「じゃあ、僕たちは沖縄へ行ってくるから、苗字は下の子達の面倒しっかりなー!」
半袖の裾をまだ幼い妹が引っ張る。灰原との電話に「気をつけてね」と切ると携帯電話を閉じてジーンズの後ろポケットに仕舞い、妹の手を取った。
「姉ちゃんお仕事お休みだよ!何して遊ぼっか?」
以前、同級生三人が集まり寮でお菓子を食べた時の約束が今こうして遂行されていた。
昨日三年の最強コンビに依頼された護衛任務に、急遽二年生も応援に行く事になったのは昨晩の事。ちょうど前日に母が産気付いたと連絡があり、担任に許可をもらいこうして実家に戻ってきたのだった。
「あたしも行こうか?」と電話をしたところ、灰原は「七海と二人で大丈夫だよ」と言っていたので今回はお言葉に甘える事にした。
「あ、そうだ」
妹に頼まれたピンクの折り紙で鶴を折ったところで、もう一度仕舞った携帯を取り出して連絡先を開く。カチカチとボタンを何度か押して、五条悟の名前を探し出すと新規メールを作成する。カメラロールから撮ったばかりの写真を選択し、それを添付して送信ボタンを押した。
それは灰原と七海には既に送った、生まれたばかりの末っ子を抱いた自分と兄妹達の写った一枚だった。
先日、偶然五条に身の上話をしたときに兄妹が多い事に驚いていた。きっと歴史深〜い五条家にはこんな賑やかな大家族は無縁の世界だろうから、少しでも雰囲気伝わればいいな、と。
するとすぐに手の中の携帯が短く震えた。
返信はっや
思わず笑ってしまった横顔をバッチリ見た妹が
「姉ちゃん笑ってる〜彼氏〜?」と茶化す。
「ん〜?どうでしょう〜?」こちらも曖昧に笑って返せば、「きっと彼氏だー!」と純粋な目がキラキラと揺れる。
返信を確認すれば、簡潔な一行だけが送られていて、五条先輩らしいな、とまた笑った。
「姉ちゃん」
また別の手で服の裾を引っ張られた。男の子なのに気が弱くて、いつも姉と妹に言い包められる優しい弟。この子が、「変なのが見える、姉ちゃん怖いよ」と言ったから、高専に行く決心をしたきっかけとなった子。
「どうした?」
腰をかがめて視線を合わせると、大きな丸い目にうっすらと涙を溜めて「あのね」と何度もパクパクとさせている。
「姉ちゃん、オレのせいで、怖いやつと戦ってるの?」
「...違うよ!ぜーんぜん!違う!」
まだ小さな両手を握って、笑顔を向ける。
「姉ちゃん、強いから!それにね、怖いヤツた〜くさんやっつけると、お金持ちになれるの。すごいでしょ?」
「...でも、姉ちゃん...、最近全然帰って来てくれない...怖いやつ倒すので、忙しいから...?」
「違うよ〜!姉ちゃんはさ、彼氏とデートしたり、お友達と遊んだりしてるの!華のJKだもん、毎日やる事いーっぱいなんだよね」
「...うん...」
「...怖いヤツ、まだよく見るの?」
そう聞くと、ギュッと強く目をつぶった。その小さな背中にそっと手を回して抱きしめる。
泣かないで、と思いを込めたつもりが彼の目からはポロポロと大粒の涙が溢れてきて
「...姉ちゃん、助けてほしいのに、...全然帰ってこないから.....」
「ごめん、ごめんね...本当ごめん...」
「オレが、もっとしっかりしなきゃ...オレ、兄ちゃんだから...」
嗚咽混じりの言葉に名前の目からも一筋涙が溢れ、思わず抱きしめるその腕に力が篭る。
そんな事言わせたいわけじゃないのに
「約束するから。姉ちゃん、みんなのこと守るから」
あたし、何の為に術師になったんだっけ
彼からの『おめでとう』の文字に、返す言葉が出てこない。