「………はぁ。」
徐庶は誰もいない部屋で盛大に溜息をついた。日頃から俺は彼女に何もしてあげられてない、どちらかといえば甘えてばかりでつくづく自分でも不甲斐ないと感じる。だからこそクリスマスくらいは彼女を喜ばせてあげたい、だがしかし一体何をすれば満足してくれるだろうか。
「そんな時こそ、法正さんに相談してみよう。」
彼の電話番号を探してコールボタン、プププという呼び出し音を何も考えずに聞いているともしもし、と低い声が聞こえてきた。
「あ、どうも、俺です。」
『こんな忙しい日に何の用ですか。』
「えっと、仕事中でしたか……すみません、聞きたい事がありまして。」
『何となく想像がつくのは気のせいか。お前、今日の事どうすればいいとか聞いてくるんじゃないだろうな。』
図星、言葉を詰まらせれば法正の疲れ切った溜息がこちらまで伝わってきた。
『…………やはりな、だがお前みたいな日頃から気が利かない奴が随分と珍しいな。』
「だからこそです、この日くらいは……。」
『…………いっそサンタの格好でもしたらどうだ、雰囲気が出て良いじゃないか?』
「サ、サンタですか……?ええと、衣装は何処で揃えたら……。」
『んなもん自分で探せ、俺はそこまで暇じゃない。』
「はい………そうですよね、俺みたいな奴に構ってる暇なんて……。」
『ああ、今日だけはその性格をどうにかしろ、聞いているとこっちまで仕事の意欲が減ってくる。』
「あ……っ、すみません、お忙しいのにわざわざありがとうございました。」
失礼します、と携帯の電源を切ろうとすると法正が待てと制止をかけた。
『いい加減吹っ切れろ、言わないといつまで経っても彼女には伝わらん。』
「…………ありがとうございます。」
今度こそ電源を切ると伏せていた目を上げ
「………やるしかないか。」
徐庶はぎゅっと拳を握るとコートを着て外に出た。
「…………凄いな、今はこんな衣装まであるのか。」
典型的なサンタの衣装だけでなく、トナカイやツリーといった変わった物まで勢揃いで思わず独り言を漏らす。他のも魅力的だったが、やはりここはサンタでなくては。
「これで彼女の家に行くのは……。」
事前に行く事くらいは伝えておこう、おそらく家に居る筈だ。再び電話を手に取り、コールを鳴らす。
『もしもし?』
「あ、……ななし、俺だけど。」
『徐庶さん、どうかしましたか?』
「いや……その、もしダメでなければ、今日君の家に行ってもいいかな………。」
『来てくれるんですか!良かった……一人ぼっちのクリスマスになるかと思いました。』
「す、すまない……!もっと早くに伝えていれば……。」
『いいですよ、暖かい料理用意してお待ちしてますね。』
電話越しに伝わるななしの喜びの声、暗い気持ちが晴れてあっという間に嬉しい気分になった。不安になっていた徐庶も安堵してほっと胸を撫で下ろす。
「嬉しいよ……楽しみにしている。」
それじゃ、と電源を切れば自然と綻ばせる口元。こうしていられない、急いでプレゼントを用意して着替えなければ。
空を見れば灰色の雲が立ち込めて今にも雪が降りそうな天候だ、時刻は大体夕暮れを過ぎて夜も近い。ななしの家に着けば煌々と灯りがついていてカーテンの隙間から光が漏れている。インターホンを鳴らして暫し待てば、彼女が駆けてくる音。
「いらっしゃい、徐庶さ…ん?」
「や、やぁ……メリークリスマス。」
ななしは目の前の彼に目をぱちくりさせ、数秒だけ静止した。驚かないわけがない、普段の徐庶の姿が何処にも見当たらない代わりに真っ赤なサンタの衣装。
「……………似合わないかい?」
「え、ううん………!むしろすごく、可愛い……!」
可愛いという感想は予想外だったが、彼女は満面の笑みで迎え入れた。リビングに行けばクリスマスの雰囲気を一層醸し出す飾りが施され、ミニサイズのツリーがキラキラと光っている。食卓はそれに合った料理がずらりと並び、香ばしい匂いをさせていた。
「美味しそうだ……!こんなに作ってくれたのかい?」
「はい、間に合う様に頑張って作りました。味の保証は……出来ませんけどね。」
「いや、君の料理は大好きだ。だから、絶対に美味しいだろうな。………と、そうだ……これを。」
小さな箱を取り出してそっと差し出す。
「いつも頼りない俺だけど……これからも、その……一緒にいてほしい。サンタからの、プレゼント……だ。」
「……………徐庶……さん………。」
中身はシンプルながらも輝く指輪、ななしは驚きのあまり言葉を失いただ呆然と眺めているしかなかった。それが良か否か、次の言葉が出るまでは徐庶の不安は拭い切れない。
「……………受け取っても、いいんですか。」
「君がいいのであれば……どうか、受け取ってくれ。」
ななしの細い指が箱に触れて浮けば手の平の重みがなくなる。指輪を手に取り薬指にはめると、彼女は今までに無いほどに穏やかで満ち足りた笑顔を向けた。
「ふふ、今日はサプライズばっかりですね………。」
「色々いきなりな事ばかりでごめん、でもどうしても伝えたかったんだ。……こういったイベントに頼ってしまう俺って結構卑怯……かな。」
「そんなこと無いです、いつも元気貰ってますよ。徐庶さんがいるから毎日頑張れるんです。」
彼女の温かい手が徐庶の冷えた手に触れて緩やかに体温が混ざり合う。そして互いの顔が近付いて触れるだけの甘いキス。
「心から愛している……ななし、これからもずっと側にいてくれ。」
「私も愛しています………。」
澄み切った瞳が潤むのを見て、その時徐庶の中で何かが音を立てて切れた。両手首を優しく掴んでそのまま床へと押し倒すと、彼女は突然の行動に成す術もなく大きく目を見張った。
「…………我慢が、出来ない。」
恥ずかしいがこれが本音だ。複雑な表情でななしと見つめ合うが、それでも彼女は怒る訳でも嫌がる訳でもなく、理解したように静かな笑みを崩さなかった。
「なら私からのプレゼントも……受け取ってくれますか。」
「………それ、は。」
両手を伸ばして徐庶の両頬を包みそのまま引き寄せて唇を重ねれば、想定外の行動に今度は徐庶が狼狽える番である。それでも突き上げるような喜びで胸を貫かれ、今にも泣いてしまいそうだった。
「ああ、勿論………欲しいよ、欲しい。君が何よりも一番愛おしくて堪らなく欲しいんだ……。」
その口付けに応えるように深く絡め合わせてはその愛を確かめ合い、彼女の纏う服を外してしまえばそこからは秘密の時間。
「愛している………。」
幾度も紡がれるそんな愛の言葉、それでも足りない程に身体は熱に冒されて二人は朝まで抱き合ったのだった。
(料理………本当にすまない……!)
(大丈夫ですよ、また温めなおせば食べれますから)