数日前、苗字がフラれて落ち込んでるから会ったら励ましてやってほしいと後輩から連絡をもらった五条は、夏油と二人で寮の廊下を歩いているときに噂の人物に遭遇した。
「お前フラれたんだって?」
「悟、いくらなんでも直球すぎるぞ」
珍しく談話室で硝子と並んで座っていた苗字が嫌そうに眉をひそめて振り返る。
いつも通りの化粧にいつも通りの様子だ。呪力も穏やか、落ち込んでいる様子は見受けられない。
思う存分からかってやろうという五条の意気込みを感じとって、隣の傑と硝子は呆れ顔だ。
「フラれた割に元気そうじゃん」
「まぁ、ハイ。そうですね」
「慰めてやろうか?俺今フリーだよ」
「おい五条」
すかさず硝子が低い声で止めてきたが、これくらいどうって事ないっしょ。
まぁ別に?ワンチャン有りなんじゃねーかなとか思わない訳ではない。コイツ可愛いし。そんな淡い期待をしつつも、こんな誘い文句「マジ無理ー」とか言って断るんだろーなーと予想している。隣の傑もそう思っているようで特に何も言ってこない。
「え、ムリです。新しい彼氏できたんで」
「・・・は?」
「あ、彼氏から電話だ」
どこからともなく鳴り響いた流行りの歌の着メロに苗字がポケットから携帯を取り出す。
「じゃあ硝子さん、またお話ししましょー!」
携帯を確認して苗字は硝子にだけ手を振って談話室を出ていった。すれ違いざまに五条をチラリと睨み上げて。
「今のは流石にないわ」
「下心しかなかったね」
硝子と傑がため息混じりに呟く。なんだよ完全に悪者じゃねーか。誰だよ落ち込んでるから励ませって言った奴。ソッコーで新しい男作ってんじゃねーか。むしろ俺を励ませよ。
速攻で連絡してきた後輩に文句を言いに行けば「聞いてくださいよ!実は苗字めちゃくちゃ美人なんですよ!五条さんの言った通りでした!さすが五条さん!」と興奮気味に言われて更に後悔した。マジで。ガチで。
「五条って結構本気で名前狙いじゃん?」
「ああ、転校してきた頃から可愛いとは言ってたけど」
なんだ、知ってたんだ?と夏油が五条のいなくなった談話室のソファに座る。
「あの着うた、彼氏じゃなくて弟だよーって伝えた方が良かったかな」
「へぇー、まんまと騙されたな」
「彼氏、まだ出来てないっぽいし。名前が言いたくないっぽかったから言わなかったけど」
「うーん、悟には黙っておこうか」
面白そうだしね、と言う夏油に「さんせーい」と家入はニヒルに笑って頷いた。