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「○×あ△●{emj_ip_0850}☆★※〜!!!!!!」
「!!?!」

なになにどこだれなに!?なんなの?!
言葉では言い表せない大音量の何かによって、私は飛び起きた。そうなったのは私だけではないようで、アンジーとアリシアも一体何事なの!!っと眠気なんて一瞬で飛ばして、辺りをキョロキョロと見渡している。
もう耳の近くでわっ!!と大きな声で叫ばれたあの感じが永遠に続いてるような、なんとも表現し難いけれど、そんな不快感が耳を襲い続けている。両手で耳を塞いでも自然と入ってくる音に、耳だけじゃなくて頭まで痛くなってきた。

「なんなの!!耳がちぎれそう!」
「耳痛いよー頭も痛いよーうぅうー」
「サラ!変な声で貴方まで叫ばないで!」

「あ、これよ!!」

そう叫ぶと同時にアリシアは真っ先に杖を取り出し、何かに向かって「フィニート・インカンターテム!」と叫んだ。
それにしてもアンジー朝から毒舌が過ぎない?私のハートは強いけど、そこに何かが刺さるときだってあるかもしれないよ?
私のそんな考えを他所に、アリシアの杖から閃光が飛び出しその何かに当たると、たちまち部屋に平穏が戻る。
そして、終わらせ呪文をかけられたそれは何事もなかったかのようにただただ私のベッドにことんと落ちてきた。
え。ちょっと待って、あれってまさか。

「って、サラの時計じゃない!」
「もう朝っぱらから勘弁してよ!」

勘弁してほしいのはこっちである。確かにあの時計は私のものだけど、あの音はわたしのせいではないことだけは声を大にして言いたい。

「私の名誉のために言わせてもらうと、私の時計にはあんな仕掛けついてないです!」

慌てて弁解するも、どうやら2人にはなんの効果もなかったようで、アンジーはむしろそんなわたしの態度にさらに機嫌を悪くしたようだった。
時計は昨日私に「この時計合ってる?」と言われたことがよほど頭にきたのか。
いや、この時計マグル製品だしそんな意思はないはず。
なんにせよ原因を突き止めないと!

**

私たち3人が急いで身支度を整え談話室に降りると、まず耳にしたのはそれはもう酷いクレームの嵐だった。
一体全体どうしたのか、なんであんな大きな音を出したのか、などまったくもってこっちが聞きたいくらいである。

「サラ、少しその時計見せてくれる?」

ハーマイオニーに言われ、はいと渡すと彼女はしげしげと渦中の時計を見る。くまなくチェックしてから彼女はなるほどねと口にした。

「勿体ぶってないで早く説明してくれよ」

ロンも黙って見届けていれば良いのに。余計な口を挟むものだからいつものようにハーマイオニーに睨みつけられたのは言うまでもない。

「この時計なにか魔法で細工されているわ。サラ、時計を誰かに貸さなかった?」
「うーーーん。そういえば昨日夜談話室で、目覚まし時計が鳴らなかったって言ったらリーが見せてみろって」

言ったから渡した、と伝える前にその場にいた全員が全員バッと振り返り、男子寮の階段から涼しい顔をして降りてきたリーを視界に捉えた。

「ちょっとリー!サラの時計に細工したわね!」
「おかげで私たちの目覚めは最悪よ!!」
「おいおい、俺はフレッドに頼まれたから仲介しただけで誓って何にもしてねぇよ」
「フレッド?」

リー曰くどうやらフレッドが一枚噛んでいるらしい。
渦中の人物はリーの後に続くようにして2人揃って階段から降りて来た。

「お!サラ今日は起きてるな!」
「うん。おかげさまで」
「礼には及ばない。俺たちの試作品を試させてもらったんだから。それで?目覚めは最高だっただろう?」
「そりゃもうかなりね」

そうだろそうだろと両手を組んでうんうんと頷いているフレッドは驚くほど周りの空気が一切読めていないようだ。
アンジーやアリシアはそんなフレッドの態度に完全に怒り出し、フレッドに対する文句は止まりそうになかった。けれども、あーだこーだと勢いに任せて文句を言っている2人に対して、フレッドはなんなく躱してケラケラと笑っている。リーはそんな状況が楽しくて仕方ないみたいで、お決まりの指笛ではやし立てた。私はというと、当事者にも関わらず何故か蚊帳の外に放り出された状態である。
そんな私たちのカオスな状況をみて、ロンは「関わらない方が良い」ときっぱりと吐き捨て、ハリーとハーマイオニーを連れてさっさと談話室を後にした。

「サラ、サラ」

呼ばれる声に振り返ると、そこにはそういえば居なかった!と思わせる顔があった。言わずもがなジョージである。見分けは未だつかないけれど、彼の片割れは今なお罵倒の対象になっているので、入れ替わってでもない限り彼がジョージで間違いはない。

「ジョージ、おはよう」
「おはよ。なんかごめんな、フレッドのやつ勝手に時計いじったみたいで」
「え、ジョージも一緒にやったんじゃないの?」
「いや、今回は違うよ。あいつらだけでやってた」
「ねぇ今回はってなに?他にもあるの?」
「‥‥」
「ねぇ何で黙るの?ねぇこっち見て」

それからのジョージはなぜか明後日の方向をずっと向き続けていて、私と目が会うことは一切なかった。どんなにその目を追いかけようとも。気づいたらジョージの目を追いかけ続けて彼の周りをぐるぐる回っていた。

「ジョージ、一体なに隠してるの?」
「なんのことだい?」

人と目を合わせるのって意外と難しいことを初めて知った。
ジョージは「フレッド先に行ってるー!」と言葉をかけたかと思うとそそくさと談話室を後にし、私は私で絶対に彼と目を合わせようとその後も必死にジョージを追いかけた。が、なんせ足の長さが違いすぎる。どんどん距離が離れ、でもなぜかたまにその距離が縮まるというのを繰り返していた。

「ジョージ!待ってよー!」
「生憎、悪戯仕掛人なもんで逃げることは十八番なんだ」

そうやって追いかけてる間に大広間に着いてしまったものだから、なんだか朝からえらく運動して気分も良くなり、昨日本で読んだ元気のでる魔法を使ったみたいだと2人して顔を見合わせて大笑いした。




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