「凄く大きなクリスマスツリー……。」
ここは陳宮の家、彼が盛大にパーティを開くという事で呂布や張遼、貂蝉といった有能な会社仲間も集まっている。ななしもその内の一人なのだが、何処か浮いてしまうのは気のせいだろうか。
「これはこれはななしさん、来て下さり心より感謝致しますぞ。今日は存分に楽しんで下され!」
主催者である陳宮は頭に真っ赤なサンタの帽子を被っていて、これが意外にも良く似合っている。隣で料理に手を出している呂布が大きい所為で小さく可愛らしいサンタさんだ。
「おい陳宮、肉が足りん。」
「なんと、さっき用意したのにもう無くなっているのですか!と言いますより呂布殿、少し、少し食べ過ぎではありませんか!」
「ぐだぐだ言ってないでさっさと持ってこい!」
陳宮は渋々ながら手を叩くと、別室から新しい料理が続々と運ばれてくる。目の前を通り過ぎる度に美味しそうな匂いを漂わせ、思わず唾の量が増してしまう。
「っと、失敬。ななしさんも心ゆくまで食べて下され!」
彼はそう言ってその場を後にする。残されたななしは言われるがまま皿を手に取って盛りつけた。
「ほう、ななし、お前も結構食い意地があるな。」
「えっ………いえ、お腹空けてきたので…その所為ですよ。」
呂布に話し掛けられるとは思わず、見下ろす姿に何か威圧感を覚える。別に嫌な訳では無い、むしろ勇ましく仕事はきちんと熟しているので尊敬する方なのだ。ただ機嫌を損ねたら何か恐ろしい事が起きそうなので苦手なだけなのだ。
「しかし陳宮の奴……何を思ってこんな企画を実行したのだ、全く以って意図が読めん。」
「言われてみればそうかも……彼自らこういった行事をしようとはしない人ですからね。珍しいといえば珍しいです。」
肉を貪りながら怪訝そうに眉を顰める呂布の隣でななしも同じ物を一口。彼の言う通り、何か理由があってこのパーティを開いたとしか考えられない。とすると、誰かにサプライズがあったりするのだろうか。
「ななしさん、宜しければこちらも食べてみませんか?」
「ありがとうございます貂蝉さん。」
淡いピンクのドレスは彼女に良く似合っており、女である自分ですら魅入られてしまう程に美しい。隣の呂布も案の定食べる手を止めては言葉を失っている。本当に分かりやすい人だ。
「あ、飲み物貰おうかな……二人もどうぞごゆっくり。」
その気持ちを察してななしは陳宮のいる所まで足を運び、さり気なく隣にまで近付いてみる。すると驚いた目でこちらをみては軽く咳払い。
「ど、どうされましたかな、ななしさん。」
「この料理凄く美味しいです、思わずおかわりしてしまいました。」
「それはそれは!パーティを開いた甲斐がありましたな!………ですが、お楽しみはこれから、これからですぞ。」
そう言っては何かを企んでいる様に目を細めて悪戯に笑う彼、一体他に何が起こると言うのだろうか。疑問に首を傾げていると陳宮は頭を下げて再び何処かへ行ってしまった。
「やっぱりサプライズか何かやるのかな……。」
兎に角今は待つしかないだろう、と料理を堪能しながらその時を待った。
ぱんぱんっ、と二拍手を叩く音が会場に響く。その音の方へ目を向けると、陳宮が大きな箱を携えて立っていた。
「さぁさぁ皆様、クリスマスパーティはまだまだこれから……本当のお楽しみはこれからですぞ!」
手を広げて高らかに叫んではクルリとその場を1回転、一体何をするのだろうか。
「おい、一体何をするつもりだ。」
皆が思っているであろう気持ちを早速呂布が口にした。陳宮は嬉しそうに鼻を鳴らして
「今から始めますは……爆弾、爆弾ゲーム!」
「爆弾………?」
「爆弾ゲームはまず皆さんが一つの輪になります。こちらで音楽を流している間に爆弾を隣へと渡していき、鳴り止んだ所で持っていた人が罰ゲームを受けるというルールですぞ。必ず右の人に回す事、渡す速度はお好きで構いません、ただし投げたりぶつけたりしないで頂きたい。」
それは呂布に向けて言ってるのだろうか、何となくだが分かる気がして口元が自然と緩んでしまう。
「ほう……いいだろう、ギリギリで渡してやろう。」
「あはは……さすが呂布さん。」
