五条悟と夏油傑の任務が失敗に終わったと聞いたのは、一連の騒動が落ち着きを見せ始めた頃だった。
同級生に会うのは実に数日ぶりで、これから沖縄に行くと言ったあの電話の声の主とは思えぬ程落ち込んでいた。
お土産を渡したい、といつかの様に談話室に集まりローテーブルを囲む。ソファに座り長い脚の上で手を組む七海と、自身の隣で胡座を掻きテーブルの上で指を組み手元をじっと見る灰原。
空気が重い、窒息死しそうだ、と思いながら名前は交互に二人を見る。
そりゃあの最強ペアの任務失敗には心底驚いたが、五条先輩は生きているし、夏油先輩の大怪我も完治している。何もここまで落ち込む必要なくない?と喉まで出掛かった言葉を飲み込んで
「あたしもお土産あるの!じゃ〜ん!オーガニックの紅茶!飲もう〜!!」
と馬鹿みたいに高いテンションで声を掛けるしかなかった。
「...五条先輩、”ひとりで“最強になったんだね」
あの事件の詳細を聞きながら、二人の沖縄土産であるサーターアンダギーを食べる。
しかしこのシリアスな場面にサーターアンダギーは不味い、時々咽せそうになるのを必死で堪えて、お土産に買ってきたオーガニック紅茶で流し込む、を何度か繰り返した。
オーガニックにこだわっている訳ではないのだが、こちらも色々頭がいっぱいで、結局以前買った時と同じお店に寄ったのだ。
「あれから夏油さんも元気なくて...。寮で会っても調子悪そうな時多くて、心配で...」
「灰原は本当に夏油先輩のことが好きだね。心配してくれる後輩がいて、きっと夏油先輩も嬉しいと思うよ」
「...そうだといいな...」
「...苗字こそ、何かあったんじゃないですか」
七海の一言に「えっ」と思わずビクリと体が揺れた。
「隠し事が下手なのは、お互い様の様ですね」
七海はいつものポーカーフェイスを崩して、眉を下げて困ったように笑った。たしかに、みんな嘘は下手だし、隠し事が全然隠されてないな、と乾いた笑みを浮かべた。
「...実は、実家に帰った時、弟に言われたの。自分が助けてほしい時に、あたしはいない、って...」
「...」
「...なんか、わかるな、それ...」
向かい側に座る七海に聞こえるか聞こえないか、小さな声で灰原が呟く。
「...自分の周りの人を助けたくてここに来たのにね...どっかの誰かの方にばっかり目が行って、結局身近な人を守れてない...あたし、何の為にここに来たの?って考えちゃって...」
「...」
視界の隅で隣の彼が俯いたのが見えた。灰原とは環境が似ているせいか、共感することが多い。
あたしも灰原も、兄妹を怖い目に合わせない為にここに来た。みんなを守る強さが欲しくて、それなのに...
「...力がなければ、大切な人は守れないですよ」
「...七海...」
「力がなければ、こんな悲しい事態は避けれる筈です。いざ、と言う時の為に力をつけましょう」
「...そうだね、うん、七海の言う通りだよ!」
「...それに、私達がこうして日々呪霊を祓っていけば、少しずつですが、この世の呪霊が減って、それはきっと巡り巡って身近な人の安全に繋がりますよ」
...そう思う事にしましょう、と七海が照れ隠しの様に紅茶の入ったカップに口を付ける。
「...めっちゃいい事言うじゃん七海ィ」
「僕達は、夏油さんや五条さんみたいにはなれないけど、三人ならあの二人の足元くらいにはなれるかもね!」
「待って灰原!足元って低すぎじゃん!」
「え!?じゃあ、腰?この辺?」
立ち上がる灰原に「何それマジウケる」と笑う苗字を見て、七海は思わず頬を緩めた。
穏やかな日常を取り戻した、そんな気がして
「ってか、二人とも全然食べないじゃんサーターアンダギー!マジこれ口の中パッサパサになるから!食べなよホラ!」
そんな七海に気付いてか、名前がサーターアンダギーを一つ七海の目の前に差し出す。仕方ない、と、随分と短くなった彼女の爪をほんの少し見て、茶色いそれを受け取った。