慕う故に不安心

「………………。」

「あの……何でそんなに怒っているのか、理由を聞きたいんですが。」

賈充はこれ程かという位に頗る機嫌が悪い。原因はななしにあるみたいなのだが当の本人に思い当たる節が何一つなく、ただ首をひねる事しか出来ないのだ。それを見て眉間に影を落とす賈充、わざとらしく睨みを利かせるとそのまま立ち去ってしまった。

「………明日クリスマスなのに………理由が分からないと一緒に行けないのかな。」

小包を入れた冷蔵庫に目を向けながらななしは小さく溜息をついた。兎に角自分に原因があるのであればそれを早急に見つけなければ、喧嘩したままその日を見送ってしまうのは恋人としてあまりにも悲しい。

「とは言っても……どう見つければいいんだろう。こっそり食べちゃったお菓子もないし、隠れて悪戯した訳でもないし。賈充さんって、何考えているのかいまいち分からない人だから……尚更悩むよ。」

頭を抱えて悩ませていると電話のメロディが規則的に鳴り響く。ディスプレイには元姫と映っており、すかさず応答するといつもの声色トーンで彼女が出た。

「もしもし、元姫?」

『ななし、クリスマスの件……ちゃんとあの人に言えた?』

「あの……それがね……。」

先までの出来事を話すと、元姫は暫し悩んだ様子で推測を始める。二人の関係を見守り続けた彼女なら何か分かるかもしれない、淡い期待を胸に抱きながら待っていると再び話を切り出すが、その声は先程よりも若干ながら低い。

『ねぇ、ここ最近誰か……男の人と出掛けたりした?』

「男の……人。えっと、男友達なら昨日プレゼント選びを手伝ってあげたけど……。」

『それよ、彼が怒っている理由。』

「………もしかして、嫉妬でございますか。」

『そのもしかして、ね。ななしはあの男の性格を誰よりも知っているでしょう。だから他の男と並ぶだけでも相当気に食わないと感じているわ、きっと。』

「待って……それは賈充が終始私の行動を見ていたって事では……。」

『その場に居合わせたのは偶然かもね、じゃないとそこまで執着していたらそれはそれで危ないわよ。』

そうですよね、嫉妬に狂った賈充を前にしたらななしもその男も生きている保証はない。背筋を震わせながら自分の身体を丸めた。

『兎に角、急いで誤解を解かないと折角用意したプレゼントが台無しよ。きっと話せば許してもらえる……信じて。
それと…感情を見せない賈充が唯一示す事、それは大切だと思う貴女の事だけだから。』

「元姫………ありがとう、話してみるね。」

携帯の電源を切り、大きく息を吐く。好きだからこそ誰にも渡したくない気持ちになるのはななしにも分かる。もし賈充が他の女性と仲良く話して歩いていたら、それを想像するだけでこんなにも胸が苦しくなってしまうのだから、今の賈充も正しくその気持ちなのだろう。
自分の行動が善意とはいえ軽率だった。良かれと思ってやった事が逆に好きな人を苦しめる要因だったなんて、ななしは既に変わった日付を目にしながら朝を待った。







「賈充さん、お話、聞いてくれませんか。」

先日の出来事の所為で全く寝付けず、目の下に薄っすらと隈が出来ているが然程気にしない。それよりも今は考えていた思いをぶつけたいのだ、例え許されなくとも。
彼の家に直接向かい、インターホン越しに会話をする。すると何も言わずにロビーのドアを開けるので、入って来いという風に捉えて一歩足を踏み入れた。

そこに着くと既に鍵が開いており、U字ロックでドアが支えられて開けっ放しになっている。恐る恐る顔を覗かせてみるが、先が暗くて様子が伺えない。ご丁寧にインターホンを鳴らそうかとも考えたが、おそらくこれもそのまま入って来いという意味なのだろう。何も言わずにドアノブに手を掛けて扉を開くと、突然闇からするりと手が伸びてきて強く引っ張られる。

