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朝の騒動も落ち着きを取り戻し、気持ちを切り替えていざ臨んだ今日最初の授業はなんと闇の魔術に対する防衛術である。

「今年の先生は大当たりだな」
「あぁ。過去最高の偉大なる先生様だ」
「「なんせこんなにも無駄な教科書を買わせるんだからな」」

双子はドサッと大量の本を机に置くと、そのままの勢いに任せて椅子に腰を下ろした。リーもそれに続き「聞いたか?」と言葉をかけながら双子の隣に座る。

「なにを?」
「ロニィ坊やが言ってたぜ?最初にふざけたテストをやり出すって」
「テスト?うわぁ何かしら」
「心配には及ばない。あんなテストで合格できるのは決まってグレンジャーかパースだけだ」

私たち女子3人組は男子達の1つ前の机に隣り合って座っていたが、一斉にみなで顔を合わせてハテナを浮かべた。双子やリーもそれを察したが、どうやら見たら分かるらしい。というより、どれだけふざけたテストかということは見ないと分からないらしい。

「やぁ!諸君!ご機嫌麗しゅう!」

ロックハート先生は白い歯を輝かせながら、周りにキラキラを存分に浮かべて(実際には浮かんでないけどそうとしか見えない)両手を広げて颯爽と現れた。なるほど。こりゃ一癖も二癖もありそうである。

先生は自分がどれほど凄い冒険をし、いかにすごい賞を総なめにしてきたかを一文字一句噛まずにペラペラと話した。私は先生がどれだけ凄い人かってことは色んな単語が飛び交いすぎてちっとも理解できなかったけれど、唯一その台詞じみた言葉をスラスラと、またミュージカル調に語る仕草には単純に凄いと思った。

「これからミニテストを始めますよ。もう他の学年から聞いているかもしれないけれど、何も不安に思うことはありませんよ!ははは。安心して下さい。私の本を読んでいればなんなく書けるものばかりです」

配られたテストの内容は確かにふざけた内容だった。
先生の好きな色、先生の密かな待望は何か、現時点までの先生の業績の中で何が一番偉大だと思うかなどなど。なんだこれは。こんなふざけた内容をテストにするなんて、手始めに感じた一癖がいきなり現れたと思わざるを得ない。

別に盗み見るつもりはないけど、ちらりと周りを見渡すと皆がみな自分の羽ペンを動かせないでいるようだった。当たり前である。机の下に眠る教科書を1ページも読んでいないのだから書けるわけがない。
けれど、そこは諦めの悪い私である。白紙で提出する勇気がないとも言えるけれど、とにかく自分の思いつくままに書くことにした。

先生の好きな色‥んー今手に持っているハンカチの色にしよう。ライラック色だなあれは。先生の密かな待望‥‥うーん。防衛術の先生だし、悪を退治する、かな。でも癖のある先生だからそれだけじゃない気がする。なんせ待望である。さっきから髪を何度も触って鏡で整えてるから整髪剤とかもこだわってそう。考えても一向に分かるわけないし、先生が思いつきそうな自分のブランドの整髪剤を売り出す、とでも書いておこう。先生の偉大な業績‥?んーなんだろう。1番だと思うもの、、この教科書の量と素敵な本を書いたということにしよう。あとは先生好みの色をつけて、この世に本を送り出し、あらゆる魔法使いの模範となったこと。うんこれだ。

なんとこんな質問が裏までびっしり、54まで続いた。分からないから適当に書いてみたものの、ここまできたら最後まで埋めてやろうと躍起になった私は30分間羽ペンをカリカリと動かし続け、「そこまで!」と先生が叫ぶ頃には手汗がすごいことになっていた。

「サラ、あのテスト分かったの?」
「ぜんぜん」

アンジェリーナは私の答案が埋まっている事態に驚きを隠せないようで、ゴミを見るような目で私を見た。一応頑張って書いたのに失礼極まりない。かくゆうアンジェリーナは堂々の白紙である。す、すごい‥!この潔さは感服せざるを得ない。彼女の分からんものは分からんといった極端だけど真っ直ぐなところが私は大好きだ。

「チッチッチッ。この学年も私の好きな色はライラック色だということを、ほとんど誰も覚えていないようだね。『雪男とゆっくり一年』の中でそう言っているのに。『狼男との大いなる山歩き』をもう少ししっかり読まなければならない子も何人かいるようだ‥。おっと‥おお!これはすごい!満点だ!」

あの内容で満点。あんなふざけた内容で満点を取るなんて逆に恥ずかしいことこの上ない。私は誰かは知らないが満点を取ってしまった生徒に同情の眼差しを向けようとした。

「ミス・グレイス!」

が、向けられたのはなんと私だった。え、わたし?

