寝れない夜は

「ああ、眠れない……。」

布団に入って目を閉じても睡眠は一向に迎えに来ない。難しい本を読めど頭が痛くなり、温かい茶を飲めど効果は全く見られなかった。

「昼寝が原因かな……明日は何もないけど、やっぱり眠りたい…。」

ごろごろと身体を仰向けたり俯せたり。動物の数を数えてみたが夜明けまで行きそうな勢いだったので断念。

その気だるい身体を起こして扉を開ける、すると煌々と照らし出す満月が見えついうっとりとしてしまう。そしてある男を思い浮かべた。

「……法正様…起きてるかな。」

そろりと足音を立てずに彼がいる部屋に赴くともう既に明かりは消えていた。様子だけでも見ようと扉を少し開けて覗くと丁度いい角度で彼の表情が見える。
すっかり就寝していて僅かに聞こえる寝息。

「………。」

普段見せること無い寝顔に不思議と胸が高鳴り、傍に行きたいと部屋に入りそうになる。が、何とか堪えた。流石にそこまでするのはまずい、紅を染めた顔を伏せてそのまま扉を閉めようとした。その時、不覚にも音を立ててしまい、彼の寝息がぴったりと止まった。

「………誰だ。」

寝起きの声は普段より低く、怒っている様にも聞こえなく無い。先とは違う意味で心臓が煩い、とんでもない事をしてしまったとつくづく後悔をした。

「ななし………です。」

控えめに名を名乗ると、もそっと起き上がり少々乱れた髪を掻き上げてこちらに視線を向ける。暗い所為か寝起きの所為か、向けられた目が一層鋭く思わず震え上がってしまう。

「ああ……こんな真夜中になんの御用で。」

「起こす…つもりはなかったんです。その、寝れなくて……ごめんなさい。」

「……困ったお人だ、こんな俺と居ても到底寝れるものではないと思いますが。」

くぁ、と欠伸をして目尻に雫を溜める。そしてゆっくりと身体を起こして部屋を灯火で明るくすると軽く手招き。

「昼寝するからいけないんですよ……少しは起きる努力した方がいい。」

「知っていたんですか…!」

「貴女が顔を出さないときは大抵何処かで寝ている時だとこちらで勝手に解釈してますが…。」

恥ずかしい、と手で顔を覆うななし。それを見た法正は喉を鳴らして笑う。

「別に恥ずかしがる必要ないですよ。口を開けて寝ている姿もなかなか良いと思いますが。」

「やだ!私ったら口を開けて寝ているんですか…もう寝れない……。」

ついには後ろを向いて真っ赤な顔を必死に隠す。

「なんかもう……もっと目が冴えてしまった気がします。」

「そうですね……なら疲れた方が早く眠れますよ。」

先程より声がやけに近く、すぐ背後に彼がいる。そうと分かったと同時に手首を掴まれて一気に組み敷かれる。あまりの事に驚き目を見張ると、彼ははだけた服装で色っぽく舌なめずりをした。

「意味、分かりますか。」

「法正……様?」

名を呼べば首辺りに痛みが走り、顔を少しだけ歪ませる。押し付けた唇が離されるとその部分に紅い華が咲く。

「孝直。」

「え……。」

「夫婦となってまだ日が浅いが、それは頂けない……字で呼べ、様は付けなくていい。」

孝直、と恐る恐る言われた通りに呼べば納得して笑む。そして法正はそのまま衣服を剥ぎ取ろうと服に手を掛けた。

「あっ…何を…!?」

「言った筈だ、貴女をたっぷり疲れさせて眠らせると……。」

「わっ、私、初めてですよ…!それに、法せ……孝直、も私とそんな事をまだ望んではいない筈……。」

しかしその手は止まらず、一つ一つ身ぐるみを剥がされていく。身を捩らせて抵抗してみるが全く効果はない。

「初めてなら尚早く欲しいものなんですよ……貴女を愛するが故に。」

その言葉に嬉しくなったり恥ずかしくなったり。目を逸らせば間近に迫る彼の顔。

「本当に嫌なら全力で拒んでください……。」

目を細め切なげに向けられる視線、しかし嫌なんて微塵とも思ってもいない。ななしは逸らした目を真っ直ぐ見据え

「………疲れて眠るまで…愛してください。」

そう言って微笑めば彼は満足そうに彼女のふっくらとした唇に口付けを施した。



(これからは俺の部屋で寝てください)

(それですと朝まで寝れません…!)