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「しっかしサラ!君、ほんと最高だよ!」
「僕らをここまで笑わせるなんて罪なレディさ!」
「分かったからもうその辺りで落ち着いてくれないかな」

先ほどの失態をフレッドとジョージが黙って見過ごすはずもなく、席に着くや否や2人からは大爆笑の嵐をお見舞いされている。
フレッドに至っては思い出してはヒーヒー言って笑い転げているし、ジョージはジョージで「そんなに落ち込むことじゃない。褒めてるのさ!」と全くもって笑えないフォローをする始末だ。(ちなみに2人の区別は全くついていない。席に座った時に再度自己紹介をしてくれたのである。)
私はというと最初こそ「やだ..恥ずかしい」と感じていたが、あまりにもしつこくて終わらないこの茶番にいい加減うんざりしてきていた。目の前に並ぶ豪華な食事もこのやり取りのおかげで全く味わえない。

そんなうんざりしたわたしの態度を知ってか知らずか、隣でリーは「双子に目をつけられて可哀想に」と取ってつけたような言葉を笑顔で放った。こんなにも他人事感を前面に出されたのは初めてである。
リーは双子曰く「悪友」らしいけど、なんとなく私には彼らの保護者的立ち位置なのだろうなとだんだんと理解してきていた。

「ちょっと!私たちも彼女と話したいんだけど?」
「アンジェリーナ久しぶり!会えて嬉しいよ」
「はいはい。私もよ、フレッド。そんなことより彼女と話したいのはあなた達だけじゃないのよ」
「そんなことだって?」
「フレッド、麗しのアンジェリーナ姫は君よりも今はサラ嬢にしか目を向けられないのさ」
「これが失恋ってやつかい?ジョージ」

アンジェリーナと呼ばれた(恐らくスタイル抜群の)美女は双子の茶番を横目に、リーと反対の私の隣に腰を下ろした。そしてもう1人、金髪の(こちらも恐らくスタイル抜群の)美女が「隣座るわね」と一言添えてジョージの隣に座った。

「私はアンジェリーナ・ジョンソン。同じ4年生よ。」
「私はアリシア・スピネット。アンジーと同室で同じ4年生」

2人とも続けて宜しくと手を差し伸べてくれ、私がその手を握り返すのに時間はかからなかった。

それからアンジェリーナとアリシアはたくさんのことを話してくれた。彼女たちと双子はクィディッチの選手で、優勝を目指していること。彼女たちも相当だけど、ウッドに至ってはその5倍はクィディッチに対する愛が深いこと(アンジェリーナが「あそこで新入生相手に熱くなってるのがウッドよ」と顎で指し示していた)。双子の差し出すものは大抵しょうもない悪戯の類なので受け取らない方が無難だということ。(これについて双子は「「酷い!僕たちの悪戯はユーモアに溢れているのに!」」と抗議していた。ちなみに大事なのはそこじゃない。)

アンジェリーナとアリシアはとても気さくですぐに打ち解けることが出来て嬉しかった。今のところ女の子の友達はジニーちゃんをいれて彼女たちで3人だ。友達が出来たことを素直に喜んでいると、ふとジョージと目があって彼は優しく笑いかけてくれた。それがなんだか「良かったね」と言ってくれているようで、私の心は不思議とたちまち温かくなっていく。


そして良かったことは尚も続く。
ホグワーツ始まって以来の編入生という肩書きからくる好奇な目は、なんと拍子抜けするほど軽いものとなったのだ。それもこれも有名どころのハリー・ポッターと双子の弟ロン・ウィーズリーのおかげである。
彼らは列車に乗り遅れただけでなく、なんと双子たちのお父さんの車に乗って直接やってきたらしい。恐らく車に魔法でもかけてあったんだろうけど、それでもそれに乗ってやってくるだなんて無謀と言うかなんというか。
そして、今や編入生なんてどこ吹く風、周りの話題はそのことで持ちきり状態だった。

「「まさか我らが弟のロニィ坊やが車に乗ってやって来るなんて!」」
「それってすごいの?」
「まあな。学校の規則ですら10は破ってる」
「「なんで誘ってくれなかったんだ!」」

2人揃ってOh!No!と頭を抱え、今にも倒れこみそうなほどである。寮監であるマクゴナガル先生は厳しい表情に皺を何本か刻ませさらに厳しい顔をするほどの事態だというのに、この2人ときたら自分たちがそれを成し遂げられなかったことを心の底から悔やんでいるようだった。

「それで、そのロニィ坊やとハリーポッターはどこにいるんだろう」

私が全く顔を見せない問題児2人の安否をこぼすと、2人はまたしても口を揃えて「大丈夫!談話室で落ちあえるさ!」と、まるで弟たちの行動が手に取るように分かるかのような口ぶりでそう言った。隣のリーは言うまでもなく呆れている。

なんにせよ普段は誓ってそんなことはないが、今は自分良ければ全て良しである。彼らには私の平穏なスクールライフのための糧となってもらおう。


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それからダンブルドア先生によって宴はお開きとされ、監督生に付き従いグリフィンドール寮へとたどり着いた。いくら皆んなの話題が問題児2人に切り替わったとはいえ、私のことがすっぽりと抜けたわけではないので、その道中それはそれは好奇の目が自分に向けられているのをひしひしと感じあまり良い気分はしなかった。けれど双子は「この僕たちですら入学初日にここまでの注目は浴びなかったさ!」とこの状況をまるで面白おかしく言うものだから幾分気楽だったのも本当だ。

「サラ!あなた私たちと同室みたいよ!」

寮に着き双子から合言葉を教えてもらい中に入ると、先に着いていたアンジェリーナが喜び駆け寄ってきてくれた。後ろからアリシアも続く。

「ほんと?」
「いつのまにかベッドや机も増えて、あなたの名前が書いてあったし荷物も届いてるわ!」
「わあ!2人と同じ部屋だなんて嬉しい!改めて宜しくね!」

私がそう言うと2人は心の底から喜んでくれているようだった。そのことを皮切りに色んな生徒が話しかけてくれ、双子なんて「ようこそホグワーツへ!」と言いながら、どこから出したのか花火を上げるし、リーは指笛を吹き囃し立てていて、お祭り騒ぎを通り越してカオスな現場と化したが、私はもう嬉しくて楽しくてまだ何も始まってすらないのにここに来て良かった本当に良かったと心から思うことができた。



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