「………………ぁ。」
向こうから歩いてくる呂布と陳宮、上から下まで見てななしは思わず声を漏らしてしまった。
「どうしましたか、ななし殿。」
「あ、いえ……何でもありませんよ。」
誤魔化すように笑い、その場を去ろうと横をすり抜ける。その時、呂布がななしに聞こえる程度に鼻で笑った。
「ふん、なるほどな。」
彼はそう言ったが、ななしは何も言わず部屋に入ってしまった。周囲に誰もいない事を確認し、そして堪えていた声を大いに吐き出す。
「………呂布様、分かってらっしゃったんですね……!ああ……ごめんなさい陳宮様………。」
身長差があまりにもありすぎて可愛く見えたなど到底言える筈もない。とはいえ、呂布の身長が大きすぎる為に普通の身長である陳宮が小さく見えてしまっているのだろう。
当然、ななしよりかは大きい為二人きりの際は全く気にする事は無い。
「今度お会いした時何か言われそうですね……。」
「ななし殿、ななし殿、少しいいですかな?」
部屋の外から彼の呼ぶ声が聞こえる。休めていた身体を起こして扉を開けると
「…………あれ。」
「おや、なんですかな?」
何か違和感がある、頭から爪先まで一切変わりはないのだが。
「……………ななし殿、それで用件を。」
「え、あ、はい……何でしょうか。」
こほん、と咳払いし、少し照れくさそうにこちらを見つめる。
「その………これから、街に行きたいと思いまして。出来れば貴女と……貴女と一緒に行きたいのですぞ!」
言葉遣いが何処か可笑しい、思わず何度も瞬きをして黙ってしまった。暫く続いた沈黙に耐え切れなくなった陳宮は慌てて両手を振る。
「あ、いや……っ、嫌でしたら断って頂いて構いませぬ!これは私の我儘故……!」
「いえ……!思いもよらぬ用件でしたので……少し驚いただけです。決して嫌ではありませんよ。むしろ行きたい、です。」
「ほ、本当に……本当にいいのですか!とても嬉しいですぞ!」
今にも飛び跳ねそうな勢いで喜ぶ陳宮、その姿はまるで子供の様だ。
「かわいい……。」
しまった、つい本音が漏れてしまった。
「ん、何か言いましたかな?」
「いえいえ、何でもありませんよ。行きましょう。」
しかし彼は聞こえていなかったようで、ほっと一息吐いた。
「わぁ、とても美味しそうな匂い。」
店に並びに出来たての肉まんが並んでいる。風に乗って香りが運ばれ、思わず立ち止まりそうになった。
「食べたいのであれば、この陳宮が貴女の為に買いましょう!」
ばっと身を乗り出して肉まんに指差す。
「あっ……いえ、そんな……!」
「大丈夫、大丈夫ですぞ。何も食べずに出てきたのですから、さぞお腹を空かせている筈。」
そう言って肉まんを買って渡す陳宮。その時にも若干ながら違和感を感じたが、何も触れず礼を述べた。
すると色鮮やかな衣装に身を纏う女性がこちらに向かって歩いてくる。陳宮も目を少しばかり丸くしてかしこまった。
「あら陳宮様、お久しゅうございます。こんな可愛らしい女性と一緒だなんて、何だか珍しいですね。」
「これはこれは、会うのはいつぶりでしょうかな。それとこの方はななし殿、私の…………ゆ、友人ですぞ!」
「あら、それにしては随分と距離が近いような……。と、言いますより、陳宮様……何か身長が……。」
すると突然何を思ってか陳宮は彼女の口元に先程買った肉まんを押し付けた。
「ち、陳宮様!?」
「しっ失礼!!これは大変美味しい肉まんとの事で、是非とも、是非とも貴女にもご賞味して頂きたく!!」
「…………むむ…。」
「ささ、ななし殿!他の店にも行きましょう。沢山買いたくてうずうずしております!」
手を引かれてその場を立ち去る二人、それを見ていた女性は押し付けられた肉まんを手にとって
「別に気にすることないですのに……可愛い方ですね。」
小さく笑みをたたえて二人の後ろ姿を見送った。
「わぁ、綺麗な染物!」
「本当に、本当に綺麗ですな。ななし殿にとても似合いそうですぞ。」
「いえいえ、陳宮様の方が似合っていますよ。」
「こちらも素晴らしい品ですぞ、特にこの簪は飾りが立派で……。」
「わぁ!本当に凄い綺麗です!」
あれから色々な店に立ち寄っては二人で仲睦まじく笑い合い、楽しい時間を存分に過ごした。そうしていつしか午後の光は薄れ、霞む空には鮮やかな茜色が広がっている。
「今日は本当に楽しかったです。誘って下さりありがとうございました。」
「いやはや……私もつい無邪気になり色々と恥ずかしい面を見せてしまい……何と申したらいいのやら…。ですが、ですが、この素晴らしい日を私は死ぬまで忘れませんぞ。」
彼の嬉しそうな微笑みについ心打たれる。それでも、最後にどうしても聞きたいことがあった。
「それで、陳宮様……気になる事を一つ、言ってもいいでしょうか。」
「はい、何でも聞きましょう。」
今一度上から下まで彼の全身を見渡し
「私は全然気にしていませんよ、身長。」
「な、なな……!別に、その様な、事は………っ!!」
「私から見れば全然高い方ですし、呂布様や張遼様が人一倍大きいだけですから……いつもの貴方でいてください。無理して高くならなくても平気ですよ。」
明らかにいつもの靴とは違う、それ故に少しばかり距離が遠く感じてしまうのだ。少ししか変わっていないのに、触れられない気がして。
「確かに気にしていましたが、決して馬鹿にしてる訳じゃないんです……その、こんな事言うのは失礼極まりないのですが……陳宮様が、可愛く見えてしまい……。」
「可愛い……可愛いですと、この私が………!?」
「申し訳ありません……!処罰なら幾らでもお受けしますから!」
頭を深く下げる。しかし、怒る素振りを全く見せず、むしろ眉を下げ口元を緩ませていた。
「最後にまた、お恥ずかしい所見せてしまいましたね……実にその通り、その通りでありまして。ななし殿とすれ違う際に、こればかりを気にしてはどうにか出来ないかと悩んでいたのは事実。
ですが、貴女に言われて漸く自分らしくいようと思いましたぞ。なんというちっぽけな悩みに苛まれたものか!」
ばっと、手を空に掲げて大いに笑みを見せる陳宮。日がだいぶ傾き、その影法師が細く伸びていく。そして咳払い一つするとくるりと後ろを振り返った。
「その……こんな……こんな私でも、まだ慕ってくれますか、な………?」
夕日の所為なのか、彼の頬が熱く朱色に染まっていた。可愛らしさを通り越して思う事は唯一つ、愛おしさ。
「…………!……はい、貴方となら何処までも私はお慕いします。」
勢い良く抱き締めれば、陳宮もそれには大層驚いた様子で慌てふためく。しかし気持ちが伝わったのか、照れくさそうに、それでも愛おしそうに優しく抱き返した。
(そんな貴女が一番可愛らしい)