「君は私の大ファンなんだね!この学年にはいないかと思っていたよ、なんせ僕の出身である誇り高いレイブンクロー生でも無理だったのだから。けれど君がいた!どれも私の理想とする回答ばかりだよ。いやぁ実に素晴らしい!グリフィンドールに10点をあげよう!さぁミス・グレイス。教科書を。何って?ご褒美に君の教科書に僕のサインを書き込んであげよう!」

私の記念すべき初めての加点はなんとロックハート先生になってしまった。また、嫌なことはさらに続き、先生はお得意の早口で私に対する賞賛を述べ、渡してもないのに私の教科書に自分のサインを書き込んでいった。最悪である。こうなると教科書がゴミのように思えてならない。

「さぁミス・グレイス!その輝かしい私の本を皆に聞かせてあげてくれたまえ!」


**


「今日はもうおしまいだね。楽しい時間はあっという間に過ぎ去るものだ、実に、悲しいけれど。しかし大丈夫!この学年はまた週明けすぐに私の授業が入っているからね。それまでに『狼男との大いなる山歩き』を読んで感想を書いてきてくれたまえ。その本は大変貴重なことが書かれてあるからそうだな。羊皮紙2巻きは必要になるだろう」

どっと疲れた。本当に疲れた。あれから私は彼の狼男との本をずっと読むはめになってしまい、終わった頃には喉がカラカラに乾いてしまっていた。そのまま朗読させてくれたらまだ良いものの、彼は自分のお気に入りの箇所に触れるとすぐに横から口を挟み、この時はこんな凄いことが起こっただの、自分はこんな風に戦っただのと抑揚をつけてダイナミックに語りまくったものだからちっとも進まなかった。そんなロックハート先生は去り際に私へのウインクを忘れなかったが、正直ディメンターと遭遇した方がマシだと思った。
そんなロックハート先生の授業を総括すると彼の自慢話に始まり、またそれで終わるので、ロンが嫌味を言いたくなるのも最もである。

「サラさすがだな!ロックハートの言葉を借りるとすると実に素晴らしい!」
「なんでこういちいち面白いんだ、くくッ」
「あれで満点なんて‥サラ、愉快にもほどがあるよ」
「ほんと同情しちゃうわ」
「あなたあの先生の本なんて読んでたの?」

5人は口々に色んなことを話したが、共通して言えることはみんな先ほどの私が面白おかしくて仕方がないらしい。唯一アリシアだけはまともに同情してくれているようだけど、他の4人(特にメンズ3人)は包み隠さずケラケラと大笑いしている。

「サラ俺たちより笑いを取るなんてなかなかやるじゃないか」
「最強のライバル現るってやつか!」
「一緒にしないでもらえるかな?」

全くもって迷惑千万である。

**


「なんだって?あんなキチガイなテストで満点取る人ハーマイオニー以外にも居ただなんて!」

その日の夜、談話室に戻るとなぜか私があのテストで満点を取ったということが周知の事実になっていた。どこから情報が漏れたかなんて一目瞭然、あの双子である。現に今まさに弟のロンを始め、ハリーとハーマイオニー、そしてお久しぶりのジニーちゃんに面白おかしく話している最中だった。ロンはハーマイオニーに睨まれることにだいぶ慣れているようで、それを軽く受け流し「Blimey!」と言いながら、私をゴミを見るような目で見てきたのだ。今日はなんだか朝からゴミとして見られてばかりで本当に気分が悪い。

「まぁまぁサラ!そう怒るな。俺たちは君を褒めてるんだよ」
「正直ここまで骨があるとは思わなかったね。ぜひ俺たちの仲間になってもらえないだろうか!」
「「君がいれば百人力さ!」」
「お断りします」

この双子はいけしゃあしゃあと何を言ってるんだろう。私が即答で断ると、双子は揃ってえー!と不満を口にしたが、その隣でリーはまぁそうだろうなと苦笑いを浮かべていた。

「サラ、ロックハート先生の授業素敵だったでしょう?」

私が半ばプリプリ怒っていると、ハーマイオニーはジニーちゃんと共に私に話しかけてくれた。

「素敵?」
「そう!あんなにも目の覚めるようなことをやってるんですもの。サラ達の授業はどんなことをやったの?」

彼女の素敵という言葉に何言っちゃってんの?と内心思っていたのがジニーちゃんに伝わったのか、「ハーマイオニーはロックハート先生のファンなのよ」と横から教えてくれた。後ろの方でロンはハーマイオニーの言葉を聞き逃さなかったようで「本人はやったとおっしゃいますがね」といつもの嫌味を忘れなかった。というよりあの先生のファン?嘘でしょ?

