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「え、なにこれ」
「一体全体なにがどうなって」

ほどなくして渦中の二人組は談話室に入って来た。けれど先ほどもお伝えしたようにここはもうカオスな現場と化しており、事の成り行きを知らない彼らは豆鉄砲を食らった鳩のようにこの状況を理解できていないようだった。

「お!やっと来たなロニィ、そしてハリー」
「ロニィって呼ぶなよ!」
「君たちのことは聞いたぞ!なんで僕らを誘ってくれなかったんだ」
「僕たちだって好きでこんなことをしたわけじゃないんだ!」
「柱が通れなくなってて..」
「なんにせよ、噂の編入生よりも注目を浴びること間違いなしさ!」

色んな意味でね、と付け加えてフレッドが言うと(恐らく赤毛がそうだろう)ロニィ君がさらに嫌な顔をした。もう1人の黒髪眼鏡の男の子(恐らくこちらがハリーポッター)は「編入生?」とフレッドの言葉に疑問を持って聞き返している。

「あ、はじめまして。サラです」
「もしかして夏休みのときパパが話してくれた編入生って君?」
「そうさ!あ、サラ。こっちがあのハリーポッター、そしてこれが弟のロンことロニィ坊やさ」

認めたくないけども、とフレッドは最後のジョージの言葉に続けて肩をすぼめて言う。それに対しロンはこっちのセリフだ!と憤慨していて、それにロニィ坊やって言うなよ!と続けて猛抗議しているが、双子にしてみたらどこ吹く風、完全にスルーである。それを見てロンがさらに嫌な顔をしたのは言うまでもない。

「えーっとロンって呼んでいい?あなたはハリーね。宜しくね」
「よろしく。僕らもサラって呼んでいい?」

フレッドは弟であることを認めたくないだなんて辛口を叩くけれど、人懐っこさからしてさすが双子の弟である。いいよ、と笑顔で返すとロンも照れたように笑ってくれたし、隣のハリーもニコッと微笑んでくれた。

「全く!規則をいくつ破ってると思ってるの!柱が通れないのもなにか訳があるんだし、せめておじ様やおば様が戻ってくるのを待っていれば良かったのに!!」
「戻って来られるか分からないだろう?!だって僕たちが通れないんだから!!」
「そうだとしても空飛ぶ車でやってくるなんて無謀だわ!」
「あぁもう!マグゴナガルに散々言われて耳にタコが出来てるってのに君まで同じことを繰り返さないでくれよ、ハーマイオニー!」

ハーマイオニーと呼ばれたその女の子はふわふわの栗毛(欲を言えばもう少し髪を梳かしてもいいんじゃないかな)が印象的な可愛らしい子である。大広間では双子やリーがずっと話してくれてたので関われなかったけれど、私のことをじっと見て何か言いたげな顔をしていたのは知っていた。
きっと規則などには自分にも他人にも厳しいタイプなんだろう。騒動を起こしたハリーとロン(言い合っているのはロンだけでハリーはただただ苦笑いをしているだけ)を非難し続けている。

「ねぇ、ハーマイオニー?」

彼女の怒りは止まりそうになかったが、そこはタフな心を持って話を割って入ることにした。え、と言いながらくるりと振り返った彼女はまくし立てていたことに気づきハッとして「えーっと」と言葉を濁しているのがなんだか面白かった。

「話の途中にごめんなさい。ハーマイオニーも私のことサラって気軽に呼んでね」

そう言うと彼女はパァっと顔を明るくさせ「ありがとう!」と言ってくれた。か、可愛い!

「私、あなたと話したかったの!」
「ありがとう。ハーマイオニーのその本どんな本?すごい分厚いけど」
「あぁこれ?」

ちょっとした軽い読み物よ、と彼女は言ったがいかんせん図鑑並みの大きさである。私は「へー」と受け流したが、ロンなんて目を見開いて「軽い読み物?それが?」とまるでハーマイオニーの発言を聞いて頭がおかしいとでも言いたげだ。というかしっかり言い放っていた。対してハーマイオニーはキッとロンを睨みつけている。

「サラ。これいつものことだから気にしないでね」

ハリーは2人のやりとりに呆気にとられている私の隣に来て優しく言ってくれた。

「ハリーも大変だね」
「もう慣れたよ」
「ハリーは双子にとってのリーと同じ、ロンとハーマイオニーの保護者なんだね」

私がクスクス笑いながらそう言うと今度はハリーが呆気に取られた顔をして、「あの2人みたいに心底仲が良いことなんて今まで一度たりとも無かったけどね」と笑った。どこかの国では喧嘩するほど仲が良いと言うらしいし、今は水と油な2人でも今後どうなっていくか今から楽しみだな。

「サラ!明日から授業が始まる!」
「不安なことはないかい?僕らが色々教えてあげるよ!」
「そう?じゃぁさっそくーー」
「ただし座学に関しては力及ばずだ」
「僕たちはなんせ実践向きなのさ」
「え、嘘でしょ」

実践はもちろんではあったが、 私としては座学面を補ってもらいたかった。まぁでも見た目からして双子に座学を期待出来ないのは明らかだ。そこは素直にハーマイオニーあたりの真面目ちゃんあたりに聞いて頑張るとしよう。

「サラ、今僕たちを見て何か失礼なこと考えてただろう?」
「なんのこと?」


***


夜も更け、先ほどまであんなにも賑やかだった談話室も話し声1つしない静かな空間へと変化した。
同室となったアンジェリーナ、アリシアは本当に親切で快活だし明日から始まるホグワーツ生活への不安も1つ解消されたのは言うまでもない。ただ、今までどこで学んでいたのかとか、なぜ編入してきたのかといった女の子特有の夜のお話会では笑って誤魔化したりする部分が多くて。仕方のないことではあるけれど、それがなんだか嘘をついているようで心苦しかった。

ドサッ。

ふぅとため息ひとつ零してから手に持っていた教科書を暖炉に近いテーブルに置いてからソファへと掛ける。
私がみんなに言ってる本当のことっていくつあるんだろう。今はまだ出会って間もないし、誤魔化しはいくらでもきくけどそれがこの先ずっと通せるものなのかな。

パサリ。

予習にと選んだ教科書は魔法薬学だった。
昼間の双子にしても、さきほど部屋でアンジーやアリシアの話ぶりからしても魔法薬学はグリフィンドールにとって笑えないほど不公平な授業らしい。
「サラは特に要注意だな」
とこれまた笑えない冗談をフレッドが平気で言ってきたので、正直びびった私は予習を欠かさない決意を密かに固めた。そして今に至る。

「Draught of Living Death?あぁ生ける屍の水薬ね。本で読んだことある。確かニガヨモギを煎じたものと、、そうそう!アスフォデルの球根の粉!」

アズカバンに居た頃、読むだけならと渡された教科書類を読んでいて正解だった。きちんと覚えるために読んでいたわけではなかったから(雰囲気的に集中できるような部屋ではなかったし)うろ覚えばかりだけど、これなら予習と復習でなんとかなりそうだ。

「こんな感じかな」

もういい加減寝ないと明日に響くので部屋に行こう。
色々悩んでいたって始まらないし、問題が起こってから悩む方がよっぽど良い。
友達ができた。それだけでどんな問題でも乗り越えられそうな気がするから。



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