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「お、やっと来たか」

私がジョージとフレッドと3人で他愛もない話をしていると、ドレッドヘアの男の子が扉を開けて入って来た。

「「や!リー!」」
「はい、久しぶり」

彼は双子の見事なまでのハモリを軽くサラッと受け流し、「よく俺がこことってるって分かったな」と続けた。どうやらこのコンパートメントは彼がとってくれてたみたいで、双子もそれが分かっていたのか「もちろん!リーが僕らのために一役買ってくれてることは百も承知さ」と自信満々に言っている。(何度も言うけど一文字一句違えず言えるって凄くない?)

「で?そっちの彼女は?もしやナンパしてきたんじゃないだろうな」

彼が私のことに触れると、双子は「まさか!」とまるで心外だとでも言いたげに2人で顔を見合わせた。

「彼女は噂の編入生さ!」
「そして僕らがここまでエスコートした」
「それをナンパって言うんだろ」

3人のやり取りを見ていると彼の立ち位置がまるで保護者な感じがしてなんだか面白い。
私が隠すこともせずケラケラ笑っていると、3人も同じように笑ってくれてそれがなんだか嬉しかった。

「あー面白かった。私はサラ。サラ・グレイス」
「俺はリー・ジョーダン。よろしくな」

よろしくと手を差し出すと彼もまた双子と同じようにニカッと笑い手を握り返してくれた。
ホグワーツに着くまでに友達が3人も出来て、まだ始まってもないけど私のスクールライフは順風満帆そのものだ。


**


ホグワーツはなんとも厳かな雰囲気のある城である。
あの後、3人から色々話を聞かせてもらい(と言ってもスリザリンはやめとけだの、フィルチに出会ったらこのクソ爆弾でも投げたらいいよだの、為になるのかならないのかよく分からない内容だった)、兎にも角にも程なくしてホグワーツを見上げた最初の感想はこれだ。


「イッチ年生はこっちだ!」

この声はハグリッド!
駅に降り立つや否や、彼の声が響き渡り体が人の2倍は飛び出ていてどこにいるのかすぐに分かった。

「ハグリッド!」
「おお!サラ!無事に着いたか!」
「なんで置いてったの!私あれから」
「すまん、サラ。今はイッチ年生を誘導せにゃならん。お前さんも一緒に来い」

駅で置いてけぼりを食らわした件について私が文句の1つでも言ってやろうとしたのに、あまりにもサラリと流されてしまって出かかった言葉をそのまま喉奥に引っ込めたのは言うまでもない。

双子とリーに「また後で!」と声をかけそのままハグリッドに着いて行く。(3人は「絶対グリフィンドールに入れよー!」と叫んでいた。)

そこからは謎に船に乗って城まで移動することになった。まだあどけない一年生達の中に四年生になる私が混ざっているのはちょっと異様な光景である。それには周囲の誰しもが気づいているようで、私はたちまちコソコソと耳打ちされ合う種となった。

そんな時一緒の船に乗っていた女の子が声をかけてくれた。それもまた赤毛で、今日はやたらと赤毛に縁のある日だ。

「ジニーよ。よろしくね」
「私はサラ。こちらこそよろしくね」
「さっきジョージ達と話しているのを見たの。それにフレッドが言ってたわ。サラって編入生なんでしょう?」

ジョージとフレッドが自分のことのように話していたわとジニーちゃんが教えてくれた。
なんていうかその話をしたのがあの双子だから尾びれがいくつもついている気がして不安でしかないけど、そんなことよりもしかして?

「ジニーちゃんは2人と兄妹だったりする?」
「そうよ。私が末っ子なの」
「3人?」
「いいえ、7人兄妹。ホグワーツに今いるのは私を入れて5人ね」

わお。予想をはるかに超える7人!
それに双子と兄妹だなんて。やっぱりね!