「私たちの授業はただただ本を朗読しただけだよ」
「そうそう!しかもサラがほとんどを読んで終わった」
「諦めるんだなグレンジャー。ロックハートはサラにお熱なのさ」
「もうその辺りでやめようか君達」


**


あれからアンジェリーナとアリシアと共に部屋に戻っていた私は少しだけイライラしていたものの、2人から蛙チョコレートを貰いすっかり気分を良くしていた。だいぶ夜も更けた頃、みんなでお休み〜と掛け合ってから私1人談話室へと足を進める。部屋を出る前にアリシアにどこに行くのか尋ねられたけれど、談話室で勉強する旨を伝えると、少しビックリされてから「無理しない程度に頑張ってね」と言ってもらえた。アリシアはよく一歩ひいたところから全体を見て、そして周りに気を使い、優しい言葉をかけてくれる。そんな彼女の優しいところが大好きな私はありがとうの気持ちを込めて「行ってきます」と答えた。

談話室はこの時間本当に静かになる。
まだ話をしたことのない上級生が少し残って本を読んだり、課題をしたり、カップルで愛を囁き合ったりしているくらいで騒がしい下級生組がいないからだ。

「サラ」

少ししてからジョージも男子寮から降りてきた。まだまだ2人揃っているとどちらか分からないことの方が多いけれど、単独だとそうかな?と確信を持つことができるようになってきたと思う。なんだろう。あんなにも瓜二つなのに、今はきっと自分はフレッドだと言われてもいやいやジョージでしょ?と返せる自信がある。ここで勉強しようと2人で言っているからだけではない。よくわからないけど、勘かな?

「大丈夫?」
「?なにが?」
「ほら、ロックハートの授業から散々からかっちゃって。サラちょっと怒ってただろ?」

だから、って。そうだ。きっとそうだ。ジョージは私のことをこうして気遣ってくれるんだ。大丈夫?って。さっきのロックハート先生の授業のあと、2人揃って(正確にはリーも入れて3人で)散々からかってきたものの、双子の1人は必ずその後で心配そうな目を向けてきた。あれはきっとジョージだ。フレッドはきっと面白おかしいことを率先して盛り上げて、ジョージはフレッドよりも少し一歩ひいた感じになっている気がする。だから今もジョージだと半ば確信が持てたんだ。

「サラ?」
「え?あぁ、ごめん」
「いや。俺の‥俺たちの方こそごめんな?」
「ううん。たしかにさっきはからかわれすぎてちょっと嫌な気持ちになってはいたけど、でももう怒ってないよ」

私がそう言うと、ジョージは良かった〜!と心の底から安堵したようで、そのまま力が抜けたようにソファへと座り込んだ。

「ジョージもしかしてそんなに気にしてくれてたの?」
「え?あぁ‥うん。サラはまだここに来て間もないのに、それなのに嫌な思いさせて嫌われたくなかったからさ」
「やだなぁ。そんなことで嫌ったりしないよ」
「‥なら良かったよ」

私があははと笑うとジョージは少し照れたように頬をかいた。アンジーやアリシアにお菓子をもらってすっかり気分は晴れていたが、ジョージがここまで心配してくれていたことが単純に嬉しかった。

「ありがとうジョージ」

私がそう言うとジョージはキョトンとして、「そういえばよく俺がジョージって分かったね」と言った。

「んーまだ2人揃ってると分からないよ。ただ、少しだけ。2人の違いを見つけられたというか‥」
「そっか。‥ちなみにその違いってなに?」
「‥ジョージが朝隠してたこと話してくれたら教えてあげてもいいよ」

私がそう意地悪を言うと、ジョージは絶対嫌な顔をするだろうと思っていたのに、なぜか口角を上げてニヤリと笑った。

「サラ、それって朝の仕返しのつもり?なんなら受けて立つよ?」
「ごめんなさい冗談ですすいませんでした」

この双子のイタズラは噂で散々聞き及んでいるし、なんなら休み時間の度にその現場を目撃しているが、どれもこれも標的にされたらたまったもんじゃないものばかりである。2人はクソ爆弾なるものを主にスリザリン生徒に対して使っているが、恐らく今ポケットの中で手にしているものがそうなんじゃないの。
一瞬のうちに思考回路が定まり、基本びびりな私は考えるよりも先に頭に思いつく限りの謝罪の言葉を並べ立てていた。

「ってサラ、びびりすぎ」

ジョージはそんな私の姿が面白かったみたいで、ケラケラと声を上げて笑った。なんだか私もこんなに優しいジョージに本気でビビるなんて馬鹿げてる。そう思うと私まで面白くなって、2人で笑い転げたもんだから今日の勉強会は全然はかどらなかった。



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