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またも犠牲者が出てしまった。ハッフルパフのジャスティンとゴーストのサーニコラス。ジャスティンといえば決闘クラブの時にハリーと一悶着あったあの男の子だ。そしてなんと、2人の第一発見者はハリーだという。

‥と、昨日のことを軽くあらすじにまとめてみてもハリーが可哀想でならない。いや、石化した2人が1番憐れではあるけれど、ハリーは謝りに行ったはずなのに、またしても運悪く事件現場に居合わせてしまったのだ。昨日寮に戻ってきたハリーはひどく憔悴しきっていた。何の言葉もかけられなかったけれど、ロンとハーマイオニーが側についていたのでなんとか大丈夫だと自分に言い聞かせるようにした。
ただ、この事件のせいでハリーがスリザリンの継承者だという噂の信ぴょう性が増してしまったのだ。
実際、ロンやハーマイオニーはそうでないにしても他のハリーの友人達は完全に彼を信じることが出来ないでいるようだった。みんな口を揃えて「ハリーじゃない‥よね‥?」と言い、どこか自分の言葉に自信が持てていない。まぁでもそりゃそうだ。味方のはずの私ですら多少そうなのだから。

「ハリーって私の友達の中で最もトラブルを招きやすい子だと思う」
「サラは噂を信じてないの?」
「んー‥信じてないと言いたいって感じかな。まぁでも違うとは思う。悪運が強すぎるんだよきっと。常にトラブルの渦中になぜかいるって感じがするもん」
「‥サラも大概その部類に入ると思うけど」
「確かに」
「え?嘘でしょ」

アンジーにしてもアリシアにしても、どこか私に失礼すぎやしないだろうか。過去を遡ってみても、ここに来て私がトラブルに巻き込まれたのなんて、せいぜい3つか4つくらいである。

「多すぎるわよ、まだクリスマスも迎えてないのに」
「ハリーの言葉を借りるとしたら、トラブルの方が私の方にやってくるんだよ」
「あ、そういえば‥」

アリシアの切り出した話になんだろうと思ってアンジーと一瞬顔を見合わせ続きを促す。するとまたしてもハリーが憐れに思えるような答えが返ってきた。

「クリスマス休暇にうちに帰る生徒が今朝になって一気に増えたらしいわ」


**


「ほんとだ‥」

アリシアの話を半信半疑で聞いていたけれど、本当のことだったようで、あんなにもクリスマスに居残る生徒がいると思ったのに皆がみななだれを打ってホグワーツ特急の予約を入れたらしかった。

けれど、変化したのはそれだけじゃなかった。
寮を問わずほとんどの生徒がハリーをあからさまに避けた。ハリー自身はその行為にうんざりしているようだったけれど、そこはあの双子が黙っているはずもなく、むしろ面白おかしく騒ぎ立てた。

「したーに、下に、まっこと邪悪な魔法使い、スリザリンの継承者様のお通りだ!」

みんながハリーを避ける中、ハリーの前に2人が付き人の如く立ち歩き大げさに道を開けて進んでいる。
それには私も大笑いした。フレッドもジョージもハリーが継承者だなんてバカげた話だと思っているからこその行動なんだと思ったし、開き直ったそのジョークに目が点になるみんなの間抜けな顔がとてつもなく面白かった。
けれども、パーシーやジニーちゃんはそうではないらしく、ジニーちゃんは涙声になりながら「お願いやめて」と口にして、パーシーなんて「今すぐにやめないとママに手紙を書くぞ!」と脅したのである。

「全く!パースの奴は俺たちがちょっと目立つとすぐにママに手紙をだすなんて言ってくる」
「自分じゃ何も出来ないからそう言うしかないのさ!」
「「監督生バッチが聞いて呆れる!」」

いつのまにか私の隣にやってきた双子はパーシーに対してぷりぷりと怒っていた。

「フレッドとジョージを止めたいと思った時は私も手紙を出させてもらうね」

私がそう言うと、2人はお互いの顔を見合わせて大げさに舌を出して手を前に出した。

「サラまでやめてくれよ」
「そうさ!サラはうちのママがどれだけ怖いか知らないからそんなことが言えるんだ」
「なぁ?ロニー坊やよ」
「吠えメールを受け取った時の恐怖をサラに教えてやれ」
「いつまでもそのことを言うのはやめてくれよ!」

たまたま目の前を通り過ぎたロンの腕を引っ張り込んで、双子が先日の一件を蒸し返すと、ロンは一気に顔を真っ赤にして怒った。そりゃそうだ。哀れ、ロン。

「マルフォイが不機嫌そうにずっと僕を見てる」

ロンと一緒にいたハリーがマルフォイ君に気づき、大きなため息を吐いた。チラリと私もそちらを見ると、マルフォイ君はチッと舌打ちをしながら踵を返し、いつもの家来2人を伴ってどこかへ行ってしまった。
残念だなぁ。もう少しにこやかにしていればイケメンなんだしモテるだろうに。いつか彼とゆっくり話すタイミングがあれば是非そのようにアドバイスをさせてもらいたい。

「そりゃ、本当は自分なんだって言いたくてしょうがないからさ。君が奴の悪業の功績を自分のものにしてるだろ?それが憎くて仕方ないんだよ」

ロンの言いたいことがよく分からなくてどういうこと?と聞き返そうとしたら、それより先にハーマイオニーが「もうすぐあれが完成するもの。彼の口から真実を聞く日も近いわ」と言った。
なんのこっちゃ分からない私はハテナが頭に飛んだけど、ハリーとロンはハーマイオニーのその言葉に食いつきながら3人でさっさとどこかへ行ってしまったし、私は私でフレッドに「サラ!この光るバッチを君に授けよう」と強引にバッチを握らされたことで結局は何も聞けずじまいである。

「ありがとう‥っていうか、このバッチ何?」
「おい!フレッド!ジョージ!僕の大切なバッチをどこにやったんだ!」
「おいおい、言いがかりはよしてくれたまえ」
「大切なパースが命よりも大切にしているバッチを頂くなんて、そんな無粋な真似はしないさ」
「‥‥‥」

私は一度手をぎゅっと握った。パーシーには見えないようにそうっと指を開いて双子から受け取ってしまったバッチをよくよく見ると、それはやはりパーシーの監督生バッチだった。彼はこれを常に肌身離さずつけていて、尚且つ時間があれば丁寧に磨いている姿を私は何度も目にしている。
哀れなことに、双子の仕業によってそのバッチは私の手の中でみるみるうちに姿形を変え、最終的にはなぜかコガネムシになった。そして、持ち主の気も知らずにブーンとどこかに飛んで行ってしまった。

「お!コガネムシとはなかなか粋なものになったな」
「あれってパーシーのバッチだよね?飛んでったよ?」
「飛んでったな」
「ああ。空の向こうにまっしぐらだ」
「‥‥‥」

渦中の人物は未だ血眼になって探している。
私はというと共に飛んで行ったコガネムシ、もといパーシーの監督生バッチを双子と共に眺めながらパーシーに激しく同情したのは言うまでもない。けれど、私の名誉のために言わせてもらうと、あれは私のせいじゃない。もしパーシーが私を疑うようなことがあれば誰がなんと言おうと噂のウィーズリーさんに手紙を書かせてもらおう。



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