23



次の週、またまた掲示板の前に人だかりが出来ていた。ここ最近やたらとこの光景を目にしているので、今度はなんだろうと覗いてみたが、人の頭が幾重にも重なり比較的背の低い私では何が書かれてあるかなんて到底分からない。
もういいや誰かに聞こうと諦めかけたその時、たまたま赤い頭で見つけたロンに聞いてみると、どうやら決闘クラブなるものがあるらしい。しかも今夜!

「決闘クラブか‥うん、面白そう」
「サラってこういう変わったの好きよね」
「本当はあの双子の悪戯にも興味津々なんじゃないの?」
「やめてよ、それは私に対する冒涜だよ」

そうこうしていると、アンジーとアリシアが後ろから現れ同じように掲示板を覗く。2人は背が高いから割と詳細の文字まで見えるらしく、なるほどねーと呟いていた。
にしても、アンジーにしてもアリシアにしても変な言いがかりだけはよしてほしい。私はただ好奇心が旺盛なだけで、 あの双子のように奇妙なことが好きなわけじゃない(最近のジニーちゃんを励ます彼らのやり方は奇妙以外の何物でもなかった)。

2人はどうするのか聞いたらアンジーもこういうことは意外と好きなようでノリノリだったが、アリシアは遠慮したいとのことだった。クィディッチ選手だしアンジーのように食いつくかと思いきや、アリシアは基本的には暴力ごとは嫌いらしかった(ここで誤解のないように名言しておくと、私にしてもアンジーにしても基本的には暴力は断固反対である。すなわち今回は特例と言っても良い。というより暴力という認識はない)。

「アンジェリーナとサラも行くんだな!」
「やっぱりな!」

アリシアが図書館に行ってくると一言残しその場を後にしたと思ったら、どこから現れたのか今度は双子の登場である。

「あんたたちは‥行かないわけないわよね」
「もちろんさ!」
「こんな面白そうなイベント、僕らが無視できるわけないだろう?」
「だよね」


**


気づけばもうすぐ待ちに待った決闘クラブの時間である。夕食を終え、私とアンジー、ジョージにフレッド、そしてリーは20時になろうとするにあたり大広間に戻った。

大広間はいつもの食事用の長いテーブルは取り払われ、一方の壁に沿って金色の舞台がそこにあった。
その光景を目の当たりにし、いよいよ皆が皆興奮を隠しきれないでいるようでソワソワしている。夕食の席でもどのテーブルからもこの話で持ちきりだったので当然だ。たまたま隣になったハリーやロン、ハーマイオニーも同じ気持ちらしかった。

「一体誰が教えるのかしら」

アンジーがふと疑問を口にすると、ハーマイオニーはフリットウィック先生なのではと返した。どうやら若い頃に決闘クラブでチャンピオンになったことがあるらしい。
え、フリットウィック先生って呪文学のあのフリットウィック先生?スネイプ先生じゃなくて?いや決して弱そうという意味ではなく、虫をも殺さないような優しい雰囲気の先生ゆえに決闘と名のつくものが似合わない気がしてならない(逆を言うと、スネイプ先生なら顔にこそ出ないが好き好んでやりそうである。それも自分の手を汚さない手段で)。
どんなトーナメント戦で優勝したか、出来ることなら分かりやすく説明してほしいものである。

「誰でもいいよ、あいつじゃなければ‥」

ハリーが言いかけた「あいつ」というのはみんなお馴染みロックハート先生である。ハリーは新学期が始まってからというもの、ロックハート先生の餌食にされ、それはもう苦しめられてきたので、そう思っても致し方ないことである。無論、その考えには私も激しく同意する。

「あいつにこんなことが思い付くもんか」

ロンはそうバカにするけれど、私は(きっとハリーも)一抹の不安を拭いきれないでいた。あの奇想天外な先生のことである。斜め上な考えを以ってして、こんな舞台を演出しているのでは‥と不安な眼差しを舞台に向けたそのときだった。

「静粛に!」

私とハリーの予感的中である。ロックハート先生がお得意のスマイルを輝かせながらつかつかと壇上を歩いて出てくるのを尻目に、ほら見ろとハリーは強烈な視線をロンにぶつけていた。対して、ロンは苦虫を噛み潰したような顔をしてハリーの視線から逃げていた。

