私は今、法正に抱き着いている。彼はその行為に拒む事なく優しく腕を背中に回す。何とも幸せな気分なんだろう、彼は任務で10日ほどここを離れていた故に嬉しい。
「法正、お帰りなさい。」
そうは言うものの、色褪せる映像。
途端に真っ暗になる視界。
「………。」
ああ、夢か、惜しみつつ目をゆっくり開けるがまだ暗い。いや、異様に暗い。まるで何かが視界を遮る様な感覚だ。否、己が何かに抱き着いている。しかしもぞもぞ動くその謎な物体の正体がすぐに分かった。
「法正……さん!!」
驚く事に、昨日までいなかった法正に抱きついているではないか。慌てて身体を起こそうとするが引き止められた。
「俺が帰って来て、部屋を覗いたらこのざまです。どう責任取ってくれますか?」
そう言って彼は満更でもない様子で笑む。ななしは更に動揺し目を白黒させ、必死に謝ろうとするが勿論離してはくれない。
「もしかして寝惚けて……。」
「でしょうね。泣きそうな顔で抱き着くもんですから、離れようにも離れられなくて……。俺がいなくてそんなに寂しかったんですか。」
「その…夢で…法正さんに抱き着いていたんです。」
「夢の、俺ですか?」
はい、と小さく頷けば彼は目を細めた。
てっきり夢の中で会ったのだと思っていたのだが、とんだ勘違いだ。恥ずかしさのあまり法正の胸に顔を埋める。そして何度もごめんなさい、と。
彼は何も言わず頭を撫でる。音沙汰無しの中、ななしはずっと待ち続けていたのだ。存分に甘えればいい、そう言えば細い腕に力がこもった。
「おかえりなさい……今、私は本物の法正さんを抱いているんですよね。夢じゃないんですよね。」
「俺だという証拠、欲しいですか?」
法正はななしに覆いかぶさる様な体勢を取り、互いの息がかかるくらいの距離にまで縮まる。
その吐く息も、僅かに漏れる声も、やはり危険で甘い毒だ。脳が、全身があっという間に痺れる。
「夢では到底味わえない様な快楽を、たっぷりとくれてやる…。」
ななしは嬉しそうに目を閉じ、全てを委ねた。
(一瞬、夢の俺を怨みましたよ)