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ハロウィーンがやってきた。
巨大かぼちゃがくり抜かれて中に大人が入って寛げるほどの大きな提灯が至る所に置かれ、魔法で作り出したコウモリが忙しなくパタパタと飛んでいる。
フレッドとジョージ、親友のリーがこのイベントで燻っているはずもなく、いつもの5倍増しにイタズラを吹っかけていた。

「サラ!trick or treat!」
「残念でした、これどうぞ」
「なんだよ、サラは抜けてるから絶対にひっかかると思ったのに」

なんだと。同じ顔でもフレッドはたまに心底失礼なことを言う。少しだけ悔しそうにするフレッドにポッケに入れていた飴を手渡すと、「あれ?これ見たことある」と言った。

「朝アンジーがくれたの」
「それで。さっき俺もアンジェリーナからもらったんだ」
「え?」

フレッドはほらっと私が今あげた飴と全く同じものを目の前にちらつかせた。
だからなんだと言うのだろう。
少しだけ嫌な予感がした私は「じゃ!私はこれで!」とそそくさとその場を離れようとする。
が、そんなことをこのフレッドが見逃すはずもなく、
「これはアンジェリーナの飴ってことで、サラのお菓子じゃないよな。ってことはサラはお菓子を持っていないことになる」
と自信満々に意味不明な理論を展開させて、イタズラな笑みを浮かべ私にせまった。

「だったら何なの‥?」

怖い。怖すぎる。
ジョージといい、フレッドといい、双子(さらにはリーも)がこの顔をする時は碌でもないことを考えている時である。もしくは関わってはいけない時だ。

「んーちょっと聞きたいことがあるのさ」
「‥聞きたいこと?」

フレッドにジリジリと詰め寄られていた私は気づいた時には壁まで追いやられ、壁とフレッドに挟まれる格好になってしまった。

「近い!フレッド、近い!」
「俺にドキドキしちゃった?」
「その台詞はもうリーが言ったことあるから!なんだってあなた達は同じ台詞をこうもカッコつけてサラッと言えちゃうの!」

私がそう言うと「カッコつけてるんじゃなくてカッコイイのさ」とサラリと言い放った。まるで息をするくらい当たり前のことを聞くんだなとでも言いたげである。確かにフレッドはイケメンだし明るいし女子は放ってはおかないだろう。けれども、である。こうも自信満々なのはいかがなものだろう。

「でもリーの時と違って俺の方がドキドキしない?なんたってジョージと同じ顔だし」

ん?これまたとんでも発言である。
ジョージ?なんでそこにジョージ?

「‥?どういうこと?」

私が聞き返すと、フレッドは逆に「どういうことって、どういうこと?」と聞いてきた。
いや、聞きたいのはこっちである。

「意味わかんないよ、何が言いたいの」
「いや、最近ジョージとサラ仲良いからさ。もしかして、と思って」
「もしかして、何?」
「だから‥付き合ってたり?」
「は?」

付き合う?って、なんだっけ。‥あぁ恋人ってことか。
え、誰と誰が?
もしかして、私とジョージが?
え‥‥え!!?

「いやいやいやいやいやいやいや!なんで!」
「そんな否定することでもないだろ。こないだモンタギューに絡まれた後も2人でどっかに消えてたし。夜も談話室に2人でよく居るらしいじゃないか」
「いやだからって‥あの後は2人で話ししただけだし、夜は勉強教えてもらってるだけだもん‥ねぇフレッド頭でも打った?医務室行く?」

なんでだよ、とフレッドは豪快に笑うけど、言われた私としては全く笑えない。
ジョージと付き合ってる?みんなからはそんな風に映ってるの?
驚きと恥ずかしさで頭も体も心臓も、とにかく身体中が木っ端微塵に爆発してしまいそうだ。いやむしろそうしたい。爆発したい。文字通り塵レベルにまで爆発して、穴があったらそのまま埋まっていたい。一生出たくない。そういう魔法があるなら今すぐにでも使いたいくらいである。

「サラ、顔真っ赤」
「‥フレッドが変なこと言うからだよ」
「まぁ、あんまり言うとジョージに怒られるかもだし今回はこのくらいにしとくよ」
「いやいや、こういうことは一生言わないで」

フレッドは引き止めた割にはあっさりと身を引き、「じゃあな」と何事もなかったかのようにスタスタと歩いて行ってしまった。
正直あんなことを聞かれるとは思ってなかった私は心臓のドキドキが止まらない。こんな調子でどうやってジョージと話したら良いんだろう。
フレッドのアホめっ!


**


夜になり、ハロウィーンパーティが始まろうとするにつれて生徒たちは浮き足立っていた。
そんなワクワクドキドキな気持ちとは真逆のところにいるのがハリー、ハーマイオニー、そしてロンである。ほとんど首なしニックの絶命日パーティに呼ばれている彼らは19時に地下室に行かなければならないらしく、時間が近づくにつれてロンはあからさまに不機嫌になっていった。

「もうロン!約束は約束でしょ。いつまでもぐちぐち言わないで。それにハリーも後悔したって約束したんだもの、仕方ないわ」

ハーマイオニーは律儀ゆえにハリーとロンのこの態度が許せないようだった。対してロンはあくまでも傍観者を貫いている私の態度がお気に召さないようで、じとりと視線を送ってくる。

「サラ、本当に行かないのかい?」
「今日じゃなければ行ったのに。残念で仕方ない」
「君、心にもないこと言ってるだろ!」

私は誘われたものの丁重にお断りをしているので気にすることもないが、せめてもの償いとして、彼らの分までハロウィーンパーティのご馳走を堪能し、後で感想を話してあげることにした。

