「法正様、宜しければこれを受け取ってくださいませ!」
「私も気持ちを込めて作りました。どうか受け取ってください。」
朝からやけに群がる女達は、普段見せることの無い色っぽい表情を法正に見せる。話を聞いたところ、どうやら今日は女が男に贈り物をする特別な日らしい。こういった行為は滅多にない為、皆が長い間溜めていた思いをぶつけるのがまさしく今。その贈り物を受け取れば二人は末永く結ばれるとか、ななしはその光景を影で見ていた。
「今日はそんな特別な日だったんだ……凄いなぁ。」
「ななし様は好意の持つ御方はいないのですか?」
「私は……、そうね……いないです。」
女中はそうですか、と少し残念そうにその光景を同じく眺める。
「てっきり私は法正様が好きではと思っていたのですが。」
その言葉にはっと振り向けば、彼女は微笑みながらななしの手をそっと取る。
「見ていれば分かります、彼を見るその瞳は切ない程に恋情を抱いている……だからこそ、負けてはいけませんよ。」
「……何ともお恥ずかしい話です、ですが……そうですね、是非とも何か贈りたいです。」
私達は彼への贈り物を何にするか考える。手作りが一番心がこもるという事でまずは町へ行って見る事にした。
「……………。」
「なんと………。」
外は突然の豪雨でとても外に出れる状況ではない。二人で呆然と立ち尽くすしかなかった。
「屋敷内の物で何かあるでしょうか……。」
女中が早足で部屋に行き材料になりそうな物を探すが、めぼしい物は何一つ見つからない。
「困りました……これではもう…。」
「諦めてはいけません、別の方法を……。」
困り果てるななしを見て彼女は何かを思い付く。そしてななしの腕を掴み真剣な眼差しを向けた。
「え…!?」
「そうです、物でなくとも貴女をあげるという素晴らしい方法があるではないですか!それが手っ取り早いですね!」
衝撃的な言葉に素っ頓狂な声を漏らす。何を言い出すかと思ったら自分をあげるというなんとも無謀な発想だ。当然受け入れる筈がない。
「待って早まらないでください!法正様は私なんて欲しくないに決まってます!」
「いえ、物は試しでございます。やってみましょう。」
ますますやる気を見せる女中に、ますます顔が青ざめていくななしであった。
「………これはどういった事で。」
顔をひたすら隠し、後ずさりをしようと必死なななし。しかし女中はそんな事構わず前へ前へと押し出す。そんな二人に思わず苦笑いする法正。
「夜分遅くに申し訳ありません。法正様、差し上げたい物がありましてここにお呼び致しました。」
「ああ…今日は特別な日ですからね、群がる女には参りましたよ。こんな悪党の何処がいいんだか……貴女も俺に何かあるんですか?」
「私ではなく……!」
「ななし様、腹を括ってください。これも全ては貴女様のためです。」
泣きそうな顔で訴えようと効果は全くない。もしそこに穴があったら全力で入りたい、そんな絶望的な気分だった。
「はい、率直に申し上げますとななし様自身を差し上げたいという事です。」
「ほう………。」
流石の法正も目を丸くした。これで終わった、目を閉じて視界を塞いだ。
「………では遠慮無く貰いましょうか。」
塞がらない耳に幻聴が聞こえた。
「やりましたよななし様!!」
「いえ、気のせいです……何も聞こえません……。」
すると耳元で彼の低い声がした。驚いてばちっと目を開けると目の前に法正の顔が。
「あ…………。」
「正直言わせてもらいます。
遅い、俺はこの日よりずっと前から待っていたんですが。」
法正はななしの腕を引っ張って自分の所に寄せた。緊張の為更に身体が強ばってしまう。
「そんな……夢ですよね、こんな魅力のない私が法正様に抱かれているはずないです。」
「何故そういう風に自分を卑下する、夢でも何でもないですよ。いっそ試しに頬を引っ張って差し上げましょうか。」
この低重音の声は卑怯だ、全身が溶けてなくなってしまう位の威力である。息が僅かに耳にかかってそれもより一層気持ちを高ぶらせる。精神的に良い意味で死にそうだった。
「ななし様、貴女の想いはとうの前から法正様に届いていたんですね。」
「……嬉しいです、あまりの嬉しさに死んでしまいそうです。」
「そうやって素直になれ……。
後、この恩はそうですね……たっぷりと返します、勿論これから。」
宜しくお願い致します、と嬉しそうに頭を深々と下げる女中。そして法正の腕の中で顔を真っ赤にし、金魚が必死に空気を求めるような口をするななしであった。
(いつからななし様を思っていたのですか?)
(一目見た時からだ。いっそ俺から近付いても良かったんですが、何せこんな性格だからな…一目散に逃げていきそうで)
(思えば今日皆様から貰った贈り物は…)
(ああ、全部貰ってませんよ。恩返しは一人で十分だ)
(結構一途ですね……)