愛在る嫉妬

ああ、俺は嫉妬している。

「ほら、今日は綺麗な星が沢山空に散らばっているわ。」

そうやって指を空に向けて笑うななしと俺ではない者。無性に心がもやもやして仕方無い、しかし彼を強引に引き離せばきっと彼女は大いに呆れるに違いない。
不服故に眉間に皺を作るが、その拳を収めて少しばかり離れた場所から二人の後ろ姿を見つめる。

「ある星を目印にすると道に迷う事ないんだって。凄いよね、私なんかじゃ見つけられない。」

「そうなの?」

「ええ、だから凄いよね、人の想像力って。」

そして互いの冷たくなった手を取り合って微笑む。ここまで俺は嫉妬深かったとは、恐らく生涯においてもその者には勝てないのかもしれない。
いや、それが当然か。彼女はそれまでにその男を深く愛しているのだから。



それでもずっと見ているだけが法正の性分ではない。暗闇からゆっくり姿を表して、その者の隣へ座り込めば男は丸くした瞳をこちらに向ける。

「随分と楽しそうだな。」

「……!…ふふ、孝直様…ずっと後ろにいらしたんですか。」

音もなく現れた事に驚いた顔をするが、すぐに笑みを浮かべる。

そして男は俺に笑いかければ、ななしに似ている無垢な瞳が若干ながら俺の心を惑わせる。

「ずっと、ではないですが……まぁそれなりに。」

「父上も星を見に来たんですか?」

そうだ、と頭を撫でたこの少年は法正とななしの子。
嫉妬の目を向けていたのは己の子に対して、そんな事は口が裂けても二人に言えるものではない。

「わあ!あの星は他のよりすっごく光ってます!」

「あまりはしゃぎ過ぎて転ぶなよ。」

立ち上がって嬉々と庭の方へとかけて行く少年。その空いた空間を埋めるように法正は詰めれば彼女は微笑んで

「………何となく分かります。」

と、今度は冷えた彼の手を優しく取る。

「……ああ、なんの事でしょう。」

景色を見据えて何事も無かった様にしても、何処か落ち着かない雰囲気なのは確かだ。
昔はこんな性格ではなかったのだが、こうなってしまったのは何時からだろう。ななしを好いた時から、父になった時から、それ位しか見つからない。

「究極…どちらか一人を選べと、もし言われても私は選べません。」

「迷わず子を選ぶべきでは?」

「いえ、私はきっと選べない……。それ程に、貴方を愛してしまっているから。
…困った母ですよね。」

嬉しい様な、しかしそれは実に複雑な感情だ。

「本当に、困ったお人だ。」

それでも抱かずにはいられなかった。その腕で彼女の身体を包めば、頬を赤く染めて幸福に満ちた表情を浮かべる。

「ですが…貴女の読み通り、先まで自分の子に嫉妬していましたよ。全く、俺らしくもない。
子をどれだけ大切に思っても、なかなかどうして……。」

「孝直様……。」

口が裂けても言えない事だったが最早どうでもよかった。しかしななしは呆れることなく、むしろ表情を緩めて腕に力がこもる。

「それはそれで、嬉しいです。」

子供と同じ位純粋な瞳に吸い込まれそうだ、だが法正の何もかも見透かしている。

「困った奴、だ。」

今度は自分に言い聞かせるように呟き、少年と同じ様に星が瞬く空を見仰いだ。


(父上と母上は仲がいいですね!)

(ああ…お前が思ってるよりずっと、な)