けれどもそんな顔をしているのは彼らだけではなかった。これにはこの場にいる全校生徒が明らかに落胆の色を見せた。みんな言葉も出ないほどである。
ましてや、これまで何かとうざ絡みされまくっていたハリーの心中を察すると可哀想で見ていられないほどだ。対して、持ち前のポジティブシンキングを惜しみなく披露している先生は今日も絶好調である。

「ダンブルドア校長先生から、私がこの小さな決闘クラブを始めるお許しをいただきました。私自身が、数え切れないほど経験してきたように、自らを護る必要が生じた万一の場合に備えて、みなさんをしっかり鍛え上げるためにです――詳しくは、私の著書を読んでください」

始まったよ、と双子は目を合わせて呟いた。
その隣でリーが「サラ、先生様の本にどう書いてあるのか詳しく教えてくれよ」と言ってきたのには温和で定評のある私もさすがにイラっとしたけれど、そんな私の気持ちをよそにフレッドもジョージもケラケラと笑った。本当に、お前たちは。

「鍛え上げるだって?どの口が言うんだよ?!」
「ロン!うるさいわ。先生のお話が聞こえないじゃない」

こっちはこっちでまた始まったよ、とロンが呟いた。
ハーマイオニーはクィディッチの試合の日に先生がハリーの骨を消した事実を忘れてしまったのだろうか。にわかファン達もそろそろ先生の無能さに気づき始めているというのに、未だハーマイオニーは先生にお熱である。聡明な彼女がどこか壊れたんじゃないかと本気で心配になってきた。

そうこうしているうちに先生の話はどんどん進んでいる。なんとスネイプ先生を助手に連れてきたらしい!
あのスネイプ先生を連れてくるだなんて、さすが空気の読めないポジティブマンである。先程から隙あらば殺してやろうとスネイプ先生から蔑んだ眼差しを受けていることにさえ、彼はきっと気づいてはいないのだからある意味羨ましい。

「模範演技をするのに勇敢にも手伝ってくださるというご了承をいただきました。お若いみなさんにご心配をおかけしたくはありません。私が彼と手合わせした後もみなさんの魔法薬の先生は、ちゃんと存在します。ご心配なさるな!」

「‥ヤバイ。俺イライラしてきた」
「リー、私は序盤からその気持ちだよ」
「なんならスネイプと相打ちしてくれたら一石二鳥なのにな」
「相棒!それは名案だ!」

双子はハイタッチで喜び合うが、それには周りも同意しているらしく声の届いている範囲の生徒たちは激しく首を縦に振った(スリザリンには睨まれていた)。

では、とロックハート先生はスネイプ先生と向き合い礼をする。その礼もまた腕を上げてくねくねと回しながら大げさな礼をするので、見ている私は本当にイライラしてならなかった。スネイプ先生の次はできることなら私がロックハート先生とペアを組ませてもらえないだろうか。編入してまだ3ヶ月な私だが、ロックハート先生になら勝てる。絶対に勝てる。

「3つ数えて最初の術をかけます。もちろん、どちらも相手を殺すつもりはありません」

「スネイプがそうとは限らないけどな」
「僕もそう思う」
「私も」

ジョージの意見にハリーと私は激しく頷いた。スネイプ先生が歯をむき出しにしていることにロックハート先生はやはり気づいていないようで、彼の前向きな姿勢もここまでくるとあっぱれである。

「「1、2、3ーーエクスペリアームス!」」

なんとロックハート先生は杖だけでなく身体まで吹っ飛んでいった。これには皆思わず飛ばした張本人を見るが、スネイプ先生は鼻で笑いながらその様子を涼しい顔で見下ろしていた。
スリザリン生からは拍手が沸き起こった。ただ、いつもなら腹が立つその顔も今では清々しい以外の何物でもなく、気づけば私までもが拍手を送っていた。
スネイプ先生、グッジョブです!

