純血としての誇り
クリスマス休暇が近づき休暇前最後のホグズミード行きを一週間後に控えた土曜日、私はシリウス・ブラックに呼び出された。私は彼から受け取った蜂蜜キャンディを舐めながら、彼の言葉を聞いた。キャンディで買収されたとかではない。断じてない。
「次のホグズミード行き、予定はあるか?」
「ないですよ?いつもはレグと行きますけど、約束をしているわけではないので。……どうして?」
「俺と行ってくれないか?プレゼント何がいいか決まらないんだ。」
誰へのプレゼントかはわざわざ言わなくてもわかる。レギュラスのだ。
「いいですよ。その代り私の買い物にも付き合ってくださいね?」
「もちろん。あと、このことレギュラスには…」
「内緒ですね。わかりました」
気まずさはまだ有るらしい。私は笑顔で了承した。もらったポケットいっぱいのキャンディ分は働くつもりだ。
私は冥界の部屋にいるレギュラスの元へ向かった。次のホグズミード行きに一緒に行けないことを伝えるためだ。
「レグ、こんにちは」
「こんにちは、ラミア」
レギュラスはイスに深く座り、読書をしていた。軽くあいさつを交わし私は杖を振ってココアを入れた。当然レギュラスの分もだ。
「ありがとうございます」
「いえいえ。あ、これ食べる?」
「こんなに沢山のキャンディどうしたんですか?」
「ある人にもらったの」
私は満面の笑みで机の上にキャンディを広げる。レギュラスはそのなかからいくつかをもらっていった。
「次のホグズミード行き、一緒に行けなくなっちゃった」
「珍しいですね。誰かと約束が?」
「うん、まあ。」
「そうですか……。わかりました」
レギュラスはわざわざ深くは聞いてこなかったが、私にとっては都合が良かった。
「今年のクリスマス休暇は残れる?」
「ええ。少し無理やりでしたが、去年からの約束ですからね」
「やった!じゃあクリスマスのご馳走は一緒に食べよう?」
「そうですね、楽しみです。」
クリスマス休暇はホグワーツに残ろ生徒が少ないため、たとえ寮が違っていても一緒に食事ができる。まだ数週間あるのに、私は楽しみで仕方がなかった。
ホグズミード行き当日、真冬ということもあって私はマフラーと手袋をつけ顔が見えないほどの重装備で待ち合わせ場所へ向かった。
「すごい装備だな」
「外は寒いですよ?シリウスこそその軽装備はなんですか」
「俺は普通だろ」
グリフィンドールカラーのマフラーを付けてはいるものの、それ以外にはいつもと変わらない。
「まあ、いこうぜ」
「はい!」
私だってホグズミード行きはいつだって楽しみなのだ。
最初に向かったのはクィディッチ用品のそろった店だ。
「シリウスはクィディッチやらないんですか?」
「俺か?箒に乗るのは好きだけど、クィディッチ見てる方がいいな。ジェームズはしつこく勧誘してくるけど…」
「そうなんですね。レグの試合は見たことありますか?」
「そりゃ一応全試合見てる。あいつ楽しそうだよな」
「クィディッチ好きですし。……あ、これなんてどうですか?」
「グローブ?」
私が手に取ったのはスリザリンカラーの薄いグローブ。伸縮性がよく、頑丈らしい。シリウスに渡すと彼のマフラーの色と見事に反発しあっていて、少し面白かった。
「今使っているグローブは寮にあったお下がりらしいですし、贈ったら喜ぶと」
「そうか!」
シリウスはとても楽しそうだ。ニコニコとグローブを眺めている。
「お前は?」
「え?」
「欲しいもの。ラミアもクィディッチやってるだろ?チェイサー」
「まあ。でも私は困ってないですね。必要性を感じたらすぐに買うタイプなので」
「それ一番プレゼントに困るタイプだな。去年はレグから何をもらったんだ?」
私は去年のクリスマスを思い出す。去年はセルウィンの屋敷でクリスマスを過ごしたのだ。
「本の修復キットです。セルウィンの屋敷には古い本がたくさんありますから。」
「ああ、なるほど。さすがレイブンクローだな」
「〈計り知れぬ英知こそ我らが最大の宝なり〉」
私は胸を張って言って見せる。
「ラミアらしいな」
「ありがとう」
結局シリウスはそのグローブを購入し、クリスマスの日レギュラスに届くようにした。
「私役に立ちました??」
「当然。あいつが今どんなグルーブ使っているかなんて俺にはわかんねぇからな」
「ならよかったです」
「そんな堅苦しい話し方しなくていいよ。わざわざ気にするような仲じゃない」
「……そう?」
別に意図的にそういう話し方にしていたわけではない。一応先輩だし、と思っていただけだ。
「じゃあお言葉に甘えて」
「そのほうがいい。ラミアはレグに何か買ったのか?」
「うん、もう用意してあるよ」
「何にしたんだ?」
答えてしまってもいい。だが簡単に言ってしまうのも面白くない。
