フランケンとマミー

「…………怖い。」

目の前に聳え立つはフランケンシュタイン、の姿をした賈充。頭に突き刺さるようなネジ、顔に痛々しく縫われた傷、胸を大きく開けさせた衣装、本物と思ってもおかしくないくらいリアルである。

「そうか、そんなに怖いか。」

「皆が見たら本物と間違えてしまいそうですよ………目付きも悪いですし。」

「目付きは元からだ。そういうお前は全身包帯まみれだな。」

「全身包帯じゃなくてマミーと呼んでください……これ巻くのに結構苦労したんですよ?」

賈充の言った通り、包帯を胸から太腿まで纏い、頭と首、腕と脚には軽く巻いた程度である。露出が多少高めではあるが、そんなに気にする程でもない。

ふと、賈充の視線がななしの胸辺りに行く。途端に恥ずかしくなり、目を泳がせるが、

「ああ成程、そうか。」

と勝手に何かを納得し頷いた。

「な、何か私変ですか……?」

「いや、何も。」

「気になるじゃないですか、そんなに見られたら……もしかして巻き損なった箇所があるんでは……!」

己が身体をあちこち見渡すが、何処にもそんな場所は見られない。しかし彼の目は相変わらず向けられたままだ。

「ああ、もどかしいです……!いっそ教えて下さい!」

「簡単な話だ、着けてないのだろう?」

着けてない、とは何の事か。頭の上を疑問符が飛び交うが、思い当たるフシが全く無い。するとくつくつと喉を鳴らして

「下着を着けてないのだろう……それでは男が困るぞ。」

「…………………は。」



胸に手を当てると、ない。



「…………しまったあああああ!!!!」

「普通巻く地点で気づくだろうに……くく……阿呆め。」

「急いで巻いていたから意識していなかった………!で、でも上だけですし、きっと平気です……!」

賈充は悠々と腕を組んでさてどうだろうな、とプレッシャーをかけてくる。ななしは涙目になりそうながらも負けじと耐え抜く。

「……賈充さんも……揺れとか、気になりますか。」

「他の馬鹿と一緒にするな。」

まるで興味無いように冷たくあしらっているが彼だって男だ。告げたからには意識がゼロというのはまず有り得ない。なるべく動きを小さくして街まで歩く。途中躓きそうになるが、何度も周りを確認して警戒した。

「……………。」

大した事でもなかろうに、そんな姿に笑わずにはいられない賈充だった。










「疲れた………。」

街に着くまで何度辺りを警戒したのだろう、お陰でハロウィンを楽しむ気持ちなど何処かへ行ってしまった。気にすればするほど包帯が解けていきそうな気がして。

「ああ、こんな事なら聞かなければ良かったです……。」

「お前がどうしても聞きたがっていたから言ったまでだ、こちらに責任を押し付けるな。」

渋々唇を尖らせていると、誰かがこちらに向かって走ってくる。よく目を凝らせばその姿は獣の姿をしていて。

「…ち……子上か。」

「おお!やっぱりお前らだったか!……というか賈充、すげー似合いすぎて正直怖いわ。」

「そういうお前も色んな意味で似合っている。特にその尻尾がな。」

しかし賈充の次に向けられるは勿論ななしであって。

「ななし、もしかして……。」

まさかバレてしまったのか!と、思わず冷や汗が出る。しかし彼はヘラっと笑って

「それ、ミイラ女か?へぇ、結構色っぽくていいじゃねーか。」

「え………あ、そうですかアハハ……ありがとうございます。」

バレなくて良かった、と心の中で安心すれば、まるでそれを読み取ったかの様な笑みを賈充は浮かべた。勿論それにはななしも複雑な笑みを浮かべるしかない。

と、気を抜いていれば誰かの肩がぶつかり、ななしはうっかり足を挫いてしまう。

「わっ!」

「ななし!?」

昭の叫ぶ声を聞きながら地面に向って倒れる。しかし痛みはなく身体は何かに支えられ、全身に伝わる温もり。恐る恐る目を開ければ地面ではなく、誰かの身体が視界を覆い尽くしている。

漏れる溜息、それはもう呆れ返った賈充で。

「……………あ……。」

「世話の焼ける女だ。」

賈充の背中に腕が回っている所為で、完全に密着した体勢。となると、必然的に胸は彼に当たっている訳で。

「ほう……これは想定外だった。」

「ばっ、ばばば……ばっ!!!」

「おい、大丈夫かななし。」

昭の言葉も聞こえない程に羞恥に震え、頭は真っ白になる。
しかしななしが離れようにも賈充は何故かそれを許してくれない。昭から見えない死角にてがっちり固定され身動き一つ取れないのだ。

愉しんでいる、彼はこの状況を大いに愉しんでいる。ななしが一番焦る行為を嗜んでいる、この鬼畜男は。

「ん、どうしたななし。全然動かなくなってるけど、何処か痛むのか。」

事情を知らない昭は何気なく聞いてくる。

「くく……どうやら勢いあまって俺に倒れこんだ所為でいきなりは動けぬらしい。それを機に運悪く足も挫いたみたいでな……。」

腰をさり気なく撫でる手に思わず背筋がゾクリとする。そういうのが苦手と分かっていて彼は態と触れている。耐えるべく声を押さえ、唇を強く噛み締めた。

「そうか……じゃあ賈充、ななしを見てやってくれ。これからどうしても行かなきゃいけない所があるんだよ……ああ、めんどくせー。」

言われなくともそのつもりだ、と笑みを浮かべてその背を見送る賈充。用がある以上引き止めるわけにはいかないが、願わくば助けて欲しかった。見ることも叶わずすっかり消える昭の気配。

「どうした、声も出ない程痛いのか。それとも気になる事があるが言えない程恥ずかしいのか……。」

包帯越しに触れ合う肌がやけに熱っぽく、どうにも出来ない位に心臓が煩く波打った。加えて耳元で色っぽく囁かれてしまうと無意識に腰が砕けてしまう。

諦めて身体の力を抜けば、抱き締められる全身。その抱く力強さに堪らず短い声を漏らしたが、抵抗せずに素直に委ねた。

「意地悪ですよ………まだトリックオアトリートも言っていないのに。」

「どうせ菓子など持っておらんのだろう……?なら、言わずとも俺はそうするな。」

「うう…………。」

「そうだな、なんならその包帯をゆっくりと解いてじっくりと愛でてやる……。」

夜の悪戯が楽しみだと呟いて、賈充はななしの額に口付けを落とした。




(そんな姿をされては俺の理性が持たん)