うん、だと思った。縛りをも軽々超えてしまうのが彼のやり方だ。
「さぁさ皆さん、輪になって!」
言われるがまま輪の中に入れば、右は呂布、左は張遼という何とも大きな方々に囲まれてしまった。
「こういうゲームはやらぬ故、少しばかり緊張するな。」
「確かにそうですね、こういった集まりはなかなかありませんし、何だか子供の気持ちに返る気分です。」
「ふん、ゲームとはいえ手加減はせん。」
「さすが、子供のゲームでも鬼神ですか……。」
両隣と離していると、ふと遠くにいる陳宮からのさり気ない視線。何処か困惑した様な顔付きで、しかしこちらの視線に気付くと軽く咳払いをして音楽の準備をし始める。
「では流しますぞ!用意………はじめ!」
有名なクリスマスソングが流れれば爆弾もまた右へと流れていく。自分の番が近付く度に変に緊張が走り、そうして自分の所まで回ってくると慌てて右へと回した。
「ここで止めてやる。」
「呂布さん、まだ始まったばかりですよ。せめて一周は回しましょう。」
「……………………ぬう。」
渋々その爆弾が回れば隣の女性は安堵した顔で隣へと手渡した。そうして一周すると再びやって来る爆弾と緊張、たかがゲームなのだがやはり何処か楽しい。
しかしどうしても引っ掛かるのが先程の陳宮の見せた表情、あれは一体どういう意味を示していたのだろうか。一瞬だけ見せた切なげな顔を思い出す度に胸がチクリと刺さるのは何故だろうか。
「そこまで!!」
「…………………あ。」
しまった、考え事に気を取られて爆弾を渡す事をすっかり忘れていた。ななしは手に持つ爆弾をしっかりと握りながら目を泳がせる。
「これはこれはななしさんが爆弾を持っていましたか。では罰ゲーム、罰ゲームを受けていただきましょう!」
陳宮が歩み寄ると手を差し出す。
「私と、私と一曲踊っていただけませんか。」
「…………え、あ…………はい?」
いきなりの誘いについ語尾が上がってしまうが、陳宮は嬉しそうな笑みを浮かべてはななしの手を取りそのまま真ん中に立つ。
「ではでは、お願いしますぞ!」
その掛け声に応じて音楽が流れ出せば、ななしも良く知った曲でつい気持ちが高まってしまった。すると陳宮が腰に手を当てて動き出し、ななしも慌ててそれに合わせていく。
「さすが、お見事です。」
「い、いえ………。」
周りの人も歌に合わせて自然と身体が動いては自由に動き出す。それを見て陳宮は
「ななしさん。」
「あ、はい……。」
「私とこれからも……これからも共にいてはくださらぬか……。」
まさかの告白にななしはその場で立ち止まってしまう。陳宮もまた動きを止めて、周りの人達と音楽のみ時が流れていった。
「……………罰ゲーム、ではありませんぞ。これはれっきとした告白で………その、貴女さえよければ……。」
「…………それは、お付き合い………。」
「嫌なら断って下さって構いませんぞ!これは私の勝手な我儘故………。」
こんなに必死な彼を見たのは初めてかもしれない。本気で思ってくれている、だからこそ先程の理由が漸く分かった。彼は私を本気で好いてくれているのだと。
きっと自分でも知らずに彼の事を思っていたのだろう、だからこそ胸の痛む理由がはっきりする。
「私なんかでいいんですか……頼りない部下ですよ……?」
「いえ、貴女のような何事にも一生懸命で誰にでも優しい人柄に惚れたのです。ずっと、ずっと頼れる部下ですとも!」
「嬉しいです………こんな私で良ければ、これからも宜しくお願いします。」
満面の笑みを見せれば陳宮は胸を打ったように目を見張り、そして何も言わず唐突にななしの身体を強く抱き締めた。当然周りもそれに気付いては誰もがその光景に目を丸くした。
「陳宮さん!?」
「嬉しい、嬉しいですぞ……!こんな素晴らしいクリスマスになるとは……!」
震える振動がしっかりと伝わり本当に喜んでくれているのは分かったが、周りの視線があまりにもこちらに釘付けになっていて、身動き出来ぬななしの緊張度がついに限界突破したのだった。
(実を、実を言えば……音楽はななしさんの時に止めるつもりでした)
(確かに呂布さんに罰ゲームはマズイですよね)