「スネイプ先生、確かに生徒にあの術を見せようとしたのは素晴らしいお考えです。しかし、先生が何をなきろうとしたかが、あまりにも見え透いていましたね。それを止めようと思えば、いとも簡単だったでしょう。しかし、生徒に見せた方が、教育的によいと思いましてね……」

先生はよろめきながらも立ち上がり、次の瞬間には得意の笑顔を振りまいて言った。その言い方にも大げさな身振り手振りにもやっぱり腹が立ってしまう。それはロンも同じだったようで、スネイプの奴頭を吹っ飛ばしてくれりゃ良かったのにと、舌打ちしながら吐き捨てた。

「あいつ無能どころか頭がイカレてるんだよきっと」
「ロン!さっきから先生に対して失礼よ」
「今の見てたろ?!あれを見てもまだ尊敬してるだなんて言うんじゃないだろうな!」
「先生がおっしゃってたじゃない。私たちのためにあえて術を受けてくださったのよ」
「君まで頭がイカレちゃったみたいだ」

ロンの言いたいことは最もである。あの場面を見て、もはやハーマイオニーに同意するものなどいなかった。


**


それから各々がペアを組むこととなり、ロンは同じグリフィンドール生、ハーマイオニーはスリザリンの女子、なんとハリーはマルフォイ君だった。スネイプ先生はなにかとペアを指定するのが大好きだけど、ここまであからさまに犬猿の2人をペアにするなんてなにか企んでいるのではと思ってしまう。
そうこうしていると、ジョージはハッフルパフ生の女子生徒、アンジーはこれまたスリザリンの女子生徒、フレッドはレイブンクローの女子生徒とペアに指定されており、私はというとなんとあのグラハム・モンタギューだった。

「ちっ。お前が相手だなんてな」
「私の中ではもう二度と出てこないキャラクターの1人が貴方だった」
「なんだと?!」

モンタギューは顔を真っ赤にして怒り出した。前々から思っていたけれど、彼は短期すぎやしないだろうか。単に口車に乗せられやすいのもあるかもしれないけれど、その性格故に双子の足元にも到底辿り着けないことにいい加減気づくべきである。

けれど、これはこれで面白くなってきた。
ここで一発ギャフンと言わせれば(むしろ言えないくらいに叩きのめせば)本当に二度とは出てこないだろう。どの魔法を試してやろうかと考えていると、モンタギューは私が怖気付いてると思ったのか、フンっと鼻で笑った。

「‥笑い方が下品」
「なんだと!お前みたいな雑魚は俺がこてんぱんにしてやるよ」
「うわ、私こてんぱんって言葉使う人に初めて会った」
「いちいち癪に触る奴だな!」

放っておいたら文句ばかりが続きそうだったので、私は彼の二の句の言葉をピシャリと遮り、そろそろ始めようよと促した。モンタギューはそれでも何か言いたそうにしていたけれど、私の言うことにも一理あると思ったらしく(一理どころじゃない。もっともな意見である)私たちはお互いに距離をとった。

1、2、さーー「デンソージオ!!」

やっぱりな!
モンタギューが3まで待てない人間であることはすでに承知している私である。とっさに避けたから一体何の呪いか知らないけど、武器を取り上げるだけと言われていたのに、つくづく根性の汚い奴である。(ちょうど私の後ろにアンジーとペアを組んでたスリザリン生がいたらしく、直撃を受けたらなんと出っ歯になってしまった!)

あんな呪いを女の子にかけるなんて‥!
私の怒りは一気に頂点にまで達した。
くるりと彼の方に振り返ると、呪文を外したことに舌打ちしながらもう一度何かを唱えようとする動きが見られた。けれども、怒りゆえに俊敏さに磨きのかかっている私の前ではそんなものは通用しない。

彼が口から言葉を発する前に口を縫い付ける呪文を唱える。みるみるうちに口が縫われていくのを目の当たりにしたことで、焦って縫い目を解こうとするので、とりあえず三重に縫い付けておいた。ざまあみろ。
恨めしそうにこちらを見るモンタギューへの次の一手は笑い続ける呪文に決め、さっそく試してみると彼は口が縫われたことにより笑い声が出せないことでフーフーと鼻息を荒くしお腹を抱えて笑っているようだった。