「やっ……誰!?」

「俺以外の誰がいる。」

咄嗟に目を閉じてじたばたと抵抗すると聞き慣れた声が鼓膜に響き、その声が賈充と分かると上昇した心拍数も落ち着きを取り戻し荒げた息も整ってくる。

「やっぱり……まだ怒っていますか。」

「理由が分かったのなら聞こう。」

ギラリと光る鋭い目付きは獲物を逃さまいと怯ませる。それでもはっきり言わなければ。

「その…………私の行動が軽率でした。」

「ほう、主にどういう行動を指しているのだ。」

「………男の人と、一緒にいた事、ですよね。ごめんなさい、プレゼント選びのお手伝いしていました。」

賈充はすっと目を細めては刹那、考えた表情を見せる。が、小さく首を横に振った。

「くく………それも確かにある、が少し足りぬ。」

「………それも?」

ああ、と加える賈充。

「お前は誰にでも優しすぎる、故に利用されやすい。……それが何より許せない事だ。一昨日の贈り物を付き合ったと言ったが、それだけではないのだろう?」

「……………。」

お金を貸した事がすぐに頭を過った。高いプレゼントを彼女にしてあげたいと頭を下げて懇願されたので、仕方なくその場で半分以上の金額を払ったのを覚えている。

「知らぬのなら教えてやる。あの男、女に貢いでいるぞ。その払った金もその馬鹿な女の為だ、実に愚かな話だな……俺の女を利用していい思いをしようなんぞ。くく……だから脅してやった、これ以上ななしの傍にいるのであれば殺す、と。」

口は笑っているが目が笑っていない。恐怖故に身体を異常な程に硬直させていると腰の方に腕が回りゆっくり抱き寄せられる。

「何、単なる言葉だけの脅し、本気でやる訳無いだろう。ただ許せなかったのだ、他の男といる事も、利用されている事も。それもななし、お前をそれだけ愛しているからだ。」

薄く細められた目は不思議と怖いとは思えず、すっかりその姿に目を奪われていると同時に無防備な唇も奪われる。噛み付くような乱暴さと溶かすような甘さを混ぜ合わせた濃厚なキスはあっという間にななしの心を捕らえて離そうとはしなかった。

「あっ………賈、充………!」

「公閭だ、そう呼べ………。」

「……こ、公閭、さ……っ!」

寒い玄関で交わされる口付けは繰り返し熱を生み出して凍える事はない。角度を変えながら首へ鎖骨へと降りて行き、紅い花を咲かせながら一枚ずつ服を脱がした。曝される肌に舌を這わせてはゆっくりと口を弧に描いてくつりと喉を鳴らす。

「そうだ、その優しさの使い方を誤るな………俺と違ってお前は壊れてしまいそうな程に純粋なのだから。」

賈充のその言葉に頷きながらななしは静かに目を閉じてその身を委ねた。












「…………これがプレゼントか。」

「…………そうですけど、もう原型が跡形もないですね。」

行為が長引いた所為で苦労して作ったケーキはあまりにも酷い状態になっていた。サンタが白い液に埋まってもはや災害状態だ、ななしは切なげにそれを眺めていると賈充がフォークでクリームを一掬いして口へと運ぶ。

「…………甘さは控えたようだな。」

「だって賈充さん、断然ビター派じゃないですか。結構苦労したんですよ……!甘さの調節だってそれなりに……んっ!?」

熱弁していると塞がれる唇、口内に舌が侵入してくると同時に流れ込んで来る彼の食べたであろうクリーム。驚きのあまり目を開かせるが、そんなのお構いなしに賈充は息を切らすまで深いキスを続けた。舌で器用に液を絡み合わせては喉に流し、そんな甘い口付けに翻弄され続ける事数分、酸素が限界を達して漸く解放される。

「…………っは……!キスで殺す気ですか……!」

「くく……お前にも味わってもらおうと思ってだな。」

「ですから!普通に食べさせて下さい!」

結局この日は何処に行く事も叶わなかったが、誤解が溶けて無事に拗れた関係を戻す事が出来ただけでも十分嬉しい。そうして雪降る外を窓越しに眺めながら残ったケーキを二人で食べたのだった。




(さて、俺からのプレゼントもやろう、踊り狂ってしまいそうな程の贈り物を、な)

(ちょっと……何で押し倒しているんですか、あれだけやっておいてまだ……ひぃ!)