**

ハロウィーンパーティはそれはもう凄いの一言だった。目の前に並ぶご馳走の数々、噂通りダンブルドア先生は舞踏団を招いており、その音楽やダンスも素晴らしいものだった。
フレッドとジョージ、そしてリーはパーティの最中も所構わずイタズラを仕掛けており、特にスリザリンのテーブルにはこの間火トカゲに食べさせていた長々花火をぶっ放し、それがかぼちゃのランタンに飛び散ったものだからけっこうな爆発を起こしていた。もちろん寮監のスネイプ先生が黙ってその事態を見過ごすはずもなく、3人はすぐさま罰則を命じられていたが、そんなことはどこ吹く風で、3人の何にも響いちゃいなかった。

「全くあの3人も相変わらずね」
「ほんと。スリザリンなんてほっときゃ良いのに」

アンジーとアリシアはそんな3人を見て紅茶を片手に呆れ返っていた。私はといえばそんな3人の行動はいつものことに毛が生えた程度だという認識なので、もはや呆れることもなく、目の前に並ぶありとあらゆるご馳走の数々を堪能することに集中していた。

「サラ一体どれだけ食べるの」
「さっきから食べてばっかりじゃない」

そんなこと言ったって美味しいものがあるのだから致し方ない。なんて美味しいんだろう。こんな美味しいものに囲まれて死ねたら本望である。今食べているデザートのパンプキンケーキとパンプキンプディングなんて美味しいなんて言葉だけでは片付けられない。そんなこと失礼に値する。そのくらい私を虜にする味である。

ここまでトータルして成人男性顔負けなくらい食べ尽くしている私にもアンジーは呆れているようだったが、そんなこと今は気にしていられない。
「あら。サラどこ行くの?」
「ちょっと風に当たってくるー」
けれど、さすがに気持ち悪くなってきたので外の風に当たろうと席を立つと、アリシアは行ってらっしゃいとアンジーと共に手を振ってくれた。

**

そういえばハリー達の方はどうなっただろう。大広間を出てすぐのベンチに腰掛けながら、ふと地下室の方向を眺める。幽霊たちのパーティなんて、まして絶命日を祝うパーティに生きている間に招かれることなどなかなか無いだろう。私はご馳走を堪能した今となってはそちらに行くのも有りだったななどと都合のいいことを考えていた。

「サラ」
「!?△◇!※〜!」

呼ばれて後ろを振り返ると、そこにはジョージがいた。びっくりした。驚きすぎてもはや自分がなんと叫んだのかすら思い出せないほどだった。考えてもみてほしい。もう外も暗くてかぼちゃのランタンくらいしか灯がないし、魔法とはいえ辺りにはコウモリも飛んでいるしちらほらゴーストも夜の散歩をしているのだ。そんな中で急に声をかけられる私の身にもなってほしい。

「何?そんなにビックリした?」
「そりゃぁビックリするよ‥!」
「あはは!ごめんごめん。ハロウィーン最後にサラを驚かそうと思ったら想像以上だった」

本当にイタズラのことになると双子に関わってはいけない。碌なことがない。今だってジョージは先ほどの私の絶叫した表情を思いだしては笑っている。大変失礼である。

「ジョージ‥なんでここにいるの」
「サラが出てくのが見えたからさ。大丈夫かと思って」
「ジョージのおかげで大丈夫じゃなくなった」
「あはは!だからごめんって」

笑いながらごめんと言うことはもはや謝る気なんてないのだろう。
それにしても、昼間フレッドに変なことを聞かれたからか、少しでも間が空くと落ち着かない。ちょっとした会話と会話の間なんて昨日までは全く気にもしなかったのに、なんだかソワソワしてしまう。

「ほんと言うとさ」
「‥なに?」
「心配だったんだ。またモンタギューあたりに絡まれたりしないかなって」
「‥モンタギューもそんなに暇じゃないよ」
「まぁ念には念をってことで、こないだのこともあるし、モンタギューにはクソ爆弾を1ダースプレゼントしておいた」
「え」

哀れモンタギュー。同情心などカケラも湧かないけど、この時ばかりは少しだけ(と言っても蟻並みの大きさ程度には)可哀想だと思った。でもそれ以上にざまあみろと思ったのはここだけの秘密である。
きっとこの双子がいる限り、スリザリン生はハロウィーンを心穏やかに過ごすことなど決して出来ないに違いない。去年やその前も似たり寄ったりのイタズラをスリザリン生にふっかけていたんだろう。

「サラそろそろお開きの時間みたいだ」

ジョージがそう言うと、大広間の大きな扉がゆっくりと開きパーシーが女の人と一緒に出てきていた。ぞろぞろと各々の寮に帰る集団があり、スリザリン生は口々に双子に対する悪口を言い合っているのが遠くからも聞こえてきた。その中には案の定噂のモンタギューもいて、こちらを一瞥すると明らかにジョージを睨みつけ舌打ちしているように見えた。

「やっぱ1ダースじゃ甘かったな」
「ローブのポッケにでも長々花火いれてくれば少しはマシになるんじゃない」
「それいいな!」

ジョージはスッと立ち上がり集団の中から器用にフレッドを見つけると、「そのアイデア頂くよ」と言い、すぐさまそちらに駆けて行った。
そうかと思ったら2人してニヤリと笑いあい、モンタギューの方向に一直線で向かったので、きっと長々花火を彼に仕掛けるのだろう。

モンタギューの悲鳴にも近い叫び声が聞こえたのはそれから少ししてからのことだった。

けれども、私はあくまでひとり言を言ったまでで、それをジョージにたまたま聞かれてしまって、実行したのはフレッドとジョージである。モンタギューがまた言いがかりをつけてきたとしても、この件に関しては私は無関係だと強く明言しよう。



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