約束のテディベア
ホグワーツの四年目も無事終わり、レギュラスと1年を振り返りながら窓の外を見る。特急から見える景色はとても綺麗だが、遠くに黒い雲が見えた。
「ロンドンでは雨が降っているようですね。嵐にならなければいいですが……」
「そうだね。森でも遊べないし・・・。あ!!」
「!どうしたんですか、急に。忘れ物でもしたんですか?」
すっかり忘れてしまっていたが、言うなら今だろう。随分前から夏休みにやりたいことがあったのだ。
「レグ、遊びに来てよ!セルウィン家に!」
「はあ?」
「何その返事。せっかくの長い休み、ブラック家に閉じこもってたら暗くなるよ」
「暗いのは元からです。というか急すぎません?」
何となく今まで忘れていたのだ。ただそう言ってしまうのも、少し癪ではある。
「いいでしょ?無理?」
少し首を傾げてお願いすれば、レギュラスは溜息を一つついた。
「家族に聞いてみなければわからないですが、セルウィン家なら多分大丈夫でしょう。わかったらふくろう便を送りますよ」
「やった!たのしみにしてる」
これでまた夏休みの楽しみができた。私たちは長い夏休みを前に笑いあった。
たわいもない話をしていれば、あっという間に時間は過ぎる。キングズ・クロス駅には生徒の家族たちが手を振って待っていた。
「じゃあね、レグ。また遊ぼう」
「そうですね。それじゃあ元気で、ラミア」
先に家族を見つけたレギュラスと別れを告げ、私も家族を探す。だが見つけたのは屋敷しもべ妖精サッティのみだった。
「お帰りなさいませ、ラミアお嬢様!」
「あれ?一人で来たの?」
「そうでございます!旦那様も奥様もお坊ちゃまもあなた様の為のパーティをしていらっしゃいます!」
サッティは相変わらずのキーキー声でまくしたてる。
「そうなの?楽しみ!」
「では、参りましょう」
サッティの差し出した手を握ると付き添い姿現しで一瞬で家の前に辿り着いた。
笑顔が一瞬で凍った。サッティも声にならない叫びをあげている。外は大雨だった。
黒い雨雲、それに溶け込むようにして見えるのは、口から蛇を出す恐ろしい髑髏。それが意味するものはたった一つだ。
ハッとして家への扉を開ける。息をのんだ。いつも可愛らしい表情で迎えてくれる小さなテディベアが引き裂かれ、血のような赤い海に倒れている。〈WELCOME〉と書かれていたはずのプレートは見る影もなく、血の海の奥に走り書きされた血文字が見えた。
〈学生でよかったな!これでお前は一人ぼっちだ!〉
その言葉を理解する前に、私の瞳にはそれが写ってしまった。血の海の先には最愛の家族が倒れていた。
「おかあ、さま……。おと……さま。カイル……にいさまぁ」
すぐさま駆け寄ってカイルに手を伸ばす。しかし触れた瞬間に理解した。
「いやああああああああああああああああああああああ!!!」
目の前が真っ暗になった。