首を縦に振った。シリウスはあからさまにほっとしてありがとなと言った。



「別にいいですよ 今度蜂蜜キャンディー贈ってくれれば」

「何その甘ったるそうな飴」

「最近の私のお気に入りです。マグルのお菓子なのであんまり手に入らないんです」



 シリウスは目を見開いた後、わかったよと呆れたように笑った。

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