「クリスマス終わってレグに聞いてみればいいよ。内緒」
「なんだよ、それ」
シリウスはいらだった様子もなく笑いながら言った。
私たちはその後ハニーデュークスやゾンコへ行った。ゾンコにはあまり行ったことがなかったから、とても新鮮だった。
「買い物はこれで全部か?」
「うん。欲しいものは買えたよ」
「じゃあ三本の箒にいってバタービール飲むか」
「うん!」
三本の箒はそこまで混んでいるわけでもなく、あっさりと席に座ることができた。バタービールを注文し飲み始めると、シリウスが突然真剣な顔で話を始めた。
「ラミアは純血主義じゃないのか?」
その問いは友人たちにも何度かされたものだ。私は迷うこともなく答える。
「純血であることは誇りだけれど、純血でないことを侮辱したりはしないよ。どうして?」
「エバンズを貶めたりしなかったろう?だけどこの前のレグとのやり取り聞いたら、どうなんだと思った」
何故ここでリリーの名前が?と一瞬考えて思い立った。
「リリーってマグル生まれなの?」
「知らなかったのか?」
「うん、てっきり魔法族生まれなんだと……」
「確かにエバンズは優秀だからな」
「マグル生まれの魔法使い魔女ってすごいと思うんだよね。だってホグワーツに来るまで魔法を知らなかったんでしょう?」
「まあそうだな」
「純血であることを鼻にかけて何もできない魔法族より何倍も好感が持てるわ」
「ははっ!確かに!」
シリウスは声をあげて笑った。
「お前、やっぱり面白いな。レギュラスと一緒にいるって聞くからどんな奴かと思えば。でもやっぱりカイルの妹って感じだな」
「兄さまもこんな感じだったの?」
「そうだな。公平公正って言葉はあいつのためにあるんじゃないかってくらい、誰にでもわけ隔てなかったぜ。セシルとは仲悪かったみたいだけど」
「セシル兄さまはカイル兄さまに敵対心抱いているもの。兄さまもどうしていいかわからなかったみたい」
「なるほどな。お前は?セシルと仲悪いの?」
「私は別に……。でも二年前あれがあったじゃない?許嫁の…」
「ああ、ドロメダのことか…」
ドロメダとはシリウスの従姉妹のアンドロメダ・ブラックのことだ。ドロメダはセシルの許嫁だったのだが、三年ほど前なんとそれを一方的に破棄しマグル生まれの魔法使い、テッド・トンクスと駆け落ちしたのだ。そして二年前ドロメダは女の子を産み、セシルはそれを聞いて酷く荒れた。
「ラミアには悪いけど、駆け落ちして正解だったと思うぜ俺は。」
「残念ながら、私もそう思う。きっとセシルと結婚しても彼女は幸せになれないわ。」
声を小さくして二人でふふと笑った。
しばらくして外は真っ暗になっていた。積もった雪がライトを反射してキラキラと光る。私は寒いのは嫌いだが、雪も冬も嫌いではない。矛盾している気はするが、そんなものだろう。
「そろそろ帰るか」
「そうね。楽しかった!」
「俺も楽しかったし、助かったよ。俺一人じゃ悩むだけ悩んで決められないからな」
「優柔不断なの?」
「状況による」
シリウスのきっぱりとした言いようについ笑ってしまう。
そのまま他愛のない話をしながらホグワーツへ戻った。
私は部屋に帰る途中、冥界の部屋に本をいくつか置いてきてしまったことに気が付いた。明日ないと困ると思い、私は冥界の部屋に向かった。
「ただいまー」
「おかえりなさい」
部屋には椅子に座り本を読むレギュラスがいた。返された言葉は心なしか固いように思えた。
「楽しかったですか?」
「え?あ、うん。楽しかったよ」
レギュラスは目を合わせずに言った。言葉が少し刺々しい。私は少し驚いて、でも笑顔で返した。
「そうですか。それは良かった」
「どうしたの?レグ。何か怒ってる?」
「いいえ、別に。ただシリウスとのデートが楽しかったようで」
「見ていたの?というかデートじゃ…」
「相手を言わないから何となく違和感はありましたが、まさかシリウスとだなんて」
レギュラスは勘違いをしている。私は机に手をつき、レギュラスと目を合わせようとした。
「シリウスとはそうゆうんじゃないよ。一緒に買い物してただけ」
「別にいいですよ、隠さないで」
「私がなにを……!」
あまりにもレギュラスが人の話を聞かない。私の声は大きくなった。
「じゃあなんで、わざわざ僕に言わなかったんですか?」
「それは……」
シリウスには口止めされている。だが誤解されているのも嫌だ。私が答えに迷っていると、その様子にレギュラスがまた勘違いをしたらしく本を閉じ部屋から出て行こうとした。
「レギュラス!」
「自分勝手な兄ですが、よろしくお願いしますね」
最後まで目が合うことはなく、レギュラスは出て行った。
「自分勝手はどっちだよ……」
私は誰もいない部屋で呆然と座り込んだ。