それからジニーちゃんは兄達に聞かされたホグワーツでの生活を存分に語ってくれたけど、ジニーちゃんは双子が話したという部分に関しては一切信じていないようだった。それには私も同感である。なんせ、組み分けするだけでトロールと一騎打ちするだなんて、まだ魔法も使えない一年生相手にそんなことするわけがない。
「それ絶対誰も信じないじゃん!」と私が大笑いすると、ジニーちゃんは「でもロンは信じきっていたのよ」と言った。決してバカにしたわけではないということだけは声を大にして言っておきたい。


「ミス・グレイス!」

船から降りてホグワーツに着くとすぐこれまた威厳漂う魔女(マグゴナガル先生というらしい)が一年生にホグワーツでの生活の心得を話し始めた。これから帽子を被って組み分けを行うらしい。え、帽子?
帽子が組み分けを行うなんてどんなだろうと思っていると、今度は私を個人指名して呼び止めたのである。

「はい!」
「あなたは一年生が終わるまでここで待っているように。終わり次第あなたを生徒全員に紹介し、組み分けとなります」
「え、嘘でしょ」

それではまるで自分から注目してくれと言わんばかりである。
私としては地味にいきたいわけではないが、目立ちたいわけでは決してない。ただただ普通に過ごしたいのだ。ただでさえ編入生って初めてなんでしょ?その肩書きが早くみんなの意識から抜け出すことを祈りたい気分だ。


**


一体何分時間が経っただろう。
あの大人数だもん、そりゃ時間かかるよね。でもそろそろ退屈しのぎも限界である。

ギィィイイ

「え、嘘でしょ」
私が愚痴をこぼしているとなんといきなり扉が開いた。私はまさか勝手に開くとは思っていなくて(だって誰か迎えに来るもんなんじゃないの)、焦りを通り越して思わずその場に固まってしまった。


シーン。

本当にそんな効果音が流れたような気がした。
みんなが私を見た初めての姿は地面にお山座りで座り込んで顎を手に起き驚きの表情でこちらを見る、である。グッバイ!私の平穏なスクールライフ。編入生の肩書きを消し去るどころか、明日からはきっとそれに加えて地面に座り込む行儀の悪い頭の悪そうな顔の奴として生きていかなくてはならなくなった。最悪である。

見かねたマグゴナガル先生が「ミス・グレイス!早くお入りなさい!」と先を促してくれた。

「ごめんなさい!今行きます!」

慌てた私は転びそうになるのを必死にこらえ(これ以上恥の上塗りは断じて御免である)早歩きでマグゴナガル先生の元まで向かった。途中チクチク刺さるたくさんの視線やヒソヒソと私のことを話されていたのは勘違いではないだろう。

「さぁ、椅子に座って。これを被るのです。」
「え、これをですか?」
「何か?」

まずい。薄汚い帽子に一瞬たじろいでいると、マクゴナガル先生は今度粗相を侵すと容赦はしないと言いたげに私をこれでもかと睨みつけたのである。またしても普通のスクールライフから一歩遠退き、泣きたくなった。

借りてきた猫のように大人しくなった私はマクゴナガル先生に促されるまま、椅子に座り帽子をかぶる。
「グリフィンドーーーール!!!!」
いや、正確にはまだ被ってはいない。

「え、なんで?」
「不満か?」
「ううん、そうじゃなくて。嬉しいんだけど私まだ被ってすらなかったよ?いいの?もしかして適当?」
「いいや、君には勇気がある。真の友を得たいという気持ちも強く持っている。君にはこの寮に入る素質があるというわけだ。」

私に勇気なんてあるんだ。
そんなこと思ったことなかった。
それにしてもこの帽子会話できるんだ。私が薄汚いって言ったこと(実際には頭に思い浮かんだこと)絶対に聞いていたに違いない。心なしかずしりと頭にのしかかっている気がする。けれどそんなことではめげない私は「ありがと!帽子さん!」とお礼を言った。

なんてったってグリフィンドールといえば双子やリーのいる寮だ!マクゴナガル先生が「早くグリフィンドールの席に着きなさい!そして、歓迎しますよミス・グレイス」と言ってくれ、私はグリフィンドールのテーブルに足を進めるとなんと双子が立ち上がって「サラ!やったな!」と手を叩いて喜んでくれているし、テーブルを挟んだその前の席でリーが微笑んでくれている。

「ありがとう!」

グリフィンドール生徒に迎えられ、私は双子の前に座っているリーが横に避けてくれたので甘んじて隣に座ることにした。

不安がないといえば嘘になる。
むしろ不安だらけお先真っ暗な心持ちだけど、彼らといたら不安なんてどっか遠くにいってしまうんじゃないかと思えるほど、私の心は晴れ渡っていた。



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