『あの……法正さん、今日のお昼頃に手伝って欲しい事があるんですが。』
どうしても手伝って欲しい事があると俺を庭に呼び出した。退屈な執務をさっさと終わらせて会いに行けば、彼女は手ぶらで池を眺めていた。池には優雅に泳いでいる魚に真上に昇った太陽がゆらゆらと映っている。
「どうも。」
声に気付いた彼女は長い髪を耳にかけてこちらを見た。何処か嬉しそうな、しかし落ち着きが無いような。
「法正さん、来て下さりありがとうございます。」
「それで、用とはなんですか。」
その用が多かれ少なかれ、恩はしっかりと頂こう。そう考えているとすくっと立ち上がって畏まり、真っ向から見つめる彼女。長い睫毛を揺らして息を大きく吸った。
「大事な話なんです。一度しか言いませんから聞き逃さないで下さいね。」
普段穏やかな彼女にしては珍しく凛々しい瞳で、何故か逸らす事が出来ずにじっと見つめていれば
「私と夫婦になって下さい。」
「………………………は。」
予想外な台詞に思わず間抜けな声が漏れてしまった。夫婦になって下さい、だと?
「告げる人間違っていませんか。」
「いいえ、正真正銘全てに報いる劇薬悪党軍師法考直に求婚を申し上げました。」
「普段から鈍感ふんわり男知らずお転婆娘が俺に求婚など何と心臓の悪い冗談を。」
「う……やっぱり、嫌でしたか……?」
先までの勢いなど何処かへ行ってしまい、眉を下げてそれはもう寂しそうな、いや泣きそうな表情を浮かべる。
「あのですね、」
「分かりました、女に二言はありません!もうそういう話はしませんから……絶対にしませんから……。」
「勝手に話を終わらせないで頂きたいんですが。」
やれやれ、誰が彼女にそうさせろと言ったかは知らんが、これでは俺の立場が宜しくない。
「その気持ちに嘘偽りはないんですね?」
「あ、ありません……本当に、法正さんが好きで………す。」
「ならそう言う事、貴女から言わないで欲しいですね。」
「それはどういう………っ。」
言い終わる前にその長い髪に指を通して後頭部を胸に引き寄せれば、案の定彼女は驚いて身体が固まってしまった。抱き締めると同時に花のような甘い匂いが鼻について不思議と心が安らぐ。
「大事な話ですので、一度しか言いません。…くれぐれも聞き逃さぬよう。」
「へ………?」
彼女が言った言葉をそのまま耳元で低く囁く。
「俺と夫婦になって下さい。」
「……ーーー!!」
ああ、耳が赤いな。
「随分と可愛らしい反応ですが……ああ、それとも俺なんかでは嫌でしたか?」
「ち、ちが………っ、その………。」
「なら全てに報いる劇薬悪党軍師……法考直の申し入れ、受け入れてくれますか。」
「……………は、い。」
火照るその身体を優しく抱けば恥ずかしそうに縮こまる。そうだ、これは俺から言いたかった告白であり、まさか彼女から言ってくるなど想像もつかなかった。
「ああ、貴女に返しておくべき恩がありました。」
「え………何かありました………っけ…。」
ちゅ、と音を立ててその柔らかい唇に口付けを施した。
「……理由はいずれ教えますよ。」
こんな悪党を好いた恩、これから沢山愛して返していきますから。
(これからも共に)