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クリスマスの朝がきた。寒くて真っ白な朝。そういえばアズカバンにいた頃もこんな朝が何度もあったなあと頭の隅に思い浮かぶ。あそこにはカレンダーなんて無かったからいつがクリスマスだったかなんて知りもしなかったけど、もしかしたら私が感じたこんな朝の1つにクリスマスの日があったのかもしれない。

よいしょっと起き上がると、冬休み中部屋を共にしているハーマイオニーがもう既にどこかへ行ってしまった後だということに気がついた。本当に毎度毎度どこへ行ってるんだろう。まぁ今日はジニーちゃんの姿も見えないけれど。
昨日の夜、それとなく聞いてみたら「分からないところを先生に質問をしに行ってるのよ」と答えられた。しかし、それならハリーやロンがあんなにたじろぐのもおかしい。正直その答えだと納得し難いものがあったけれど、ハーマイオニーからそれ以上聞かないでといった雰囲気が感じ取られて、まぁ結局のところ聞けずじまいである。

身支度を整えて談話室に降りると、大きなクリスマスツリーの下にたくさんのプレゼントの山が積み重ねられていた。既にお馴染みのメンバー達はそれらを囲んで包みを開けることを楽しんでおり、その中にはハリーやロンそして探していたハーマイオニーの姿もあった。良かった。今日はどこかへ出かけていたわけじゃなかったんだ。

「「メリークリスマス!サラ!!」」
「メリークリスマス、ジョージ。メリークリスマス、フレッド。さっそくだけど、そのセーターどうしたの?」
「ママからのプレゼントなんだ。毎年これさ」
「これで息子の名前を間違えずに済むから張り切って作るのも仕方ないんだよ」
「どうしたのって聞いたのはそういうことじゃないよ。なんでお互いの頭文字のセーター着合いっこしてるのって聞いたんだけど」
「それは秘密さ」

まぁどうせ騙されそうな子の前でどっちだ!とでも言って混乱させるに違いない。なんていうかロンとか、ロンとか、ロンとかね。妙に勘のいいロンはこちらの会話が聞こえたらしく、バッと振り向いた直後あからさまに顔をしかめた。フレッドはバラさないでくれよとため息をついたけれど、すぐさま気を取り直してジョージに向かってウインクを投げた。ジョージがそのよくわからない合図に気づき、どこから取り出したのか、私の目の前に何かをドン!と突き出した。

「「これは僕らから君へのプレゼントさ!」」
「あ、ありがとう」

2人のあまりの気迫に圧倒されつつ、プレゼントと双子を交互に見る。
わ、私にプレゼント?
友達から初めてもらったクリスマスプレゼントだ。どうしよう。いや、どうしようもないんだけど、なんていうか感動しすぎで手が震えてきた。なんだろうと包みを開けると中身は赤色の飴が入った小瓶で、その綺麗な色に私はしばらく魅入ってしまった。

「わぁ‥綺麗な飴だね」

蓋を開けてその中の1つを口にする。これは‥

「リンゴの味!」
「ふむ。最初はリンゴだったか」
「?どういうこと?」
「サラ、そのまま舐め続けてみて」

フレッドの言葉に含みがあって何やら嫌な予感がする。けれど、リンゴ味がするだけでその飴からは何も変わった様子はない。
コロコロと舌で転がし続けていると、ふとある変化に気がついた。

「あれ?味が変わってきて‥る?」
「お、やっとか!」
「サラ、何味になった?」
「んー‥いちご?」

ほんのりだけど。
味の変化に気づいてからさらにコロコロと転がしてみる。するとどうだろう。いちごかな?と思ったら、今度は桃になった。桃の次はオレンジ。コロコロと転がしたら転がすだけ味が変わり続けるではないか。なにこれすごい。

