五条悟は学生とは言え一級術師。1年の時よりも遙かに増えた任務の依頼を休みも関係なく淡々とこなし、今回もまた遠方の任務から久しぶりに寮へ戻って来た。
時刻は22時を過ぎていたが何か食べてから風呂に行こうと食堂へ足を進めると、先客がいたようで中から高い声が聞こえる。
「やば!うんま〜!やっぱ七海の言う通りにしてよかった〜」
食堂には可愛がっている1年の後輩の七海と、その隣には噂の転入生。派手な髪は遠くからでも目立つし、時々教師達が頭を抱えているという話を聞くのである種問題児である。
いくら同級生とはいえ、この意外な二人の組み合わせが気になり思わず声をかけた。
「七海じゃん、お前らも任務帰り?」
並んで座る二人の前に腰を下ろせば、礼儀正しい七海は食べる手を止めて姿勢を正す。五条先輩お疲れ様です、と言う隣に、茶色のアイシャドウとバサバサの睫毛に縁取られた目を丸くしてこちらを見る金髪女子、ギャルだ。
「五条先輩じゃーん!久しぶりじゃないですか〜、全然会えなくて寂しかったですよー」
「お前そう言う割に全然気持ちがこもってねーんだよ」
相変わらずのテンション、隣の七海とは対照的だ。最初の頃はこのテンションに毎回眉を顰めていた七海も、今では顔色一つ変わらず、通常運転といった様子だが五条にとっては任務明けにこのテンションが新鮮に感じられる。自身の同級生はどちらも大人しい、というより基本ローテンション。付き合いが長いせいもあるだろうが、数日ぶりに会って世事でも寂しかった、なんて事は言われないので、棒読みだったとしても女子に言われて多少なりとも嬉しさはある。悔しいから絶対に表には出さないが、絶対に。
「五条先輩もこれから食事ですか」
ちらりと手元にあるコンビニの袋に目をやった七海。いつもなら一人で食べたがってあっちへ行けとでも言うところなのに、今回は大人しい。どうやら隣にいるやかましいソイツから話し相手の標的に俺を差し向けたいのだろうと察する。
「五条先輩もコンビニでご飯とか食べるんですね〜、ちょっと意外なんだけど」
「普通によく食ってるだろ」
高専に戻る直前に最寄りのコンビニで温めてもらった弁当を開く。まだ温かい。こんな時間だと言うのに、向かいの二人は寮でいつも食べるトレーだ。視線に気付いたのか単に話題にしてなのか、「七海ってあざといんですよ」と###が箸を置いて湯呑みに手を伸ばしながら喋る。
「食堂のおばちゃんに、任務で疲れた身体にはバランスのいい食堂のご飯がいい、とか言って!こうしてラップして取っといてもらったんですよ〜」
マジあざといわ〜、と言いながら湯呑みに入った緑茶を飲む。それよりお前の爪、長すぎだろ、なんだそのギラギラしたピンクは。湯呑みで緑茶を飲む奴の爪かよ。
へぇ、と相槌を打って七海を見れば、我関せず、と隣と同じように湯呑みを啜っている。お前はクォーターの割に縁側でお茶を飲むのが想像できるよ。
「ってか五条先輩甘いの買い過ぎじゃないですか?今食べるの?やばくない?」
「...苗字、敬語」
申し訳程度に小声で注意した七海。先輩の前だし一応注意しとこ、みたいな。お前も全然心がこもってねぇのがバレバレなんだよ。
「男なんてこんなもんだろ。食うか?」
「え、いらないです。こんな時間にお菓子とかマジ無理なんで」
「私も結構です」
即答。本当、こいつら一回上下関係見直した方がいいよな、と思っていた矢先、聞き慣れない電子音が鳴り響く。
ごちそうさまーと手を合わせていた名前が、ポケットから携帯を取り出して着信を確認。すぐにトレーを持って立ち上がり「あ、お先でーす」と緩い挨拶をして携帯を開いた。
「もしもーし、ねぇウケる、マジ今ご飯食べ終わったとこなんだけどー!」
思わず振り返って彼女を見たが、向こうは電話をしながらもこちらの視線に気が付き、へらりと笑って会釈をした。
廊下に出て行ってもなお静かな寮内では電話で話す彼女の声が聞こえる。お互い向き合って何も言葉を発さない七海の様子を見れば何事もなかったかのように相変わらず湯呑みを口にしている。
「......お前、大変だな....」
七海はうんともすんとも言わなかったが、その表情は多少ほっとして肩の力が抜けた様にも見えた。