二つの贈り物

「………?」

先程から何かの気配がするのだが、肝心のその姿は見当たらない。徐庶は首を捻りつつも再び机に向かう、すると物音が静かな部屋に響いた。床についた細い女の手だけが目に映る。

「……ええと、もしかしてななしかい?」

「ばれてしまいましたか……。」

ひょっこり顔を覗かせるのはななし、手には可愛らしい包み。

「その、それは…?」

「あ………えっと、これは。」

突然の指摘に一気に頬を染め、声が次第に小さくなる。そんな姿に微笑ましくなる徐庶は筆を置いてななしに近付く。

「誰かに渡すものかな。」

こくんと小さく頷く、そして包みを徐庶の前に差し出した。

「これ……受け取ってくれますか?」

自分にとは思ってなかった徐庶は石のように固まってしまう。そして我に返れば慌てて左右を見渡す。しかし当然ながら周りには誰もいない。

「い、いいのかい?こんな俺だからくれるなんて思ってもいなかったよ…すごく嬉しいな。ありがとう。」

照れくさそうに頭をかく、そしてその包みを貰って中を開けると黒い手袋が入っていた。

「……これは手作りかい?とっても上手だ。」

「いえそんな…!むしろ大した物でなくてごめんなさい。これくらいしか出来なくて……。」

「そんな事ないよ。何かお礼をしないといけないな、何がいいだろう。」

「いいですよ、喜んでくれるだけで私も嬉しいですからお礼はいりませんよ。」

そんな、と残念そうに肩を落とす徐庶。その姿はまるで小動物の様、思わず

「何か、抱きしめたくなります。」

心で思っていた事をつい言葉にしてしまい、しまったと口を押さえた。時すでに遅しだが。

「じゃあ………抱きしめても……あ、いや、えっと違うんだ……何でもない!!」

思わぬ言葉にぽかんとするななし。まさか徐庶の方からそんな事言い出すとは想像すらしていなかった。

「………すまない!」

本当に申し訳なさそうに頭を下げる。何を馬鹿な事を言っているんだと自責する。しかしななしは退くどころかむしろ嬉しそうな顔。

「……お言葉に甘えて、抱きしめても、いいですか。」

え、と言ったと同時にふわりと香る彼女の匂い。あまりの唐突さに目と口を見開く徐庶。一体自分の身に何が起こっている、そんな状況だ。

「え、あ………ななし……!?」

「………気持ちが安らぎます。貴方と一緒にいる時が一番。」

わたわたと手を空中に浮かせどうするべきかと悩む彼、それを知ってか彼女はより力を込めて抱きつく。退くにも退けない状況にようやく決断したのか、恐る恐る手を背中に回す。そして満足そうに顔を埋めた。

「嬉しいような…恥ずかしいような……俺はこんな事しないから、なんと言うか……ああ、言葉にする事が出来ないのがもどかしい。」

「私も初めてですよ、人に抱きつくのも、抱きつかれるのも。」

「………俺なんかで良かったのかい?」

ななしは顔を上げて彼の目をじっと見る。曇りなきその目は彼女の姿をしっかりと映す。

「徐庶さんだからいいんです。贈り物をしたのも、貴方の為ですから。」

ふわりと笑えばつられて彼も笑う。
そうして暫くこの状態で部屋にいるのだった、重要な執務も忘れて。


(お礼すると言うより、二つ貰った気分だよ)