「なにこれ。味が七変化するよ!」

私がすごいすごーい!と素直に喜んでいると、ジョージとフレッドはフフンと得意げに
「まぁ俺たちだからな」
「自分たちの才能が怖すぎるくらいだ」
と言った。

「え!これ2人が作ったの?」
「もちろんさ!俺たちの発明品!」
「サラ、最後にちょっと噛み砕いてみて」

ジョージに言われるがままに小さくなったその飴をガリガリと噛み砕く。すると、今度はハチミツが口の中に広がった。ハチミツ味ではなく、本物のハチミツがとろりと砕かれた飴の中から出てきたのである。

「!」
「ちゃんとハチミツ出てきた?」
「うん!口いっぱいにハチミツになったよ」

す、すごい。ここまできたらこの2人の才能が本当に恐ろしい。2人とも今は(多少手荒な)イタズラで落ち着いてるけど、悪用すればそれはそれは世界がひっくり返るなんてことになりかねない。冗談抜きであり得る。なんというか、この2人だけは決して人の道を踏み外さないでほしい。踏み外したが最後、本当に地球がひっくり返るに違いない。
私がそんな心配をしてるなんて露知らず、ジョージは少しだけ不思議そうに首を傾けた。

「ほんと、すごいね」
「喜んでくれたなら作った甲斐があったよ」

しかし、何をどうすればこんな七変化する飴を作れるというのか。ハチミツの名残が残る余韻に浸りながら、瓶の中の飴玉をもう一度見た。けれど、見た目は至って普通。というより、ハニーデュークスで売られているキャンディとなんら大差ない。

「おい!僕が食べた飴の中から変なものが出てきたじゃないか!」
「変なもの?」

ロンが半ばパニックになって口を開けるので、みんなでなんだなんだと覗いてみると、なんと口の中が真っ黒になっていた。かと思いきや、今度はみるみるうちに舌の上に蜘蛛の絵が浮き出てきた。

「う、うわぁ‥」
「ねえ!サラ何?!何がどうなってるのさ!」
「知らない方がロンのためな気がする」
「僕もそう思う」
「ハリーまで!ねぇ僕の口に何があるっていうの?!」
「とにかく、目を瞑って!良いから早く!」

ハーマイオニーはとりあえずロンの目を閉じさせる。
ロンは顔がみるみるうちに青くなっていくが、それもそのはず。絵とはいえ、口の中に蜘蛛がいるなんて蜘蛛嫌いのロンからしたら気絶してもおかしくはない。なんというか、この間のナメクジ事件を彷彿とさせた。あの時はナメクジだったから耐えられたようなもので(普通はそれでも無理だけど)、あれがもし蜘蛛だったらロンは気が狂って死んでたかもしれないな。
ハーマイオニーはいち早く呪文を唱えると、ロンの口の中の蜘蛛(の絵)をいち早く消し去った。

「もういいわよ」
「結局何だったんだ‥?」

ハーマイオニーの機転でこの場はなんとか収まったものの、結局のところ口の中がどうなっていたかわからずじまいのロンは煮え切らない様子である。
けれど、ここで本当のことを言うと、返ってロンを不幸にし兼ねない。それだけは避けたい。
ハリーと私は「ロン!これ誰からのプレゼントかな?!」「これはウィーズリーおばさんだよ!ほら、新しいセーターが届いてるよ」と次々に話しかけ、話題をかえようと必死になった。

「そういえば、サラ。あなたの分のプレゼントも届いているわ」

これよ、とハーマイオニーがプレゼントの箱を指差した。誰からだろうとプレゼントを手に取ると、カードにはハグリッドの名前があった。

「ハグリッド‥」

きっと親代わりとして、私のことを察してくれたに違いない。ホグズミードへの許可証に記されていたのと同じサインがそこにあり、彼の優しさが否が応でも伝わってくる。

「ありがとう‥メリークリスマス」

カードとプレゼントをギュッと抱きしめ、誰にも聞こえないくらい小さな声でハグリッドにお礼を言った。
走り書きにはなったけど、プレゼントのお礼をいち早く伝えたくて返事を書いた。

「サラ、手紙を出すならヘドウィグを使ってもいいよ」
「ありがとうハリー!」

ハグリッドにとって素敵なクリスマスになりますように。
未だ降り続く雪を見て、そう願わずにはいられなかった。



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