お正月ー前ー


冬休みに入り年末年始で生徒たちはほとんど帰省していた中、七海達一年生は急遽任務をあてがわれ、正に今補助監督の運転する車でそれぞれピックアップされていた。
七海が車に乗り込むと、既に後部座席には灰原がよっと手を上げて座っている。ああ、と返して車に乗り込むと目の前の助手席に苗字がいた事に気付いた。また携帯で電話しているのか、こちらには一瞥もくれずに必死に電話越しに話している。

「...彼氏と旅行中だったんだってさ。急に任務で呼ばれて、今修羅場みたい」

灰原に控えめな声量で伝えられ納得。普段のらりくらり、ヘラヘラと喋る彼女の話し方は今なく、「だから!」といつにも増して必死な様子だ。

「...すみません、私が一番最初に苗字さんをお迎えに行ったせいで、彼氏さんに勘違いをさせてしまったようで...」

30手前の補助監督さんがこちらを振り返り苦笑を浮かべている。なるほど、浮気相手と間違われたのだろう。この修羅場に巻き込まれた補助監督に哀れみの視線を送る。

「えっ!なんで?!」

話題の渦中の彼女が声を荒げる。頼む、冷静に、落ち着いてくれ曲がりなりにも呪言師だ。新年早々面倒な事は避けたい、いや既に巻き込まれているのだが。

「...だからごめんって...本当、スーツの人は学校の職員さんで...」
「浮気なんてした事ないじゃん...ねぇごめんって...」
「...えっヤダヤダ!別れるなんて言わないで...」
「.......待って!りょーちゃん誤解だって!ちょっ....」

「.....」
「.....」
「.....」
「.....七海、灰原...」

携帯を耳から離した苗字が振り返る。聞こえる話だけでどんな結果になったのか分かってしまった男性陣は何も言葉を発さない。


「秒で祓って秒でお焚き上げ行くよ!!!」

普段の彼女からは想像できない怒りのオーラが見える。お焚き上げ...?とは..



「あってかあけおめことよろじゃーん!」


本当コイツって...




言葉通り瞬殺で呪霊を払った後、一番近くの神社に寄ってもらった名前は鞄の中からアクセサリーや写真やらを取り出して燃やしていた。お焚き上げって思い出燃やす場所だっけ...?
一通りお祓いまでしてもらった名前はスッキリとした顔で、「よーし、じゃあ屋台で爆食いっしょ〜」と俺たちの肩を組んで歩くもんだから七海はもちろん嫌な顔をしていた。

俺ら、お祓いしてもらう意味ある?
まあいい思い出か、とこれ以上何も突っ込まない事にした。



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