懐かしい待ち合わせ

「…………………。」

鍾会が見るは雑誌に載っているクリスマスでの恋人との過ごし方。今日は正にそのクリスマスであり、彼女に何すればいいのか頭を悩ませていた。
パラパラ適当に頁を捲ると彼女が喜ぶプレゼントランキングが目に入り、一位は王道であるアクセサリー。

「………ふん。」

何か良いプレゼントはないだろうか。椅子を回転させて脚を組み、暫し悩む事数分、鍾会は何か思い立った様に立ち上がってはそそくさ部屋を出た。
向かうは有名ブランドの店が並ぶ街、何処を見てもきらびやかな代物ばかりで鍾会は何処か嬉しく感じていた。ここならばどれを選んでもななしが喜ぶものばかりであろう。

「ほう、ジュエリーか。」

適当な店内に入ると一際目を引いたのは輝く銀色のジュエリー、値段もそれに見合った物で鍾会は迷う事なくそれを店員に頼んだ。

「これを贈れば完璧だな。」

そう思っていた矢先、携帯のメロディーが鞄から鳴り響く。ディスプレイを見れば丁度ななしからの電話で、すかさず応答ボタンを押せば明るい声が聞こえてきた。

「鍾会さん、今日会えませんか?」

「なんだ、私に何か用なのか。」

分かっていながらも敢えて問いただす、するとななしは電話越しでも分かるくらいに声を弾ませた。

「まさか今日何の日か分からないんですか!クリスマスですよクリスマス。」

「そ、そんなの英才を受けているのだから知っているに決まっているだろう!この私を何だと思っているんだ、全くこれだから……。」

「もう、英才を受けていようがいまいがそれ位誰でも知ってますよ!」

目線を下に落とせば必然と目に入るジュエリーの入った白い袋。馬鹿にされたことを無性に苛立って思わず返品したい気持ちになってしまったが、それは流石に大人げないだろう。このまま怒れば彼女の思う壺だ、冷静にならなければ。

「まぁいい、会ってやらんこともない。」

「良かった、じゃあ14時に時計台で待ち合わせしましょう!」

「ああ、構わん。………が、時計台は一体何処の……。」

質問する前に電話は切れており、ツーツーと耳元で虚しく鳴り響く。

「あの馬鹿…………肝心な場所が分からないだろう!」

携帯に向かって怒鳴った所でどうにもならない。考えられる時計台といえば通勤で良く通る公園にある時計台、もしくは駅の近くに人が待ち合わせとして使われる時計台。

「駄目だ、どれも該当する。」

もう一度電話しよう、そう思い指を滑らせてコールをするが本人は全く応答しなかった。何度掛けても出ないので、仕方なく14時までにあらゆる時計台に行くことに。

「違う……ここも違う……というより、この街は少し時計台が多過ぎじゃないのか。対して気にしていなかったが、いちいち腹が立つ。」

足早に目で追いそれらしき人物を探してみるが、やはり彼女の姿は見当たらない。途方に暮れている所、時計を見ればもうすぐ14時に針が回りそうだ。


間に合わん、若干諦めかけていると彼女とのある出来事が頭を過った。時計台、その言葉には二人にとって過去に深く関わる場所。

「……………………。」

そうか、思い出した。ここなら必ず彼女はいる。










「……………はぁ、はぁ……………見つけたぞ、ななし。」

「鍾会さん………良く分かりましたね!」

この場所についた頃には14時はとうに過ぎていた。それもそうだ、いつも我々が住んでいる街の時計台ではなかったのだ。もっと遠くに離れた懐かしい場所であり、この街の匂いは幼い頃を思い出させるような切なさ。
鍾会は息を整えて背筋をうんと伸ばした。

「全く、思い出さなければ一生此処には辿り着かん。そもそも言わなかったのはわざとか。」

「分かってくれるかな………と思いまして。でも嬉しいです、覚えていてくれて。」

「ふん、当然だ。選ばれしこの私が知らぬ事などないのだから、な。」

己の右手を見れば走った所為か少しだけ傷んだ白い袋、もっと丁寧に扱えば良かったと後悔するがこの状況では仕方ないし中身が壊れてなければさして問題ない。伏せた目を戻しななしに向けてそれを差し出せば、目を丸くしてそれを見つめる。

「ほら、喜べ。わざわざ店に出向いて買ってやったのだぞ?」

「…………!ありがとうございます!」

中身を見れば彼女は先程よりも目を大きくして驚きの色を見せた。

「これ……凄い高かったでしょう……いいんですか、貰って。」

「まぁ、それなりの値はしたが……………お前の事を思えば、全く大した事、ない……。ああ、恥ずかしい事を言わせるな…!」

鍾会は自分でも分かるくらいに紅潮し、耳までしっかりと色付いている。そんな姿を見たななしは笑ったと同時に一粒の涙を地面に落とした。

「なっ、嫌だったのか!」

「違います……!嬉しいんですよ、嬉しくて…………私。」

言葉を発すれば発する程涙もそれに比例して零れていく。彼は慌ててハンカチを取り出して彼女の頬を流れる涙を拭いとった。

「私は…泣かれるのが一番困るんだ……、だから泣くな。」

「ごめんなさ…………っ。」

泣きじゃくるななしの身体はあっという間に鍾会に抱きとめられ、腕をしっかりと背中に回される。思いもよらぬ行動に彼女の涙は引っ込んでしまい、今度は沸騰する程に顔を真っ赤にした。

「…昔も…この時計台の前で抱いてくれましたよね……覚えてますか。」

「ああ、自分からしておいて忘れる訳が無いだろう。」

学生時代、ななしに思いを告げる為に此処に呼んで告白した記憶が鮮明に蘇る。あの時は今よりも少し不器用で、自分でも聞いていてもどかしくなる様な告白だった。彼女も好いていたから良かったものの、逆だったら大いに恥をかいていたに違いない。

ななしの表情は伺えないが、今はもう泣いていないだろう。



「…………メリークリスマス。」

「ああ、メリークリスマス。」

離れると同時に重ねられる唇、目を閉じていても分かるのは降り始めた柔らかい雪の冷たさだった。




(来年もこの時計台で会いましょうね)

(今度は時間通りに来てやろう)