「…………理解出来ん。」
「結構似合っていると思いますよ?……英才とはかけ離れていますけどね。」
「くっ、何故私が囚人をやらねば……。」
目がチカチカする白黒の縞模様、彼は大変不快そうな表情で警察姿のななしを睨んでいた。
「仕方ないじゃないですか……ジャンケンで負けたのは鍾会さんなんですし。」
「む……。」
何故かジャンケンにはめっぽう弱い鍾会、三回勝負で挑むものの呆気無く三連敗してしまう始末。それには流石のななしも苦笑いするしかなかった。
「じゃあ、あまりにも頭が良すぎて違う方向に才能を駆使してしまい、うっかり逮捕されてしまったという事で……。」
「阿呆か。」
「そんなに警察がいいんですか。」
「当然だ、この選ばれし私が正す人間でなくて正される人間になるなど……!」
「もう…子供じゃあるまいし。折角のハロウィンが台無しになってしまいますよ。それとも逮捕されたいですか。」
小道具の手錠を見せれば呆れたように目を逸らして溜息をこぼした。
「フン、そんな紛い物で逮捕など出来るわけ…。」
カチャ
「ん?何だ…。」
手元を見れば、二人の手首に手錠がしっかりとかけられている。
「な…!!馬鹿が!本当にかける奴がいるか!!」
「だって手錠を馬鹿にするから…これで分かりましたよね?」
「分かったから、さっさと外せ…。」
はい、と納得したななしはポケットを探るが、鍵が見当たらない。次第に焦り出すななし、そんな事も知らない鍾会は周りの目を気にしてキョロキョロと見渡している。
「おい、まだか。」
「あの……、その…鍵が見当たらないようで………。」
「はぁ!?よく探したのか!」
「探しましたよ!でも見つからないんです……っ、どうしましょうこのままではずっと………!」
「………まずいぞ、こんな街のど真ん中で……!」
鍾会は顔を赤くしたり青くしたり。
「もしあるとしたら家にある筈です……でも、これから皆と待ち合わせもありますし。」
「どちらにせよこの状態で出る訳にはいかないだろう。一旦戻るぞ。」
「わっ。」
グイ、と引っ張られ思わず躓きそうになるななし。
「くっ、すまん。」
「大丈夫です……けど、気を付けて動かないといけませんね。」
下手をすると恋人繋ぎに見えるこの状況、急ごうとすればする程互いの動きがずれていく。というより鍾会が一方的に焦っている。
「鍾会さん!慌てすぎです……そんなに嫌なんですか!」
「い………っ、嫌に決まっているだろう!しかもよりにもよってお前となど御免被る!」
その言葉に深い意味はないのだろうが、ななしは少しだけ寂しい気持ちになった。ここまで拒絶されては自分も鍵を取りに戻らねばいけない焦燥に駆られてしまう。
すると派手な格好をした女性がこちらを見て駆け付けてきた。恐らく鍾会の訳ある友人であろう、気まずい思いでその女性を見つめた。その張本人は何やら苦い顔付きだ。
「もう!鍾会さんってば、今日一緒に回るって言ってくれてたじゃない!それなのに他の人といるなんて。」
こちらを見る目は明らかに敵対している目つきだ。こちとらそんな喧嘩を売る気も買う気も毛頭ないのだが、女とは面倒なもので手に入れる為ならばどんな手段も厭わない。
手錠がなければとっくに逃げ出していたのに、我ながら不覚な事をしたと叱咤した。
「な、それはお前が勝手に押し付けてきた約束だろう!私にはそんな気全くない!」
「嘘よ!あの時確かに言ったわ!私と一緒に行きたいって……それともこの女に誑かされてるわけ?」
「あの……私は……。」
「この手錠も何、まさか二人の仲良しさを見せびらかしているの?私の方がこんな女よりずっと綺麗なのに!」
「ああもう黙れ!!」
痺れを切らした鍾会が叫んだ。そして
「そもそも私はお前のような派手派手しい女は嫌でね、付き合うなら地味なななしの方が余程マシだ!」
顔を真っ赤にして睨み付けると、思い切り引っ張られる。
「ちょ、痛いです……って!」
「黙って走れ!」
手錠が手首に食い込んで痛いが、そうも言ってられない程二人は何処までも走り続けた。警察が囚人に振り回される光景というのも珍しいかもしれない。
そんな事を考えている内にいつしか家の前に着き、息を切らした鍾会が一つ咳払い。
「…………さ……先の言葉に、深い意味はないからな。」
「………分かってますよ……私みたいな地味な女子は蚊帳の外ですよね。えっと、それより鍵を……。」
ドアを開けようとしたその時、再び引っ張られしまいそのまま態勢を崩してしまう。しかし倒れ込む先に痛みはなく、彼にしっかりと抱きとめられている。
「………………あの、鍾会さん?」
「まさか気付かないのか……?私の言いたい事分かるだろう!?この鈍感め……!」
そんな事言われても、と困った顔で首を傾げていると、不意にくるりと身体を回転されて
「んっ………!?」
唐突に口付けをされ、驚きのあまり動きが固まってしまった。目を閉じる暇もなく離れると耳まで紅潮させ、髪をくるくる弄りながら押し黙る鍾会の姿。ななしもまた頬を染めて静かに見つめた。
「鍾会……さん……?」
「暫くこのままでいい。」
「え……でも、その……さっきはお前とは御免こうむるって……。」
「そんなの……嘘に決まっているだろう……だから、一緒にいてやらん事もない……くっ、私に恥ずかしい事言わせるな……!」
そっぽを向く彼があまりにも可愛く、思わず笑みを綻ばせるななし。手錠された手で彼の手に絡ませればピクッと上がる肩。
「ええと………トリック・オア・トリート?」
「……は?」
「お菓子くれないと、イタズラしちゃいますよ?」
「………もう受けているだろうが。」
「ふふ……そうでした。」
「私は心が広いからな、たまには貴女がこういった立場でも許しますよ。……来年は私の方が偉い立場だからな、覚えとけ。」
握り返される手から感じる温もり。来年、その言葉に少しだけ安心感を覚えた。彼はまた一緒に参加してくれる。
皆と出会うまで暫くこうしていた二人だった。
(おう!鍾会、囚人すげー似合ってるぞ!)
(ありがとう、ございます(くっ、全然嬉しくない))
(司馬師さんは、肉まんのコスプレ…ですか?)
(あれではまるで肉まんの具材だな)