「お前ンとこの転校生、なんなのマジで」
五条悟は先日のある一件を思い出し、隣の座席に座る七海建人に不満気に吐き出した。当の七海も五条が言わんとしている事にすぐに見当が付いたようで、あぁ、と額に手を当てていた。
「まあ、害はないです」
どんなフォローだよそれ。
お前のそのカオ、どう見ても害出てんだろ。
あからさまにウゲッと顔を歪めた五条に、七海は「でも」と補足した。
「案外悪くないですよ」
五条さんには言わずとも見れば分かるんでしょうけど、と言った七海を横目で見る。
どこか優しい笑みを浮かべる七海は、少なからず転校生を認めているようだ。
正直苗字には一回会っただけで能力は未知数だが、非術師の家庭で生まれ、これまで非術師として暮らしていた事を考えると相当な呪力量とコントロール力を持っているのだろう。生まれ持ったセンスというものか、ふと五条は記憶の中の苗字に引っかかった。何か気になるところがあったような気がするが、思い出せるのはヘラヘラとした喋り方とジャラジャラと揺れるピアス。なんだっけな。
それよりも、狭い高専で彼女を見たのはそれっきりだ。むしろその方が気になる。
「苗字は少々やかましいですが」
「少々じゃねーだろ」
「そうですね」
「そういやアイツ、寮でも全然見かけねーけど何してんの?」
冷静に考えれば入学してひと月程経つが、校舎はおろか寮の談話や食堂にも転校生の姿を見たことはない。広いようで狭い高専内では、教師にも同級生にも嫌でも顔を合わせる機会が多いというのに。
「あー・・・」
不自然に言葉に詰まる七海。
「その、あれですよ」
「?」
「恋人に会いに行っているそうです」
「・・・は?」
「・・・」
「え、毎日?」
「はい」
「・・・へー」
めちゃくちゃ青春してんなおい、普通の高校かよ。
授業受けて、無駄に広い高専の敷地を抜けてわざわざ彼氏に会いに行くとか。
毎日?欲求不満か?健気っつーかなんつーか。
傑と硝子で一年含め改めて苗字の歓迎会をしようという話しになったのだが、あまりにも本人に会えず、誘えず仕舞いであった。
急な転校できっとまだ心の整理がウンタラカンタラって傑は心配してたケド。
傑ゥ、全ッ然そんな心配いらねーワ。
あれ、そういえば今回の任務、呼ばれた時に補助監督が「まだ経験の浅い一年生なので、五条さんに付き添いをお願いしたくて」とかなんとか言ってた気がする。
車に乗っていたのが七海だったのでそんなことすっかり頭から抜けていたワケだけど。
そんな前置き、七海とはもう何度も組んでいるからわざわざ言うわけねえしな。
つーことは本当は七海じゃなくて苗字が任務に行く予定だったって事か。
そこまで結びついた俺は、苦労しているであろう七海に同情の目を向ける。
「お前も大変だな」
「いえ・・・」
七海から大きな溜息が聞こえた気がした。