高専にも訪れた短い冬休み。
全寮制の高専では帰省する生徒がほとんどで、せめて年越くらいはとの配慮からこの数日だけは滅多に学生には任務は振られない。
例に漏れず帰省中だった七海ら一年ズの元へ、ついに人手不足で申し訳ないがどうしても、と三が日を終えた一月四日に任務に派遣されることが決まったのだった。
その日は補助監督が車で自宅まで迎えに行くので、新学期の荷物をまとめておいてほしいと事前に連絡があった通り、鞄一つに荷物を詰めた七海の目の前に黒い車が停車した。
その車の助手席側後部座席のドアを開ければ、奥には灰原が座っていた。
「明けましておめでとう!七海」
「明けましておめでとうございます、今年もよろしくお願いします」
「よろしく!」
「七海くんも、急で本当にすみません」
運転席から若い補助監督の男性が振り返って謝る。お気になさらず、と返したところで助手席に苗字がいる事に気付いた。彼女は電話している様で七海に気付いた素振りもない。
「苗字、彼氏と旅行中だったんだって。それで急に任務で、今修羅場みたい」
灰原が控えめにコソッと状況を聞き七海は成程と頷く。
普段の「えー」「ヤバー」「ウケるー」等のヘラヘラした喋り方ではなく、いつにも増して真面目なトーンで必死に訴えかけているのが見て取れる。
「すみません、私が最初に苗字さんをお迎えに行ってしまったせいで、苗字さんの恋人に勘違いをさせてしまったようです」
補助監督の男性が困ったように眉尻を下げた。浮気相手にでも間違われたのだろう。七海はこの修羅場に巻き込まれた一番の被害者であろう男性を心底哀れんだ。
「えっ!なんで!?」
渦中の彼女が声を荒げる。雲行きの怪しくなってきた彼女の話に周囲が肝を冷やす。
頼む、冷静に、落ち着いて、呪力は穏やかに。
彼女の一言一句が命取りになるかもしれない、と車内の空気が緊張感を帯びる。新年早々面倒事は避けたい、いや既に巻き込まれているのだが。
「だからごめんって!本当にスーツの人は学校の職員さんなの!あたし浮気なんてした事ないじゃん!」
「だ、大丈夫かな?僕が説明した方がいいかな・・・?」
「灰原が出たらそれこそ火に油ですよ。大人しく見守ってましょう」
灰原は本気で心配して身を乗り出している。
「えっ!?ヤダヤダ!別れるなんて言わないでよ・・・リョウくん誤解だって!ちょっ」
「・・・」
「・・・」
「・・・七海、灰原、」
相手に一方的に通話を切られた様子の苗字が携帯を片手で折り畳みながら振り返る。聞こえた話だけでどんな結末を迎えたのか分かってしまった男性陣は誰も言葉を発さない。
「秒で祓って秒でお焚き上げ行くよ!!!」
普段の彼女からは想像もできない任務への意欲をメラメラと燃やしていた。
お焚き上げ、とは・・・?
「あ、てかあけおめじゃーん!今年もよろー!」
苗字の言葉通り呪霊を瞬殺すると、車で最寄りの神社に寄ってもらった。
苗字は何やら鞄の中から写真やぬいぐるみを取り出して燃やしていた。お焚き上げって思い出燃やす場所だっけ、と灰原が言うので黙って首を振っておいた。
ちゃっかりお祓いまでしてもらった苗字はスッキリとした顔で「やっぱ屋台でしょ〜!お腹空いたー!」とマイペースに二人の先を行く。
というか、普段散々祓っているのに、祓ってもらう必要あるか?とは思っても口に出さない七海だった。