チョコレート


隣に座る金髪のロングヘアがぴくりと揺れる。本人曰く金髪ではなくミルクティーベージュだと言っていたが、違いはわからない。おそらく彼女の事を知る者は皆口を揃えて金髪と表現するだろう。

「んー・・・七海今何時?」

流れ落ちる前髪を手で押さえながら顔を上げる苗字が眉を寄せて目は瞑ったまま。器用にも寝惚けながらもポケットから携帯を取り出している。

「16時20分です。授業はとっくに終わりましたよ」

壁時計を確認して時刻を教えれば「よじ・・・」と未だ寝ぼけた声で呟いた。
ちなみに取り出した携帯で時刻を確認すればいいものを、と思いはしたが、その携帯は目を瞬かせる彼女の手に握られたままで、折り畳まれたまま開かれてもいない。

万年人手不足の術師界。
この世界に飛び込んだばかりの苗字だが彼女の術式か人柄か。すでに多くの任務に駆り出されていた。
任務においてはその容姿に反する真面目さを発揮する彼女だが、いかんせん座学だと気が緩んでる様子を度々目撃する。担任も呆れてはいるが、連日駆り出される任務への労りか諦めか、注意する回数は少ない。いや教師がそれでは駄目なのだが。

「ご飯どーする〜?」

携帯に目を向けカチカチとボタンを打つ彼女の横顔を見る。なんの脈略もなく発せられた言葉に返答できずにいれば、聞こえなかった?とこちらを見上げた彼女とようやく目が合った。もう寝惚けてはいないようだ。 

「夕食は戻ってから寮で食べます。現場は遠くないですし、遅くは掛からないでしょう」

起きて第一声が食事の事とは・・・マイペースな彼女らしいといえばらしい。
なぜ寝ていた苗字をわざわざ起こしたのか、それはこの後二人で任務が入っているからだ。
一年同士で組む事自体は珍しくない。実際苗字が入学するまでは灰原と二人で組む事が多かったが、苗字が来てからは三人で駆り出されることがほとんどだった。三人で外出する時はいつも帰りにどこかで食事をしていた。流行りだなんだとやたらと都内に行きたがる根明二人に半強制で連れ回される形ではあるが。

「マジ?お腹空かない?てかお腹空いてない?」
「いえ特には」

話も聞かずに「ちょっと待ってー」と机の横に掛けていた鞄を膝に乗せて中を漁ると、あった!と手のひらサイズの黄色い箱を取り出した。その箱を長い爪で器用に押し開けて中の袋をひとつ摘み出し、ほい!と手渡された銀色の包み。

「やっぱカロリーメイトはチョコ味だよねー」

いるともいらないとも答えていないのに、しかし受け取ったからにはお礼を言わねば、と彼女を見れば、すでに袋を破いて食べ始めていた。

「ありがとうございます」

それを聞いた苗字が、ニヤリと笑ってカロリーメイトを加えて立ち上がる。

「あたしも帰って来てからご飯食べよーっと。食堂って何時までなのー?」

そっこーで片付けてこよー!と隣に並んだ彼女にバシンと背中を叩かれる。
食堂の営業時間には間に合わないだろうが、滅多に寮で夕食を食べない苗字がこう言ってるんだ。苗字が言うようにソッコーで片付けよう。

行儀悪く歩きながら齧ると口の中の水分が持っていかれる感じがしたが、隣で美味しそうに食べる苗字がいれば、なんだかそれ程悪くないような気がした。



HOMEtop prevnext