「ねぇ士季、知能が高い人は将来髪が薄くなるんだって。」
「会って開口一番なんだそれは。ああ、日頃私に対して仕返しが出来ない小さい事ながらの渾身の嫌味か。」
どこからそんな根も葉もない噂を聞いたのだろう。ななしは心配そうに鍾会の後ろ頭を覗く。
「だって、ただでさえ癖毛で大変なのに、追い討ちかけてハゲになっちゃったら私悲しいよ。」
「勝手に決め付けるな、そんなの噂に過ぎないだろう。馬鹿げた話、断じて信じぬ。最も、私は選ばれた者だぞ。」
むしろ今後ハゲに選ばれし者では、と呟くその小生意気な口を押え付けた。これ以上喋るものならお前の髪の毛毟りとってやる、と睨み脅す。
当然彼女は冗談で言ってるのだろうが、鍾会にとっては気が気ではない。何の欠陥も無いすらりとした肢体、美しく整った顔、才溢れんばかりの頭脳の三拍子がこの体に備わっているのだから。(あくまで鍾会談)実にたまったものではない。
「分かったよ、でもちゃんと海藻類は食べるんだよ?白髪が出にくくなるらしいから。」
「馬鹿か、今からそんなもの食ってどうする。」
「今から対策しておくの。そうだ、明日から厨房の人達に言っておこうと。士季の分だけ海藻類多めにしてくださいって。」
うんうん、と一人頷くななし。これ以上話していると本当に馬鹿が移りそうだ。手を軽く上げて呆れた素振りをする。
「くだらないね。」
「どうなっても…知らないよ?」
「…そうは言うが、仮の話、本当に仮の話で、今後絶対何があってもそんな事は無いが。
…ハゲた私をどう感じ取る。」
うーんと俯いて考え始めるななし。
どのくらい待っただろうか、いや、単に時間が長く感じただけだろう。ぱっと顔を上げ、
「逆に聞くけど、私に嫌われるとか…思ってたりする…?」
静寂を突き破る勢いで、はぁ?と思わず素っ頓狂な声が出てしまった。
質問を質問で返して答えになっていないは愚か、考えもしなかった。何故そうなる!と、怒鳴る様に叫ぶ。
「だって、貴方は外面を凄く気にしているから。」
「……確かに外面は自分でも怖いくらい完璧だと思ってるよ。しかし生憎だが、皆は内面の要となる才能を見ているのでな。内側にもせいぜい目を通しておけ、そうやって呆けてる暇があるのならな。」
すっと立ち上がって立ち去ろうとする。が、目線だけを下に向けると何を思ってるのか不気味なくらいにっこりと見つめる彼女。
「な、何だ。」
「内面も憎らしいけど大好き。」
「…お前といると調子が狂う。」
「拗ねないで、外面がいくら変わっても私の気持ちは変わらないから。」
そうだといいんですけどね、と興味無さそうに言葉を残して部屋の奥へと消えていった。
(恐らく彼女は嘘をつかないだろうな)