モンタギューのその姿がかなり面白くて、思わず私もケラケラと笑っていると「フィニート・インカンターテム!」というスネイプ先生の声が響き渡り、苦痛に悶えながら笑い続けているモンタギューがようやく解放されてしまった。あぁ‥私の傑作が‥。

「ちぇ」
「お前‥覚えてろよ!」
「私、覚えてろよって言葉本当に使う人にも初めて会った」
「こんの‥っ!」

モンタギューは怒りに身を任せたのか、魔法では敵わないと思ったのか(編入生に負けるくらいだからフレッドの言うように本当に1年からやり直すべきである)なんと拳を振り上げてきたのである。

「ちょ‥!」

これには流石の私も咄嗟にうずくまり目を瞑って身を守ろうとした。けれどもすぐにドンっという音が聞こえたはずなのに、待てど暮らせど何の痛みも訪れなかった。それもそのはず、恐る恐る目を開けて様子を伺うと私の前になんとジョージがいたのである。

「‥ジョージ!」
「邪魔するな!ウィーズリー!」
「負けた腹いせに女の子に殴りかかるなんて、ことごとくクズな奴だな」
「関係ないんだ、引っ込んでろ」
「生憎、大事な友達のピンチを関係ないと見捨てるほどクズじゃないんで」

ジョージはモンタギューの拳を右腕で止めていて、あの穏やかな彼からは想像もつかないような冷徹な雰囲気を醸し出している。ジョージの怒っている姿は度々見たことがあるけれど、今のこの状態はそれまでの比ではなかった。

「おい、グラハム。それくらいにしておけ」

この緊迫した雰囲気の2人に果敢にも声をかけてきたのはあのピュシー君である。私ですらこの状況にたじろいでいるのに、彼ときたらそんなことは何処吹く風、颯爽と2人の前に立ちはだかるのだからチャレンジャーにも程がある。そんな彼に対して、2人ともまるでタイミングを合わせたかのように同時に振り返り、邪魔すんなとでも言いたげに睨みつける。

「エド、何の真似だ」
「スネイプ先生が終わらせ呪文を唱えていた。お前も聞こえただろ?スリザリンとして先生の指示に従わなくてどうする」
「‥‥ちっ」
「これ以上続けるとお叱りを受けるのはウィーズリーだけじゃないんだぜ?」
「分かってるさ!」

モンタギューはそう叫ぶとジョージの腕に留めてあった自分の右腕を勢いよく振り払った。

「ジョージ!大丈夫?」
「‥あぁ。平気さ」

モンタギューはそのままズカズカと人ごみの中に消えていき、ピュシー君は小さなため息をついて一度こちらを見たものの、何も言わずに彼の後をゆっくり追いかけて行く。
モンタギューめっ。あんな呪いをかけようとしただけでなく、殴りかかろうとするなんて最低!こんなことなら失神でもさせてやればよかった!

「サラこそ大丈夫か?」
「え?あぁ‥うん。私も平気だよ。ありがとうジョージ」
「それにしても殴りかかるなんて‥しばらく悪戯の標的はあいつに決まりだな」
「もう自分の魔法じゃどうにもならないくらいの悪戯でお願い」

恐らく普段ならやめてあげたらと止めにかかる私だけど、相手がモンタギューとあらば遠慮なんていらない。この双子には本気の悪戯で取り掛かってもらいたいし、出来れば私もそれに加わりたいものである。

「ハリー!」

ハーマイオニーの高い声に振り返ると、皆の視線は壇上に集まっている。私たちが部屋の隅で一悶着起こしている間に、なにやらハリーとマルフォイ君が決闘していたらしい。けれどもどこか様子がおかしい。
対峙している2人をよく見ようとジョージと共に壇上の方に向かうと、2人の間にはなんと大きな蛇がいたのである。

「あれってリーのペットだっけ?」
「サラ、それは断じて違う。俺のペットはタランチュラのこいつさ」
「うわ、やめてよ。前から言おうと思ってたけど、その子なかなかに衝撃的な顔してるよ」
「可愛いだろ」

いつのまにか近くに来ていたリーがペットのタランチュラを見せつけてきた。私がうげぇとしていると、ロンがこんなところで蜘蛛なんか出すなよ!!と小さな声ながら叫んでいる。振り返ってみると、それはもう今にも泣きそうである。

「けど、なんで蛇が‥」
「どうせマルフォイ君がけしかけたんじゃないか?スネイプのあのニヤニヤした顔が全てを物語ってるよ」

本当だ。ジョージの言葉にそちらを見るとスネイプ先生もマルフォイ君もニヤニヤと事の成り行きを面白がっているのが見てとれた。
どいつもこいつもスリザリンの奴は‥!

蛇はハリーの方にどんどん向かっている。なのに、どこかハリーの様子もおかしい。ロンとハーマイオニーが「ハリー!危ない!」と叫んだ声に蛇は気をそらされたのか、ハリーではなく、なんと近くにいた男の子に標的をかえてしまった。
怯える男の子は驚きと恐怖で身動きが取れないでいる。なんとかしないと!と私が思ったのも束の間、それまで傍観していたハリーが静かに口を開いた。

「‥ハリー?」

けれども、彼の口にしている言葉の意味はまるで分からなかった。フランス語でもイタリア語でもない。恐らく誰もが聞いたこともない言葉をごく自然にハリーは口にしているのだ。しかも、あろうことか目の前の蛇に向かって。

これにはいよいよ先生たちまでも何も言えず、ただただ怪訝な目を向け黙っているしかないようだった。皆が皆、ハリーを異様な物でも見るような目で見続けた。ハリーはそんな周りの空気には一切気付かず、蛇に向かってずっと話し続けている。すると、蛇はそれまでの目つきや行動が嘘かのように従順に大人しくハリーに対して頭を下げているような行動をとったのだ。

「‥‥‥」

一連のハリーの行動に誰もが動揺したに違いない。私もただ黙って見ていた。何が起こっているのかは一概には分からなかったけれど、ハリーにとって良くないことが起こっているのはなんとなくわかる。

ハリーは襲われそうになった男の子に向かって微笑んだ。きっと、ハリーのことだから彼を助けようとしたに違いない。もしかしたら彼から、もしくはみんなから称賛の声が上がると思ったのかもしれない。でもきっと‥

「一体、何を悪ふざけしているんだ!」

けれど、ハリーのそんな期待とは裏腹に男の子は叫んだ。その瞬間、その子や周りの目が異様に鋭いものであることにハリーも気付かざるを得なかったようである。スネイプ先生はそんなハリーに対して未だ怪訝な目を向けたまま、さっと杖を取り出し蛇を消した。

「ハーー」

ハリーの動揺した顔を見ていられず思わず声をかけようとしたら、ハリーの名前を言う前に隣にいたジョージにぎゅっと手を握られた。反射的にジョージの顔を見ると、彼はただゆっくりと首を振る。恐らく、何も言うなということだろう。何も発しない方が良い、黙っていた方がいいと。

「‥でも」

ジョージの言いたいことは分かる。だけど‥。
あんなハリーを放っておくの?ハリーだって大切な友達なのに、壇上で好奇の目に晒されてる彼を、ただ見てろっていうの?

「ハリー!」
「こっちに来るんだ」

ハーマイオニーとロンの声だ。
2人はハリーの袖を引き壇上から下ろさせると、動揺するハリーの背中を押して会場から出て行った。

2人が側に居てくれるならハリーはきっと大丈夫。
思わずジョージを見ると、彼もそう思ったみたいで、先ほどとは違い優しく微笑んでくれる。
2人の勇気とジョージの優しさに私は少しだけ元気を取り戻せた。

3人が会場を後にしてからというもの、それまで静まり返っていたのが嘘のように皆が皆次々と騒ぎ始めた。
みんなてんでバラバラに話しているはずなのに、耳に入ってくる言葉は不思議とどこからも同じものだった。

「ハリーはパーセルマウスだった」
「ハリーが秘密の部屋の継承者に違いない」

またしても困惑している私に、ジョージは先ほどより少しだけ力を入れて手を握ってくれた。
私はただその手を握り返すことしか出来なかった。



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